見出し画像

マイナー作品群から成る残念なパッチワーク:Reach for the Stars

どうしてこうなったんだろう——。

ショーが終わった瞬間、悲しいことに私の中ではその感想しか思い浮かばなかった。

https://www.tokyodisneyresort.jp/treasure/newnightshow/

2024年9月20日からスタートした、東京ディズニーランドの夜の新ナイトショー。
先に観たパークファンたちの感想から「微妙な評価」という印象はあったし、X(旧Twitter)でも全然評判になっていなかった。
でも、良作か駄作かなんて実際に観るまでは分からない。どちらに転ぶかは自分の目で確かめるしかない、とようやく先日ネタバレも動画も何も観ずに鑑賞したんだけれども……。
私は少なくとも、一緒に行った人に誘われない限り観ることはもう二度とないと思う。

ディズニーパークのショーから得られる感動体験を知っているからこそ、こんな感想を抱きたくはなかったし、こんなことを書きたくはなかった。

プロジェクションマッピングについて

「プロジェクションマッピング」というスタイルのショーを開始してから、ディズニーランドではシンデレラ城前でのショーをほとんどやらなくなった。仮に両立させようものなら、設備の設置・撤去などの準備時間や費用的にも難しいので、この点については仕方がない。
私はシンデレラ城前のショーが好きだったので、こうした経緯もあってプロジェクションマッピングはそんなに好きじゃなかった。
ただ、40周年の時に上演していたCelebrate! Tokyo Disneylandには感動したので、久しぶりの後継ショー(Reach for the Stars)にはそれなりに期待をしていた。

ショーの感想

シンデレラ城の真正面(パートナー像の前あたり)から鑑賞。
オリジナルのテーマソングは間違いなく良曲。ファンタズミック!と同様、とても素晴らしい。ただ、肝心の中身に関してはあまりにも微妙だった。

毒にも薬にもならない

ハッキリ言って、このショーは毒にも薬にもならない。良作とは言えないが、駄作とまでは言い切れない。
取り上げられてる作品には私の好きなものが多い。特に『ヘラクレス』は子どもの頃にVHSが擦り切れてダメになるくらい繰り返し何度も観たし、ヘラクレスがこうしてショーへ本格的に参加するのは1997年の夏イベント「ヘラクレス・ザ・ヒーロー」以外、あまり記憶がなかった。新ナイトショーでヘラクレスが出演すると発表された時は、とてもワクワクした。
だからこそ、こんな感想を抱くことになったことは残念で仕方がない。

微妙だと思った点

映像の見せ方

シンデレラ城がただのスクリーンと化してる。
映像からワクワクするような躍動感をあまり感じなかった。シンデレラ城の構造とデザインを生かした演出が全くない訳ではないけれども、「ただ映像をシンデレラ城へ投影しているだけ」というものが多い。
めくるめく見せられる映像の繋ぎ方は決して上手いとは言えず、見せ方がとにかく悪い。そのうえ、シンデレラ城という狭いキャンバスの中に色々と詰め込みすぎてて、画面がごちゃごちゃとしている。
映像以外の、そのほか花火やスモークなどの演出も全体的にしょぼい。15年〜20年前のショーを知ってしまっていると尚更そう感じてしまう。同じプロジェクションマッピングでも、ワンス・アポン・ア・タイムはミッキー(映像ではない)も出演してたし、演出面でも色々と努力が伝わってきた。

ストーリーがほとんどなく、何がしたいのかが分からない

面白い・面白くない以前にReach for the Starsは、このショーを通して何を伝えたいのかが分からないのが問題だ。
Reach for the Starsでは冒頭と終盤にナレーションが入って、そのナレーションでストーリーを説明してくれる。けれど、その設定が中途半端すぎてないにも等しい。
「雲の上のお城」と聞くと、私の頭には真っ先にオリンポスが出てきた。実際、最初のシーンは『ヘラクレス』だった。
けれど、特につながりがあるようには描写されないし、ショーの途中でナレーションやセリフなどによってフォローが入る訳でもない。ストーリーのことなんて中盤まで来れば、鑑賞者のほとんどが忘れ去ってるだろう。

ショーの「ファスト映画」化

ビリーヴ!〜シー・オブ・ドリームスにも同様のことが言えるけど、最近のディズニーはパレード形式以外のショーを開発させるとYouTubeに転がってるようなファスト映画に類似したものをお出ししてくるので困惑する。
Reach for the Starsに関してはストーリーの作り込みの甘さに目を瞑るとしても、「既存作品をつなぎ合わせて作りました!」感をイヤでも感じてしまう。
マイナー作品好きなマニアは喜ぶだろうと言いたいんだろう…が、もしその考えの元でリリースしたなら、その幻想は今すぐにでも捨てるべきだ。

