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なんにもない なんにもない

なんにもない なんにもない 
まったく なんにもない
生まれた 生まれた なにが生まれた
星がひとつ 暗い宇宙に 生まれた
星には夜があり そして朝が訪れた
なんにもない 大地に 
ただ風が吹いてた

「やつらの足音のバラード」
作詞 園山俊二
  作曲 かまやつひろし

何にもない何にもないまったく何にもない。
今日はそんな日だ。
テレビアニメ「はじめ人間ギャートルズ」(1974年)のエンディング曲。
私は昔からこの曲に惹かれる。

何にもないこんな日は、ギャートルズみたいに嬉しい。
ただ風が吹いている大地につっ立って遠くを眺めているような気がする。


結婚する少し前、初夏の夕方、夫と田んぼ道を歩いていた。
道のそばに、低くも高くもない、太くも細くもない
葉がちょうどよく茂って風通し良さそうな樹が立っていた。
涼しい風にさわさわと吹かれて、見ているこちらも気分がいい。

「こんな樹になりたいなぁ」
私が言うと、夫はショックを受けたように
「そんな悲しいこと言わないでよ」と言った。

私はその言葉にショックを受けた。
樹になりたいと思うのは、悲しいことなのか?
私はこんな樹になれたら、いいな、幸せそうだなと思ったのに。

いろいろとそういうことは、これからもたくさん発見するんだろうな。
夫婦って、結婚する前は自分にないものに惹かれるのに、結婚したとたんに、自分にないものに違和感をあらわにする。
まったく、ご苦労さまなことだ。
それをすり合わせていくのが、長年一緒にいることの意味なのか。
結構な修行だ。
しっかりと支える愛情がなければ出来る事じゃないだろうなぁ。
それも、最初の頼りなさから、徐々に徐々に、分厚く逞しくなっていくのだろう。

「よくまあ、37年も一緒にいたもんだよねぇ」なんて話になる。
「妥協だよね」と言って、お互い笑う。
愛ある妥協だね。


先日、長男の面会に行くドライブ中、夫が
「清原なんとかさんって、若い女優さんがいるだろ?
あの人がね、生まれ変わったら樹になりたいって、言ってたんだよ!」
と、さも意外なように言う。
そのあとすぐトンネルに入ったから、理由は聞こえなかったと、残念がっていた。
私も知りたかった、清原さんの理由。

「ほらぁ~、いるんだよ、樹になりたい人!
なりたいんだからね。前向きなんだよ」
37年前の応戦をする。

だって、樹はいいよ。
そこに立っていたらいいし。
水も栄養もちゅうちゅう吸い上げたらいいし。
鳥とか虫とか来て面白そうだし。
夏は涼しそうだし、冬はあったかそうだし←?
(これはまったくの妄想。オイラだって何気に大変なんだかんな!って樹から怒られそう)

「つまり、動きたくないわけだ」と笑われた。
「うん、樹になって、一日、漢字ナンクロしてるんだ」

もう、なんでもアリ。



そして、今日はそんな日だ。
樹になったつもりの日。
こころゆくまで、漢字ナンクロしたいなぁ!

でも人間としては、樹になる状態は体によくないから
朝のうちに30分、歩いておいたんだい(笑)

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