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2021年度に観たライブ 後編

2021年度よかったライブについて書いていく話の後編です。前編は下のリンクからどうぞ。

前編では割と遠征ライブが多かったのですが、今回書くのは都内でのライブばかりです。長くなったので少しずつ読んでいただければと思います…。

2021.10.1 
ヨルシカ
『LIVE TOUR 2021 盗作』
東京国際フォーラム

2020年に発売されたアルバム『盗作』のストーリーを基にしたコンセプトライブ。

ヨルシカは2019年のアルバム『だから僕は音楽をやめた』が発売された頃に知り、そのアルバムに込められたストーリーと曲の美しさから興味を持つようになった。同年に出たアルバム『エルマ』とともに構成された『月光』は、まるで演劇を見ているような、他のライブとは違った表現・演出に引き込まれた。

そんな経緯もあって、僕にとってヨルシカには「美しさ」といったイメージを強く持っていたのだけど、アルバム『盗作』はそれを覆す暗さを帯びたものとなっていた。

『盗作』には初回特典として、アルバムのコンセプトを基にした小説が付いているのだけど、この小説の根幹は「心の穴の満たし方」だと考えている。

いろんなものを盗んで心や懐を満たしてきた男は、幼少期に過ごした女性との夏の思い出を宿して生きている。大人になって彼女と再開し結婚するが、彼女は故人となってしまい、心の欠陥は決定的なものになってしまう。小説の中のインタビューで、男はそういうことを淡々と話しているのだ。

それから男は盗作を始め、破滅のような形で心を満たし消えることを望むようになる。

僕自身、常日頃から自分の欠陥を意識してしまっているような人間なので、こういう内容の歌や物語にはやたらと敏感になりがちであった。当時の精神状態がよくなかったのもあって、何度も何度も聴き込んでいた曲が多く、そういう意味でも思い入れは強かった。

肝心のライブは、ただ暗いだけのものではなかった。以前から僕のイメージしていた「盗作」とかなりかけ離れていたと言える。物語における現在の時間軸ではなく、幼少期の夏の思い出に焦点が当てられていた。これは前日譚のようなものなのかなと思う。本編の暗い部分は、アルバムや小説で十分表現しきったという感じなんだろうか。

n-bunaさんの朗読から始まり、『春ひさぎ』でずっしりとスタートしてからの、軽快なドラムカウント→思想犯という流れは最高だった。冒頭にして個人的なピーク。

『思想犯』はアルバムの中でも特に聴き込んだ曲だったので、イントロが始まった瞬間に涙腺が緩んでしまった。10代や20代前半の頃より少し、でも確実に涙脆くなったのを痛感させられる。

n-bunaさんによる曲間の朗読では、「前世」という言葉が頻繁に出てくる。(ちなみにヨルシカは、今年1月に「前世」というタイトルの配信ライブを行っている。)

盗作家の男が夢を見ているかのような、あるいは回想のような形でライブは進んでいき、ラストの『花に亡霊』が終わったあと、現実に戻って終わる。結局、男は彼女(妻)との思い出でしか心を満たせなくなったのかと考えざるを得なかった。

もちろん演奏もすごくよくて、ステージの演出も拘っていてすごかった。レプリカントのモニター映像とか、ライブ終盤の花火や桜の映し方とか。今回の座席は会場のほぼ中央、近すぎず遠すぎないステージ全体がよく見える所で、その演出効果を存分に楽しめる位置だった。

そして何といってもsuisさんの歌が美しい。低音も丁寧に歌うのが魅力的だな。曲によっては不安定そうな感情さえも表現しているようで、本当に雰囲気づくりがうまいと思う。

ライブのセットリストそのものは、「現実から夢へ、そしてまた現実に戻る」という形で考えると、自分の中でかなりしっくりくることに気付いた。

『春ひさぎ』~『強盗と花束』まではハッキリとした現実、『昼鳶』~『花人局』のあいだで徐々に夢へと入っていき、『逃亡』~『嘘月』の部分は完全なる回想。『盗作』から再び現実に戻り、『花に亡霊』で終幕、という風に。

