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О先生のこと


先日、かかりつけ医(耳鼻咽喉科)で長男の定期受診があり、入所先の職員さんが2人で、地元に連れて来てくれた。長男が暮らす園はしっかりした医療があるが、在宅時にかかりつけだった病院の受診には連れてきてもらえる。入所者1人に職員2人(運転他のための介護士と吸引など医療行為のための看護師)が付いて、高速道で片道30分かかるのにつれて来てくれるなんてと、とても驚いたものだった。

受診が終わり、もうお腹もすいている時間だしあとは会計だけなので、職員さんの拘束時間も短くしたいし、連れて帰ってもらった。番号が点灯するのを待っていたら「〇〇くんのお母さんですよね」と声を掛けられた。
長男と一緒に通った小学校の担任のО先生だった。1年生のときの担任で、
あれから29年たつがひと目でわかった。
当時、長男のクラス担任を1年受け持ったあとは定年退職、ということだった。スポーツマンで、血色のいいおじいちゃんに見えた(すいません、若僧だったのでそう見えてしまいました。今は私も同じお年頃になりました)。


まわりの方々に応援いただき、いろんな意味で周囲を騒がせての母子通学だったが、O先生は、まったく自然に、当たり前のように受け入れてくださった。長男に対しても、くっついている私に対しても、流れるようになんのこだわりも感じさせない。

今でもありありと思い出すのは、入学式当日のこと。
私は思いっきり緊張していたが、それを押し隠しながらちょっと武者震いしていた。バギーに長男を乗せて、校舎に入る。
当時、バギーで式に出席ができないということだった(なんでだったろう?)。私がおぶって出ることになるとばかり思っていたら、なんとO先生が私のおんぶヒモで、おんぶしてくださった。背広の上からおんぶしている姿があまりにもありがたくて、やっぱり頑張って学校に来てよかったと涙が出た。

背広で長男をおんぶして、O先生は新入生の列に並んだ。
担任が児童をおんぶして式に臨む。こんなことを他の先生ができただろうか。時がたてばたつほど、O先生のこの行動が信じがたいくらいに尊くありがたい。
その1年で教職を去るということが、先生の心に余裕を生んだのか?
いや、あと10年あったとしても、O先生は同じことをしてくださったと思う。不自然さの1ミリもない佇まい。
まわりから少なからず反対意見もあったはずだと思うと、今更ながら頭が下がる。
この年の校内スキー大会では、またまた長男をおんぶして、クロカンスキーを履いて、参加してくださった。
長男は、先生の背中からどんな景色を見ていたのだろう。
晴れた雪上で風を切りつつ、先生の背中は温かく、さぞかし心地よかったに違いない。


O先生はおんぶが好きなのか?と思うくらい、たびたび長男をおんぶしてくださった。行事があるごとに「バギーでは参加できないが、どうしますか?」などといちいち私に訊かなかったのだ。
小学校では「出来ない理由」ばかり言われた気がするが、O先生はそういう場合を極力減らしてくれていたのだ・・・自分が長男をおんぶすることで。
今思い出しながら書いていて、心がじーんと熱くなる。


また来月、同じように長男が受診のためにやってくる。私は病院で彼らと合流する。まさかとは思うが、そこでO先生にお会いできるといいなとかすかに期待している。まあ、病院で会うのを期待するのもどうかと思うが。
夫からの情報によれば、ゴルフ練習場で何度かお見かけしているらしいから、お元気はお元気なのかなーと、少し安心したのだった。



おしまい




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