クリップシネマ『ふふふ』 PHASE Ⅱ
「真夏のモード」
Ⅱ-1-① 熟む、倦む、膿む
○ 真夏の空
青い空。白い雲。
さんさんと照りつける太陽。
○ 裏伊豆の浜辺(昼下がり)
けだるいひととき。
喧騒から離れ、一人で日光浴する由。
読みかけの文庫(「匂いたつ官能の都」)を閉じ、まどろむ。
チェアの下、タオルの陰を毛虫が這っている。
○ 同・沖合
彼方で、夏の光を反射させて過ぎ行く貨物船。
○ 浜辺
陽を浴びて寝そべる、ビキニ姿の由の肢体、または姿態。
汗とローションが滲み、喘ぐような皮膚。
その首筋、胸元、脇腹、太腿…。
すでに毛虫はいない。
熟むような、倦むような、膿むような時間。
Ⅱ-1-② 夏に染まる
○ 広場(夜)
町の夏祭り会場。
屋台や露店を見てまわる、浴衣姿の由と理香。
女性二人連れにあちこちから冷やかしの声がかかる。
由はヨーヨー風船をゲット、理香は大きな綿あめをもらう。
笑顔の二人。
○ 同・片隅
石段に腰かけ、女性たちの様子を窺う長髪の男。
(のちに登場する地元の美術教師、村崎)
タバコに火をつけ、空を見上げる。
○ 夜空
打ち上がる花火。
○ 広場(二人のアップ)
見上げる由と理香の顔が明るく染まる。
と、由の目になぜか涙が浮かぶ。
それを指先でぬぐってやる理香。
微笑返した由が、理香の口元についた綿あめをつまむ。
○ 同・全景
やぐらではじまる勇壮な和太鼓。
Ⅱ-1-③ ノースリーブでダンス
○ カフェバー・店内
まだ外は明るく、客はまばら。
奥のテーブル席でただ一人、カクテルを手にする由。
だらだらと過ぎていく時間。
ノースリーブの腕が妙になまめかしく。
○ 同・入口付近
ドアを開けて入ってくる村崎。
ちらっと奥を見たあと、カウンターへ向かう。
○ 同・店内
ミクスチャー系の音楽が流れだす。
村崎に出された黒ビール。
くわえかけたタバコを置き、それを一気に飲み干す。
その姿を奥からじっと見つめる由。
と両手でリズムを取りながら、おもむろに立ち上がる村崎。
珍妙に体をくねらせつつ由に近づいていく。
目の前まできた彼を見て、苦笑する由。
立ち上がり、ダンスの相手をする。
狭いスペースのなかをいっしょに踊る由と村崎。
Ⅱ-2-① 女体盛りから男体山へ
【このセッションはCGによって構成される】
○ 女体盛り
とある温泉宿。
宴会料理として供されるとびっきりの女体盛り。
魅せられた男どもが競い合うように舐めまわす。
粘液と汗と肉汁にまみれた女体の化け物。
おぞましきまぐあいがはじまる。
○ アナコンダVSアリゲーター
果てしない連鎖の頂点に立つのはどっちか。
沼地で繰り広げられる壮絶なる戦い。
アリゲーターを呑み込んでしまうアナコンダ。
アナコンダの内部を食い尽くそうとするアリゲーター。
○ 男体山
生物は互いに餌となり、やがて糞となっていずれ土となる。
そして土は積もり、隆起して山となる。
男体山とは猛者どもの屍の累積なのか。
遊女たちはいったいどこに隠れているのか。
Ⅱ-2-② たゆたうフェロモン
【このセッションはモーショングラフィックスとして構成される】
○ 赤い糸
繋がっているのか絡まっているのか。
産毛にも五分の魂。
そっとおやすみ
○ 真夏のモード
ゆらゆら。
じとじと。
めらめら。
○ 蜃気楼
とっくに見ているが見たことがない。
まさかを遡る。
いっぺん落ちてみればいい。
Ⅱ-2-③ テレフォン○○○○
【このセッションはSEによって構成される】
○ 殺風景な部屋
落ちた受話器がテーブルの下に垂れている。
(映像はこれだけで、あとは音声のみ)
破裂?
