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“根付く”ということ
11/2 18:00
豪雨の中、四谷のホテルに戻り、ため息をついた。
すごい試合だった。なぜか観ていただけの自分も疲労がすごい。
名古屋のあのチャントかっこよすぎだろ。頭から離れない。だれかを誘って飯でも行こうと思ってたけど全くそんな気にならない。負けて落ち込んでいるとかそんな単純なことではなくて、どこか清々しい気持ちもありつつ、どっと疲れが来た。
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“決勝戦”という舞台に行くのはプロに限っては初めてだった。
中立地、それも国立競技場での試合は、お互いのチームのファンが同じくらい入っているという点でも普段のリーグ戦とは異なっている。
行く前はアルビがついに決勝か〜なんて浮かれた気分だったが、現地に(遅刻気味で)着いたときのスタジアムの緊張感は、勝たなければ何も残らないという残酷な現実を突きつけているかのようだった。
普段は手拍子とかするくらいだけど、今日に限っては選手紹介でちゃんと声出したし、選手入場の時のタオマフもいつもより高く掲げた。
前半が終わり、アルビは0−2でビハインドの展開。
サッカーでは2−0で勝っていても油断できないなんて言うが、実際にそこから逆転するのは2%ほどにしか満たないらしい。実際、攻守が一体となっているこのスポーツで失点せずに2点差をひっくり返すことは遥かに厳しい。
だが、新潟の選手はおろか、サポーターの誰もが、そして自分もそんなことは思っていなかった。
一点を追いついて迎えた後半ロスタイム。ペナ内で少し長くなったボールに小見が先に触り倒される。
騒然となるスタジアム。主審は笛を吹いていないが、インカムを抑えながらプレーの再開を制止する。
やがてOFRの文字。隣の夫婦の奥さんも理解が追いついてない。
会場に映し出されるリプレイ映像。一斉にアルビサポが立ち上がる。PKだろ!
間もなく主審がピッチに戻る。サッカーファンなら幾度となく観たことのあるジェスチャーからペナルティスポットを指差す。ゴールかの如く湧き上がるアルビサポ。いや待て、でもまだゴールではない。
相手のGKは今季を最後に退団を表明しているランゲラック。名古屋サポは祈るかのように彼らの英雄の名前をコールする。このPKを彼が止めて幕切れ。それは一つのストーリーとしては完璧なのかもしれない。そんな邪な気持ちが脳裏をかすめた。
そんな心配をよそに、小見が完璧にゴールネットへ突き刺した。
自分を含めたアルビサポ全員の言葉にならない大歓声。ハイタッチ。やがてゴール裏からメイン、バックへ徐々に歌声が響き渡る。ア・イ・シ・テ・ル ニイガタ!大合唱は国立競技場を包み込み、まるで新潟のホームゲームかのように錯覚させた。
これだよこれ。
サッカーのおもしろさって?戦術とか技術とか選手個人とかグループ全体とか。それもそうだけど。
ゴールしたときの喜び、カタルシス、この一点にその場の全員が歓喜し、落ち込む。間違いなくこれこそがこのスポーツの本質だ。
ボールがあのネットの中に入るかどうかで世界が変わる。そんな幻想を抱けることこそがサッカーなんだ。
最後のPK戦。
小さい男の子も、お母さんも、隣で真剣に試合見てた男の人も、若い夫婦も、なんでみんなスポーツにあんな夢中になるの?なんてこと言ってた彼女も、長年アルビ見てそうなおじさんも、自分も。
誰もが固唾をのんで祈ってた。この試合は2%の中の1つになる価値がある。それを疑う人はいなかった。
しかし、無情にもこの試合最後に歓喜したのは名古屋グランパスだった。
ラ・マシアに長年携わってきた人物が監督に就任すると聞いた2020年。
楽しみよりも不安が勝った。
自分はバルセロナが欧州では一番好きなクラブで、その路線で行くこと自体は喜ばしいはずなのだが現実味がなかった。
過去、何度かボールを握るスタイルにチャレンジしては低迷した過去がある。
そのたびに堅守速攻?のようなスタイルへ原点回帰して今のアルビがあるからだ。
サポーターだって自陣ゴール前でボールを回すようなスタイルに耐えられない。
自分の親なんてバックパスしただけでブーブー言い出す。それは決してマイノリティではないはずだ。
しかし、紆余曲折の後にJ2→J1への昇格もありながらこのチームは愚直に今のスタイルを継続してきた。
今までと違うのは結果だ。
J2からの昇格も、J1初年度の10位も"悪くない"。
だからこそ、この決勝に勝てば、今のスタイルを確立できる。
ギリシャだって、ユーロ2004の優勝があったから守備的なスタイルを確立した。
アルビのような地方クラブが今のスタイルを深く未来まで根付かせるには"優勝"という結果がなければいけない。そんなことを試合前は考えていた。
前半、名古屋のマンツーマンプレスをGKのプラスワンを巧みに使い外し、前進した場面。
興奮してサポーターたちが立ち上がり、大声援を送る。ゴールしたかのように。そしてアルビレックスコールが始まる。
それでいいんだ!いつも通りやろう!そんな声が聞こえてくるかのよう。
1点目の失点シーン。アルビのGK阿部航斗からのパスがズレてしまいそのまま決められてしまう。
失点にまさに“直結”してしまったプレーだが、周りのサポーターで彼を責めるような人はいなかった。これはこのチーム、このスタイルをやる以上避けられない"リスク"であり、"彼の"失点ではない。全員がそれを理解していた。
その後の”アイシテルニイガタ”で、彼の、チームの背中を押すサポーターの姿こそ、アルベルトが意味していたことなんだと思う。
サポーターの皆さん、アルビレックス新潟のプレースタイルを決めるのは、クラブではありません。
〈中略〉
プレースタイルを決める、そして守る役割を担っているのは、サポーターの皆さんです。
ホテルでゆっくりしていると、友達のアルビサポから打ち上げをやっているので来ない?とメッセージ。
行く。と即レスして電車を調べる。さっきまで気分じゃないとかうだうだ言ってたくせに。
負けたら何も残らない、なんてのは嘘だったな。
むしろ、手に入らなかったのはトロフィーという"記録"だけだ。
他のものは手に入った。
いや、すでにいつからか"手に入っていた"ことを確認したんだ。
サッカーが、アルビが好きだ。
またいつかきっと、この舞台に戻ってこれるはず。