微笑みが咲き、想いが実りますように
エチゴビール、2023年最初の新商品「林檎とハーブの微笑みエール」が発売された。僕がエチゴビールの商品開発を請け負うようになって、もう何商品目になるだろう?幸いにもこの白熊シリーズはずっと好評をいただいており、SNSでお客様が楽しんで召し上がっている様子を見るのが楽しく嬉しい。
白熊シリーズを最初に発売したのが2018年のALWAYS A WHITE(2・3回目はALWAYS A WITに商品名変更)で、当初このキャラクターを使用したのは、白ビールだからということと、女性に飲んで欲しいビールなので可愛らしさをアピールしたかったからで、ネーミングは、イギリスのサッカーを愛する人々の間で使用されている慣用句「Once a Blue, Always a Blue (一度青の虜になったら、ずっと青のまま)」からインスピレーションを受けたものだった。そして翌年「ALWAYS」の次は「SOMETIMES BREWS」という流れとなったわけだ。
さらに次の年、2020年に、エチゴビールの主力定番商品ラインナップをフルリニューアル(※)する際、旧定番の「ヴァイツェン」については中身もネーミングも変えて人気の白熊シリーズとしてラインナッップに入れることにした。それが「のんびりふんわり白ビール」だった。
※2020年の主力定番商品リニューアルの経緯はこちらを
少し話が逸れるが、エチゴビールにとってヴァイツェンというビアスタイルは特別な意味がある。創業者がヨーロッパでドイツ人女性と知り合い、1976年に南ドイツのバイエルン州へ行った際に小さなパブレストランで当地の代表的なビアスタイルであるヴァイツェンを飲み、カルチャーショックを受けたことがエチゴビール誕生につながる最初の出来事だったからだ。その時に創業者はヴァイツェンについて「とにかく飲みやすい。これならビールの飲めない日本の女性にも受けそうだ」という感想を持った。つまり、ヴァイツェンを日本の女性に飲ませてみたい、というアイデアが、エチゴビールの始まりでもあり、日本のクラフトビールの始まりでもあったと言って過言ではない。
だから、エチゴビールのヴァイツェンに手を入れるのは、軽々しくできることではないという気持ちもあった。
とは言え、エチゴビールの当時のヴァイツェンが創業者のアイデアを具現化しているとは言い難い状況であり、今のクラフトビールシーン、そしてエチゴビールの課題を考えると、思い切った生まれ変わりが必要だった。そんなことを考える中で決定的な要因となったのが、ヴァイツェンと同様に小麦を使用したビアスタイルの「ALWAYS A WIT」と「SOMETIMES BREWS」が限定販売ながら大好評となったことだった。ヴァイツェンは、女性に飲んでもらえるエチゴビールの定番として、白熊シリーズの本命として、生まれ変わらせることにした。
「のんびりふんわり白ビール」
この商品は、それまでのエチゴビールとも、他のクラフトビールとも大きく異なる側面がある。さらには、先に発売した白熊シリーズ2品とも違う。それは、商品コンセプトであり、ネーミングだ。数あるクラフトビールを見回すと、どこの土地で造ったのか、誰が造ったのか、原材料は何か、ビアスタイルは何か、どんな味か、というビールの造り手側の話とビールそのものの物性を前面に出したネーミングや商品説明がほとんどだ。これに対して、飲み手側にどんな気分で飲んで欲しいのか、というところに軸足を置いているのが当商品の肝。ヴァイツェンであることの説明は最低限に留めた。最近は面白い商品名やデザインのクラフトビールも多くなったが、個性発揮を目論んだそれらの商品と「のんふわ」は異なる。ネーミングもデザインも飲み手側の気分に寄り添った直球だ。際立つことではなく、飲み手側に立つということを大事にしている。
その意図は売場でも理解いただいているみたいで嬉しい。
僕には、エチゴビールとしてではなく、ビール業界歴30年を超えた者として、言ってしまえば大手ビールのOBとしても思うところがある。というのは、最近の大手ビールの商品や広告が、物性、機能性に偏りすぎているように感じるのだ。キリンのハートランドのような素晴らしい情緒価値を持った銘柄、自分で言うのも何だが、ガージェリーのような、飲み手の気持ちに刺さり、さらには生涯にも寄り添うようなブランドを開発して欲しいなと心から思っている。
それはさておき、お陰様で「のんびりふんわり白ビール」はエチゴビールの押しも押されぬ代表商品になった。本来のブランドの象徴であるヤギよりも白熊が前に立ってしまっているのが少し引っかかるが、エチゴビールが1995年に全国第一号地ビールとして営業を開始したことを知らない若い世代にもエチゴビールを認知してもらい、販路を広げる力にもなっている。
そして「のんびりふんわり白ビール」を定番としつつ、「にっこりほっこりブラウンエール」を2021年に限定発売した。このネーミングも「のんふわ」路線にして好評いただいた。また小麦使用ビールの白熊シリーズとは別に、IPAカテゴリーのインド象シリーズも「紅茶香るインディアペールエール」「ホップが躍る晴れ晴れエール」「潤いホップの惚れ惚れエール」と白熊を追い抜く勢いで活躍しているが、商品を開発する上で「のんふわ」に載せた想いを忘れないようにしている。インド象シリーズについてはまたそのうち書きたい。
そして、今年。
このビールは僕にとって、いくつかの重要な意味を持っている。ひとつは、このビールの中身を開発したエチゴビールの若き女性ブルワーがこれからステップアップしていくための大きな一歩にしたいということ。そして「世界中に微笑みが咲き、人々の想いが実り、心が彩られるように…」という想いを込めたコンセプト。商品開発の過程で、「林檎とハーブの微笑みエール」という比較的ストレートなネーミングとは別の、もっと情緒的で詩的な候補もあったが、最終的にそれは商品名ではなく、情報発信のコピーとして使うことにした。
いずれにしても、創業者と同じく、女子を念頭に今のエチゴビールは(いや、ボクか?)前へ進んでいるのである。
今年は、みんなが微笑みの時間を過ごせますように。