侵入?
悲鳴?
事件?
恋人?
強姦?
嬌声?
転倒?
昇天?
撃退?
逃亡?
避難?
恍惚?
Ⅱ-3-① 鉄とオイルと耳たぶ
○ 間道
ひなびた一本道に大型バイクが停まっている。
修理に努める村崎と、スカーフを敷き路肩に座り込んだ由。
じりじりと照りつける太陽。
鉄とオイルの匂いを嗅ぎ込んだ村崎が由のもとへ歩み寄る。
麦わら帽子を傾け、耳たぶをつきだす由。
鼻を近づけて一息つく村崎。
耳たぶをつまんで、柔らかな感触を確かめる。
再び修理へ向かう。
由はずっと麦の穂をいじっている。
繰り返されるそんな光景。
Ⅱ-3-② 浮き足レッスン
○ らせん階段
ビルの外壁に設けられたらせん階段。
(プールか海辺の近くが望ましい)
そこを上がっていく由の足のアップ。
ゆっくり、情感を込め、靴に合わせ。
以下を履き替えながら繰り返される。
パンプス。
ローファー
サンダル
ハイヒール。
スニーカー。
ミュール。
ブーツ。
○ 同・中庭
デッサン帳を抱えた村崎。
絶妙の位置に立ち、由の足を見上げる。
しきりにペンを動かす。
Ⅱ-3-③ 赤裸々集
○ アトリエ・周辺
農家の離れを改造した古めかしい住処。
くすんだ銅板の<村崎>という表札。
あちこちに立つ意味不明の石像。
空き地に停めたワゴン車から和久井が降り立つ。
手にしたメモを見て歩き出す。
○ 同・裏手
和久井、建物の中の様子を窺い、そっと押し入る。
○ 同・室内
作業部屋のドアを開ける和久井。
と、床に横たえられた裸のマネキン。
そしてイーゼル上の真っ白な画布。
なぜか部屋中に無数の洗濯バサミが吊り下がっている。
振り返る和久井。
と、壁一面に貼りだされた写真の数々。
へそ、耳、ふくらはぎをクローズアップしたものばかり。
思わずいくつか手に取る和久井。
もう一度振り返る。
扉口に立つ作業着姿の村崎、のまぼろし。
Ⅱ-4-① 萌え、そびえたつ
○ 鉄塔
ドピーカン。
山間部に屹立する鉄塔。
ぎらぎらとした陽射しを受けて。
熱と光で揺らぐ輪郭。
○ 同・その下
村崎が地面に倒れている。
身動きなし…。
照りつける太陽。
と、微かに鼻から息を吐く。
まぶたを開く村崎。
目の前をアリが餌を抱えて動く。
それをじっと見つめる。
やがてふらふらと立ち上がる。
鉄塔を見上げる。
意を決したようによじ登っていく。
Ⅱ-4-② むっとするような…
○ 真夏の空
青い空。白い雲。
さんさんと照りつける太陽。
○ 裏伊豆の浜辺(昼下がり)
けだるいひととき。
喧騒から離れ、一人で日光浴する由。
書きかけた手帳を閉じ、まどろむ。
チェアの下、タオルの陰を毛虫が這っている。
○ 同・沖合
彼方で、夏の光を反射させて過ぎ行く貨物船。
○ 浜辺
陽を浴びて寝そべる、ビキニ姿の由の肢体と姿態。
汗とローションが滲み、喘ぐような皮膚。
その首筋、胸元、脇腹、太腿…。
すでに毛虫はいない。
デジャビュ、現実感の喪失、自意識に障害、脱人格化。
繰り返し、熟むような、倦むような、膿むような…。