情報が解禁されてからずっと楽しみにしていたライブだったので、本当に来られてよかった。直前に台風が接近していて、中止になったらどうしようと不安だったのだ。内容を咀嚼するのに相当時間がかかったけれど、うまい具合に飲み込めた今、もう一度観たいと思ってしまった。


2021.10.26 
LAMP IN TERREN
『定期公演 SEARCH #033』
渋谷Star lounge

LAMP IN TERRENは、毎月26日に定期ワンマンライブをやっていた。それがこの『SEARCH』だ。

僕がSEARCHに初参戦したのは、同年7月、ちょうど30回目の公演だった。その時もすごくよかったのだけど、この33回目の公演がとても印象深かったので書き記しておくことにする。

渋谷に着いたのは仕事の退勤後。時間があったのでドトールで少し休憩してから、開場へ向かう。スターラウンジは渋谷チェルシーホテルと同じ建物にあるライブハウスだ。大きくて目立つ看板の下にはケバブ屋がある。

メンバーが登場し、挨拶と同時に流れたのは『ほむらの果て』のイントロのピアノ。曲のドロドロさとマッチしたMVも好きな曲である。

『SEARCH』では公演ごとにセットリストのテーマが決められているのだけど、今回のテーマは「鬼畜!ボーカル必死の憂鬱を吹っ飛ばそうセットリストの巻(終演後の公式ツイッターより引用)」。暗い曲が好きな自分にとっては歓喜だった。

『亡霊と影』、『innocence』、『New Clothes』と、大好きな曲がたくさん聴けた。『Is Everything All Right』では無意識に拳が上がり、『凡人ダグ』では仕事帰りのスーツ姿で、我も忘れて踊りまくる。


このライブは、15周年ワンマンライブ2公演の、ちょうど間に行われたものだった。(10月24日にメンバーの地元長崎、11月13日に東京。)

ドラムの川口大喜さんの脱退は、この時点で発表されていた。バンドの今後のことも、当時既に決まっていたのかもしれない。(バンド活動を一旦終了する旨は、15周年ライブが終わった後に、松本大さんのツイキャスでのみ告知している。)

当時はそういう情報を全く知らずにいたのだけど、大さん自身、相当な苦悩を抱えていることが最後のMCから感じ取れた。だからこそ、本編ラストの『ワーカホリック』がとても心に沁みたのだった。

『ワーカホリック』はそのタイトルから想像出来るように、サラリーマンの苦悩が歌詞として書かれている。リズムは軽快だが、曲調はどこか重たい。歌詞もどっぷり憂鬱なのだけど、微かな希望を捨てていない部分もある。

つまらない今日の先にもきっと
思い描いてた日々が待っているから
期待こそしないけど信じるよ
いつまでも憂鬱な夜明け
明日もずっとその先も
愚痴だけは達者なもの
LAMP IN TERREN『ワーカホリック』より

『ワーカホリック』は僕にとって、「暗い前向き」という気持ちをいちばん理想的に表現している曲だと思う。大さんも同じような気持ちだったのだろうか。憂鬱を吹き飛ばすというテーマのセットリストで、そしてバンドや音楽活動について葛藤している現状で、最後にこの曲を持ってきてくれたのがすごく嬉しかった。

2020年に初めて聴いた時から一瞬にして惹かれた曲だけど、この公演のおかげで一層好きになれた。もう生では二度と聴けないのかもしれないけど、自分の中で大切な曲として残り続けるだろう。

同年12月28日、リキッドルームで行われたラストライブもよかった。LAMP IN TERRENとして出せるものを、全部出し切った感がある。そこでの感想は以前の記事に少し書いていたりするので、また読んでもらえればと思います。


