「マンガ読むなら、果物食べる?」
僕が中学生の頃、期末試験中に起こった事件です。
夕飯のあと、僕は学生らしく自分の部屋で試験勉強を始めました。一時間ぐらいたった頃でしょうか。ひとつの教科の勉強が終わり、少し休憩しようと、はまっていた、大友克洋の『AKIRA』に手を伸ばしたとき、
「マンガ読むなら、果物食べる?」とどこからともなく、母親の声が聞こえてきたのです。
しかし、部屋のドアは閉まっています。まさか! と思い、窓の外を見てみますが、母親の姿はありません。母親の生き霊か何かの心霊現象なのでは!? と怖くなった僕は、無視して『AKIRA』を手に取りました。
すると再び、「マンガ読むなら果物食べようよ〜」という声が。僕は、怯えながらも再び周囲を見回し、声の主を探しました。
ドアのほうに目を向けると、何か視線を感じます。目を凝らして、あたりを満遍なく見渡すと、なんと、ドアと床の三センチほどの隙間から、母親が部屋を覗いていたのです。狭い隙間から僕を見ている母親と目が合ったときは、一瞬心臓が止まるぐらいびっくりしました。
そのとき言葉では、「果物用意できたら声かけてね」と返事をしましたが、心では「ババァ、ノックしろよ!」と叫んでいました。
それからというもの、僕は自分の部屋に入ったら、布団でその隙間を埋めるようになりました。
(簑和田裕介 東京都・男性・32歳「タマフル」ディレクター)
✔️ライムスター宇多丸による書き下ろしコメント
このエピソードは当番組ディレクター、Dキモチワルイこと簑和田くんの逸話で、このコーナーの記念すべき第一回目に、パイロット版的に発表されたものです。
この企画を始めるにあたってひとつ懸念していたのは、結局「自室で優雅にハッスルタイム!と思ったら、お母さんに見つかっちゃった」的なネタばかりになってしまって、投稿のバリエーションがあまり広がらないんじゃないか、ということでした。でも、この話なんか、「勉強の合間に『AKIRA』を読む」という、それ自体は後ろめたくもなんともないはずの行為なのに......ってことですもんね。こういう感じもアリなら意外とイケるかも!という感触を、初回にしてつかむことができたのはとても良かったと思います。
「声はすれども姿は見えず、視線を落としてみると......ギャーッ!」という描写の流れ、さすが当番組のディレクターだけあって映画的で素晴らしいですけども、それ以上に、お母さんの行動が異常すぎだよ! 完全にサイコホラー!
愛情ゆえの過保護が、常識の一線を越え狂気へと踏み込んでゆく、まさにその瞬間を捉えた名篇と言えるでしょう。
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生きとし生けるもの、みんなお母さんから生まれてきた。
しかし、 奴らはその事実を笠に着て我々のプライバシーにずかずかと踏み込んでくる。
たのむ、たのむから……「ババァ、ノックしろよ!」
母性という名の無神経、通称、「母(ハハ)シズム」を、いま、告発しよう。