めっきらもっきら
長男がいる施設に面会に行ってきた。
相変わらずのポーカーフェイスで、夫が呼んでも目を逸らす。
照れているように見える。
いつものように、歩き回れる広い部屋を予約して
YouTubeで音楽を流しながら、車いすを押す。
家に居た頃、毎晩していたガレージでの散歩が再現する。
夫と交代してふと壁の本棚を見ると、懐かしい背表紙があった。
『めっきらもっきら どおん どん』
(長谷川摂子・作 ふりやなな・画)
子ども達が小さかった頃、毎晩、読み聞かせをしていた。
保育園のとき毎月、福音館の絵本を購読していたのだった。
『めっきらもっきら どおん どん』は、何度もリクエストされて読み、
その語感が記憶に焼き付いている。
夫も「ああ、よく読んでたよねぇ」と、憶えているようだ。
ちんぷく まんぷく
あっぺらこの きんぴらこ
じょんがら ぴこたこ
めっきら もっきら どおん どん!
かんたのデタラメな歌を聞いて、愉快な妖怪たちがやってくる。
この歌を唱えていたら、車いすでポーカーフェイスを決め込んでいた長男が、にやっと口角をゆるませた。
何か声を出したそうに、喉をくつくつ、鳴らしている。
もう30年前くらいになるけど、憶えていたんだね~。
馴染みの絵本は、大人になってからも、安心できる場所にいた記憶を運んできてくれると思う。
あんなに毎晩毎晩、わいわいと、ある日は寝落ちしながら、読み聞かせたのに。大きくなってからの子どもたちは全然本は読まないし、作文もきらいだし、なんだかなぁ、なんて思ったこともあったけど。
ちゃーんと、記憶に保管されてて、灯りの場所になっていた。
ほかならぬ長男がそれを気づかせてくれたのが、とても嬉しかった。