2022.1.10 
ハルカトミユキ
『ハルカとミユキ』
新代田FEVER

年が明けて初めてのライブはハルカトミユキだった。

ハルカトミユキはその名の通り、ギター・ボーカルのハルカさん、キーボード・コーラスのミユキさんの2人によるユニットだ。ベースやドラムを加えたバンド編成でのライブもあるけれど、今日はメンバー2人の編成である。

ハルカトミユキは1月から、それまで所属していた事務所を離れて独立することになった。今日はその記念ライブでもある。

FEVERに座席があるのも珍しい。でもハルカトミユキのライブは、座りながらゆったり聴く方が合うな。この日は開場前にラーメン二郎に行っていて、ガッツリ食事して歩いた直後ということもあり、目を閉じてじっくり聴いていたら時々眠気に襲われそうになったけど。

今回は新旧いろんな曲で構成された、幅広いセットリストだった。『mosaic』は2人編成のライブで演るのは初めてらしい。原曲はだいぶロックなので、雰囲気がガラリと変わって面白かった。ピアノの音が豪雨のように重く降り注ぐ。

あとは『ナイフ』が聴けたのもよかった。社会や他人へのやるせなさが募り積もって生まれた毒と、それを消せないとしても前に進もうとする力強さが、歌詞として表現されている。こういう曲が好きで、ハルカトミユキを聴くようになったんだよな。

アンコールはなく、1時間半でサックリ終わる。終演後、物販でファンクラブ入会特典のステッカーをもらったり、ポストカードを買ったりした。ハルカさんとミユキさんも立っていて、直接サインも書いてもらう。


2022.2.27 
真心ブラザーズ
『Usual』
中野サンプラザ

真心ブラザーズは1年に一度、中野サンプラザで「MB's」というフルバンド編成でライブをやっている。コーラスとしてうつみようこさんが参加している他、キーボードにホーンセクションも加わり、総勢10人の豪華な編成だ。

僕は吹奏楽出身ということもあり、ライブで管楽器などがあるとワクワクしてしまう。真心は学生の時から聴いているけど、初めてこのライブを観た時の満足感は半端じゃなかった。今ではすっかり毎年恒例の楽しみとなっている。

しかし、この日はとんでもないミスをやらかす。紙のチケットを、家に忘れてきてしまったのだ。早い時間に中野に着いていたくせに、ラーメンを食べたり喫茶店で呑気に読書をしてたりで、チケットがないのに気付いたのはライブ開場の直前だった。

今から取りに戻ってもスタートに間に合わないので、もう最終手段、当日券を買い直すことにした。また無駄な出費が増えたな。自分が情けなさすぎる…。当日券が残ってただけでも運がよかったと思いたいけど、どうしても自己嫌悪に陥ってしまう。

しかし、ライブ1の曲目、『拝啓、ジョン・レノン』でモヤモヤは一気に吹き飛んだ。真心の中では割と有名な方だけど、去年から特にヘビロテしていた曲だ。

拝啓、ジョン・レノン
僕もあなたも大して変わりはしない
そんな気持ちであなたを見ていたい
どんな人でも僕と大差はないのさ
拝啓、ジョン・レノン
そんな気持ちで世界を見ていたい
雨も雲も太陽も時間も 目一杯感じながら僕は進む
真心ブラザーズ『拝啓、ジョン・レノン』より

僕にとって真心ブラザーズは「自由の象徴」だ。どんなに偉大な人でも自分と大差はない、そういう気持ちで堂々と生きていたい、という思いが込められた歌詞が、心を軽くしてくれる。

それから『All I want to say to you』や『胸を張れ』と、明るい曲が続いた。真心ブラザーズはMCもメチャクチャ面白く、話が長くなると「早く曲やってくれ」という気持ちも忘れて楽しく聞けてしまう。今日はYO-KINGさんのツッコミで爆笑した。

ライブの後半には、桜井秀俊さんが歌う『今しかない後がない』。ライブで初めて聴く曲だ。桜井さんボーカルの曲も、いろいろ聴きたいものばっかりだ。Sugarとかスマイルとか。

『STONE』でメンバーも観客も全員はっちゃけたのち、『愛』と『COSMOS』で本編は終演。アンコールはMB's定番曲の『RELAX~OPEN~ENJOY』、そして『新しい夜明け』だった。まったりしたあとのノリノリナンバー。今年も最高だったな。

チケット買い直したことで、今回は座席が2階になった。中野サンプラザの2階席は初めてだ。ステージ全体が見渡せてストレスがない。7,500円を犠牲によい席をとれたので、これはこれでよかった…?


