「続かない」の続き 2
小さな村の中学校。達夫のクラスは自習時間だった。
もちろん、誰も真面目に学習してはいない。
雑談や、黒板に落書き、教室のうしろで卓球をしたり。
がやがやと騒がしい。
しかしそんな中、達夫たち3人の仲間は、珍しく自分の席につき
鉛筆を削っている。
削り終わると鉛筆は放り出して、削り屑を集め始めた。
3人がそれを持ちよって、片手1杯ほどになったものを
おもむろに、教壇のすぐ前にある節穴にパラパラと落とし始めた。
節穴のすぐ隣には、弘の席があるが、弘は何も気づかずにノートに落書きをしている。
しばらくすると、教室の後ろの引き戸がガラリと開けられ
「だれだっ、こういうことをする奴は!」と田所先生の大声が響いた。
田所先生はチリトリを持っていて、そこに鉛筆の削り屑が集められていた。
教室は、水を打ったように静まり返った。
田所先生はつかつかと教壇に近づき、そのとき、足元に節穴と
その近辺に散らばった削り屑を見つけた。
「お前か、このバカモンが!」
田所先生は、弘を立ち上がらせて、肩を小突いて怒声を浴びせた。
「おれじゃない、おれじゃありません」
弘は怯えた目で、小さな声で答えた。
田所先生は今、階下の教室で授業中だった。
そこへ天井からパラパラと削り屑が降ってきた。
天井の節穴から落ちてきたから見当をつけたら、2階の教室の弘の席だったのだ。
弘は気が弱く、いつも仲間に置いてきぼりを食らったり
運動もヘタだし、勉強もやっとこついてきている。
どちらかといえば、嫌がらせやからかいの対象になりやすい。
今日も達夫たちの餌食になるところだった。
しかし田所先生は、普段から弘は悪さをする子ではないと知っていた。
おっとりのんびり屋の弘には、考えもつかないだろう。
そしてそういうことをするのは・・・
「田中達夫!おまえか!その鉛筆とナイフを持って出てこい!」
達夫は肩をすくめ、あとの2人も連行しながら、前に出ていった。
田所先生は階下の教室の、2級下のクラスの担任だった。
森山りさ子はここにいて、達夫たち上級生を敬遠していた。
達夫たちのクラスは全体的に成績こそよかったが
いたずらばかりして友だちを困らせ、先生たちに目を付けられていた。
喧嘩やもめごとが何よりも嫌いなりさ子は、関わらないようにしていた。
先日も、音楽担当の教師を泣かせたばかりだ。隣町の教会から来ている女性教師である。
小さな村には似つかわしくない綺麗な色のワンピースを着て、首には十字架のペンダントをかけている。
結婚が噂されたときなど、すぐさま黒板に相合傘を描いてははやし立てた。
テストをすれば、讃美歌の歌い始めと終わりしか覚えていない。
何をしても先生は小鳥のように怒るから、ますます面白がる。
りさ子には先生の可愛い怒りでさえも、そんな噂は聞いていられない。
その心の中の悲しみを想像してしまうのだった。
〈続く!〉
*くまさんが、イラストを描いてくださいました!
すこしほわんとした、脳みそが芸術的状態のときに閃いて、
岡本太郎のようにババッ!と一気に描いてくれたのです
多分(笑)
くまさん、ありがとうございます!
キャラクターが生き生きと感じてきました。
おかげさまで、(3)が書けましたよっ!✨
(3月29日記)
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