作品の選定基準とショーのテーマ

Reach for the Starsというタイトルからして【空と星】【飛ぶ】がテーマと思われる。
でも、取り上げる作品や場面に関しては「本当にそのテーマをもとに選定したの?」と疑問に思うことが多かった。
色々言いたいことはあるが、主に気になったのは以下の3つ。

・『ミラベルと魔法だらけの家』
好きな作品だけど、なぜルイーサなのか。
確かに彼女の歌のなかには空を飛ぶ演出があるが、ルイーサ自身に空を飛ぶ才能(ギフト)がある訳ではない。
ネタバレ配慮などの事情もあるのかもしれないが、【飛ぶ】にフォーカスするのであれば、作中には蝶の出てくる場面もあるし、もっとより良いシーンが他にもあったはず。主人公・ミラベルにとっての見せ場を切り取って欲しかった。

・『ウィッシュ』
昨年公開されたばかりの作品だが、興行としては決して芳しいとは言えない成績を叩き出しており、日本でも特別ウケたという訳でもない。そんな厳しい状況のなかでも、この作品をチョイスするのかと驚きを感じた。「ウィッシュ〜この願い〜」自体はもちろん悪くない。それでも、知名度と人気を考えれば、他作品で代替した方が良かったと思う。
*フォローしておくとすれば、Reach for the Starsの開発には数年かかってる=映画公開前からショーに組み込んでいるはずなので、その事情を考えると多少の諦めはつく……が、そんな開発サイドの大人の事情は鑑賞者には関わりのない話。

・MCU
大好きだけど、来年1月からのイッツ・ア・スモールワールドwithグルートと絡めたかった(宣伝)ってだけで、それ以上のことは何も伝わってこなかった。
正直なところ、アイアンマンやビフレストの向こうからソーが出現した時は興奮した。東京のパークではこれまで扱ってこなかった待望のMCUコンテンツという意味では感慨深い。けれど、それは「MCU作品への愛着」から感じたものであって、このショーに対する感想ではないと観ながら冷静になってしまった。

ディズニープラスへの加入を促すにしても…

チラ見せしてくる『インサイド・ヘッド2』といい、『あの夏のルカ』といい、Reach for the Starsもビリーヴ!〜シー・オブ・ドリームスもディズニープラスへの加入に誘導したいのかなと思われても仕方がない内容だと思う。

もし、Reach for the Starsの狙いとして「マイナー作品群との出会いの場を創出する」があるとすれば、それも成功しているのか疑問に感じる。マイナー作品のこんな雑なパッチワークを見せられたところで、初見の人には作品の良さなんてほとんど伝わらないからだ。
残念ながら、私は『メリダとおそろしの森』を観たことがなかったけれども、このショーを観て「観たい」という気分にはならなかった。
MCUに関してもアメリカに比べれば、日本では観ている人はそこまで多くはないだろう。地上波で放送していることもあって比較的知名度のある『アイアンマン』ではあるが、果たして、このショーを見て、それ以外のMCU作品を観たいと思ってもらえるのだろうか。少なくともグルートが出演する『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にはもう少しスポットライトを当てるべきだったと思う。

今後のパークのショーに望むこと

近年のオリエンタルランドの株主総会での質疑応答と、パレードやショーの公演回数を削減しているところを見るに、ショーに関して資金を投じる気はあまりないとしか思えない。
ソーシャルディスタンスも廃止、入園者数の上限も増やしており、「コロナ禍」の頃から規制を緩和していることからも「コロナ禍」という理由はもう通用しない。しかし、「コロナ禍」を理由に一度クオリティを引き下げたものはもう二度と元には戻らないのかもしれない。

Reach for the Starsについては何となく「こうしたいんだろう」「やりたいことはあるんだろう」というのは伝わる。けれど、このショーを通じて鑑賞者へ何を届けたいのかが今ひとつ分からない。鑑賞者はただただシンデレラ城に投影される映像と、その周囲に散らされる花火などを観るだけに終始してしまう。
ショーにメッセージ性は必須要素ではないと私は思う。が、このショーからは作り手の情熱や感情、メッセージといったものを受け取ることができなかった。やはり、そういったことを感じさせる何かがないと感動はできないと思う。
マニアの間では「伝説」「最高傑作」と呼ばれるような人気のショーであっても、当然良し悪しについては鑑賞者によって意見が分かれるだろう。「全員を満足させるショー」を作り上げるなんて、土台無理な話だ。ただ、せっかくコストをかけるのであれば、もっと作り手の情熱や感情が伝わってくるような、魅力的なショーを見せて欲しいと私は切に願う。

いいなと思ったら応援しよう!