2022.3.30 
ヨルシカ
『月光 再演』
東京ガーデンシアター

元々これを書く予定はなかったけど、この日はどうしても忘れられないライブになったので加筆する。

半年ぶりのヨルシカ。2019年の『月光』ツアーが、再び開催された。他のライブと一線を画したこのツアーは、「再演」という言葉がマッチしていると思った。以前n-bunaさんが、ツイッターで「月光ツアーはいつか同じ形でもう一度やりたい」という風に呟いていたので、その伏線が回収されることとなる。(現在はn-bunaさんのツイッターアカウントは無いけれど。)

2枚のアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の曲で構成されたコンセプトライブ。僕は当時、2つの公演(大阪と、追加公演の新木場)に行っていたので、これで実質3回目となる。しかし、ライブは2年前より遥かによいものだった。

何より、suisさんの表現力がすごくうまくなっているのがハッキリ分かった。1曲目の『夕凪、某、花惑い』から、その歌声に一瞬で引き込まれる。真夏のような力強さと、夜空のような儚さを、同時に感じることが出来た。

僕は割と前方の席にいたので、時々suisさんの楽しそうな表情が見えた。『藍二乗』は、僕が初めて聴いたヨルシカの曲で、その美しさに一瞬で引き込まれたので思い入れが強い。

モニターの映像やステージの演出も2年前と変化があり、既に月光ライブを観たことのある自分も楽しめた。『雨とカプチーノ』が始まると、雨の滴るカフェテラスをイメージした、窓や扉のセットが下りてくる。前のツアーは比較的中くらいのライブハウスで行われたものなので、再演にあたって大きなホールステージに合わせたものだろう。

ヨルシカのライブはMCが全くなく、時折n-bunaさんによる詩の朗読で曲間が繋がれる。音楽を辞めた青年が、エルマという女性に手紙と詩を送ったその後の一瞬の話。語る言葉は青年のモノローグであり、走馬灯であり、最後の最後で心の底から湧き上がる渇望でもあった。「生まれ変わってでも、僕は君に会いに行かないと。」


最後の曲の途中で、突如アクシデントが起きる。suisさんが倒れてしまった。緊迫した雰囲気によるプレッシャーだろうか。n-bunaさんがすぐさま駆けつけ、メンバーはステージから撤退。ライブは一時中断となった。

定期的に状況確認中とアナウンスが流れ、時間が止まったかのような感覚に陥り不安だった。待ち時間はスマホを見る気にもなれなかった。とにかくsuisさんの体調が心配だったけれど、長い時間を経てメンバーが戻り、公演は再開された。

再開にあたり少しだけ、普段はラジオでしか聞けない、suisさんのゆったりした素の声が生で聞けたのは貴重だったかも。でも、ご本人は相当苦しかったはずだよな。そんな中、『だから僕は音楽をやめた』最後まで歌い切った。最後のシャウトで少し涙ぐむ。2年前を遥かに上回る、素晴らしいライブだった。

翌日がツアー最終日だったのだけど、それも無事に終えられてツアーは完走した。本当によかった。ゆっくりと体を休めてほしい。


コロナの危険と隣り合わせである中、この1年だけでもたくさんの思い出が出来た。行きたいライブに行くことが出来て、本当によかった。

まだまだ事態が収束する兆しは見えないけれど、2022年度も健康第一で、なおかつ生きがいとなる娯楽を糧にして生活していきたいと思う。

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