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もともとなんです

今から7,8年くらい前のこと。
夫の職場から「〇〇さん(夫)が具合悪くなって休んでいます。病院に行った方がいいので、迎えに来てください」と電話が入った。

長男はまだデイサービスに行っているし、一応事情を伝えておいてすぐに夫を迎えに行った。

職場は、高齢者の通所介護施設で、簡単な医務室があり、そこのベッドで寝ていた。入浴介助の後、座り込んでしまって、どうも言葉も不確かということ。近くの脳外科へ行くように勧められた。

病院の駐車場から受付まで、何度か休んだり座り込んだりしながらも
なんとか診察室に連れてきた。
しかしこの人、重たいわ。よれよれじゃない。
椅子に座っていても、全力で支えていないと、頭から床にぐわーんと落ちそうになる。
頭って、重いんだなやっぱり、なんてことを考える。
緊急時にはおかしなことが頭をめぐる。

検査の結果は、どうも、軽い脳梗塞状態らしい。
うわ~~、うちにも来たよ!、どうしよう、介護か!?
にーちゃんは短期入所に長期入所させるしかないな!

しかしさいわい、入院は1週間で済み、後遺症もなく、自宅療養1週間ののち職場復帰できた。
秋口のまだ暑い日に、入浴介助による一過性の脳梗塞になっていたらしい。

退院後は通院が始まり、それもすぐに間があいてきて、2か月後、半年後と、間遠になった。「ものわすれ外来」という診療科で診てもらい、薬が定期的に処方され、2年ほどたって、もう通院は不要となった。

その間、何度か記憶や認知のテストなどがあって、それをとても嫌がった。
「あーいうの苦手なんだよ。絶対間違える。そうすると薬が増やされる気がするから行きたくない」
私は、「行かなくていいよ。忘れたり間違えるのはお父さん、もともとそうなんだから、つまり元通りってことだよ」
元通りの人に認知症の薬を飲ませたくなかったので、そう励まし?た。

それから何か月か経過して、また職場から電話がきた。
夫の上司から、ちょっと相談があるという。1人で行くと、

「仕事中のもの忘れがちょっと不安なんです。できたら、また診察を受けていただきたい。ご本人は行きたがらないので、奥さんからも言ってもらえないか」

この上司の方、あまりに心配性で細かいと夫からも聞いていた。
夫は、介護士としては多分、大雑把なほうなんだろう。長男の世話を見ていて思う。

一番困ったのは、前に脳梗塞になった、ということだけで
何につけてもそれを理由にされたり、過度に心配されることだった。
「あなたは、前に脳梗塞やってるし」と、ちょっとした忘れものでもそこを起点に考えられるのが本人も不愉快だったし、私も腹立たしかった。

この人は、もともと忘れんぼなんです!これが普通なのでご心配なく。

だから、相談のときにあれこれ「忘れる」という事例をあげられても
「うーん、いつもそうなんです。昔からです」と、くり返すしかなかった。さぞかし、上司の人は当てが外れただろう。
だめだこの奥さん。夫以上に心配かも、なんて。

夫はいつものように出勤し、帰って来てはいつものように「細かいこと言われたよ」と愚痴を言いつつ、ちゃんと何事もなく業務をこなしていた。

一昨年、定年になったが、パートとして今もまだ同じ職場で働いている。
忘れんぼも健在。

この忘れんぼに、若い頃は「世界で一番私をイライラさせる男」と折り紙を付けていたが、35年近く一緒にいたら、とても楽になっているのだった。

私も忘れんぼ2号になったので、「お互いさま」のゆる〜い、まる〜い、関係ができたんだなあと思う。

年月はありがたいなあ。



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