酒に飲まれてトイレに喰われる
娘が小学校6年生の時、町内こども会の役員をした。年度末、何かの要望を町内会に持って行って、お歴々にご挨拶の意味もあり、会の打ち上げに出席した。
私はお酒が好きだ。お酒の席の雰囲気が。残念ながら、あまりたくさんは飲めない。でもその打ち上げではおいしい缶チューハイなんかもあって、話も楽しく結構飲んでしまった。
ふわふわしながら帰宅し、しばらくすると気持ち悪くなってきた。その夜は早めの晩御飯のあと私が出かけたので、夫が、長男の着替えや夜の水分などの世話をしていてくれた。でも待ちくたびれて夫は居眠りしていて、そばで長男も横になり大人しくテレビなど見ていた。
しばらくはこのままで大丈夫だなと確認し、娘に「〇〇ちゃん(長男)頼むね」と言い置いてトイレにこもった。
目を開けていると、世界がぐるぐる回る。目を閉じても、頭の中がぐるぐる回る。これはだめだ、しばらく動けないや、とそこで落ち着いて、便器さんと仲良くすることにした。
「おかーさん、大丈夫?」「何かすることある?」娘が心配して何度か声を掛けてくれる。
長丁場を覚悟して落ち着いていても、ぐるぐるしてるから、気持ち悪い。いつ込み上げてもいいように、便座さんを抱っこする。ああつらい。もう調子に乗って飲んじゃいけないな。長男は大人しくしてるけど、大丈夫かな。娘を呼んで、長男に布団掛けてねと頼む。
便座の温かさが幸せで、うつらうつらしてきた時、トイレの灯りが消えた。ああ、確か時間で消えるんだったなと思っていたら、すーっと便器のフタが下りた。便座とフタに頭を挟まれてしまった。
気持ち悪いを通り越して、笑いが出た。トイレに喰われている自分を想像して、最高のアホだなとヨッパライ頭で有頂天になってしまった。だれかに写真を撮ってもらいたいくらいだった。便器に頭を挟まれて怪しく笑うヨッパライショット。
トイレはセンサーで閉まったので、またセンサーでぱっくり開いた。夫はセンサー好きで、古い住まいには不釣り合いなトイレがついているのだった。
そのまま眠ったようだった。1時間くらいしてようやく動けるようになり、部屋にもどると、娘も眠ってしまっていて、長男だけ目をぱちぱちして起きていた。「ごめんね~、お母さん今トイレに喰われててさ」と言い訳して、オムツを替えて、その日は無事終わった。
酒に飲まれてトイレに喰われた夜のお話でした。私はその頃、しっかりしてるお母さんというイメージを持たれていたので、その勘違いをしている夫が、終始ずっと眠っていてくれたのは幸いでした。