近代俳句をざっくり知る年表
近代俳句から前衛俳句へ:略年表
1897:子規『ホトトギス』創刊、近代俳句の成立
1902:子規死去、碧梧桐が新聞日本の選者に
1905:碧梧桐、新傾向俳句へ(俳諧革新を継承)
1911:碧門の井泉水ら、新傾向俳句誌『層雲』創刊
1913:虚子、対碧梧桐のために俳壇に復帰「春風や闘志抱きて丘に立つ」(子規の俳諧革新の批判的継承)
⭐︎碧梧桐(季語不要・自由律)⇔虚子(伝統)
1928:ホトトギス門の秋桜子が反保守化、主観叙情の『馬酔木』創刊、誓子、窓秋、禅寺洞(無季)、草城(モダニズム俳句)が同調=新興俳句運動
⭐︎虚子(保守)⇔馬酔木(新興俳句)
1933:「京大俳句」創刊、新興俳句運動(草城、誓子、三鬼、白泉、敏雄、窓秋ら関わる)
1934:草城連作「ミヤコホテル」発表、ホトトギス除籍
1935頃:反新興俳句の人間探求派出現(草田男、楸邨、波郷)。新興俳句は素材論
:草城『旗艦』創刊、赤黄男参加
1940〜43:新興俳句(京大俳句)弾圧事件、白泉ら検挙
⭐︎戦争俳句:白泉「戦争が廊下の奥に立つてゐた」
⭐︎新興俳句運動は誓子や三鬼、敏雄らと共に戦後へ続く
1946:桑原武夫「俳句第二芸術論」
:赤黄男『太陽系』創刊、火渡周平のちに参加(〜50年に終わる)
1947:現代俳句協会設立、関東で波郷、関西で三鬼が中心(61年に有季定型の草田男派が脱退)
:兜太、従軍を終え楸邨の『寒雷』に復帰
:重信、赤黄男の『太陽系』に参加(「敗北の詩」「偽前衛派」を掲載)
1948:誓子『天狼』創刊、根源俳句提唱。三鬼、不死男、鷹女、鬼房、狩行、敏雄、耕衣ら参加
1950:郁乎、父の後を継ぎ『黎明』主宰に
1952:赤黄男・重信『薔薇』創刊
1958:重信『俳句評論』創刊、のちに郁乎、青鞋も参加
:安井浩司、耕衣『琴座』に投句
1959:加藤郁乎句集『球体感覚』
1962:兜太『海程』創刊
:加藤郁乎『えくとぷらすま』
1964:安井浩司『俳句評論』同人に
1968:郁乎、安井、大岡頌司ら『ユニコーン』創刊
⭐︎前衛:社会派の兜太、前衛:詩の重信(赤黄男「俳句は詩である」)
1974:加藤郁乎『出イクヤ記』「やつぱり俳句は難しい」→江戸俳諧へ
1977:重信(山川蝉夫)『山川蝉夫句抄』
1980:重信『山川蝉夫句集』
略年表俳人の句
1 俳句勃興期
【正岡子規(俳諧から俳句へ)】
・鶏頭の十四五本もありぬべし
・蓁々たる桃の若葉や君娶る
・(虚子の木曽へ旅立つを)あら恋し木曽の桑の実くう町は
・柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺
【河東碧梧桐(子規門、無中心、新傾向、季語不要・自由律)】
・赤い椿白い椿と落ちにけり
・鮎若き禁漁の桜咲く
・壁の色よければ水仙(ハナ)買ハバ咲よきを
【高浜虚子(子規門、伝統俳句、客観写生・花鳥諷詠)】
・桐一葉日当たりながら落ちにけり
・蛇逃げて我を見し眼の草に残る
・去年今年貫く棒の如きもの
【荻原井泉水(碧梧桐門、自由律化)】
・たんぽぽたんぽぽ砂浜に春が目を開く
・仏を信ず麦の穂の青きしんじつ
・クレオを読み、浪の音、なおも読めと云うのを読み終り
【種田山頭火(井泉水門、放浪)】
・名もない草のいちはやく咲いてむらさき
・どうしようもない私が歩いている
・ともかくも生かされてはゐる雑草の中
・濁れる水の流れつつ澄む
【栗林一石路(井泉水門、プロレタリア俳句)】「わたしは俳壇のいちばん左側を歩いてきた」
・シャツ雑草にぶっかけておく
・自分の田でない田となってれんげも咲く
・もう痛いといわなくなった顔おこし水枕をはずす
【松本たかし(虚子門、只管写生)】
・海中に都ありとぞ鯖火燃ゆ
・春月の病めるが如く黄なるかな
・花樗見えず散りゐる夕月夜
【川端茅舎(虚子門、花鳥諷詠真骨頂漢)】
・金剛の露ひとつぶや石の上
・尾をひいて芋の露飛ぶ虚空かな
・冬晴れをすひたきかなや精一杯
2 新興俳句へ
【水原秋桜子(虚子門、反ホトトギス、主観叙情)】
・啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
・狂ひつつ死にし君ゆゑ絵のさむさ(佐伯祐三遺作展)
・滝落ちて群青世界とどろけり
【吉岡禅寺洞(口語俳句、自然律、「土の俳人」)】
・神楽舞えり をさなきわれと いまのわれに
・いっぴきのこおろぎに鳴かれ つくる句もつくる句も古い
・季節の歯車を 早く回せ スイートピーを まいてくれ
【日野草城(連作「ミヤコホテル」)】
・永き日や相触れし手は触れしまゝ
・子猫ねむしつかみ上げられても眠る
・高熱の鶴青空に漂へり
【山口誓子(根源俳句)】
・夏草に汽罐車の車輪来て止まる
・虹の輪を以て地上のものかこむ
・海に出て木枯帰るところなし
【渡辺白泉】
・戦争が廊下の奥に立つてゐた
・玉音を理解せし者前に出よ
・我が胸を通りてゆけり霧の舟
・夏の海水兵ひとり紛失す
【西東三鬼】
・水枕ガバリと寒い海がある
・青高原わが変身の裸馬逃げよ
・おそるべき君等の乳房夏来る
【三橋敏雄】
・かもめ来よ天金の書をひらくたび
・少年ありピカソの青のなかに病む
・絶滅のかの狼を連れ歩く
3 人間探求派(反新興俳句)
【中村草田男】
・降る雪や明治は遠くなりにけり
・冬の水一枝の影も欺かず
・花合歓や凪とは横に走る瑠璃
【加藤楸邨】
・かなしめば鵙金色の日を負ひ来
・寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃
・鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
【石田波郷】
・バスを待ち大路の春をうたがはず
・雪はしづかにゆたかにはやし屍室
・雁やのこるものみな美しき
4 戦後新興俳句
【富澤赤黄男】
・蝶堕ちて大音響の結氷期
・切株はじいんじいんと ひびくなり
・ひとの瞳の中の 蟻蟻蟻蟻蟻
【三橋鷹女】
・白露や死んでゆく日も帯締めて
・夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり
・鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
【阿部青鞋】
・想像がそつくり一つ棄ててある
・かたつむり踏まれしのちは天の如し
・この国の言葉によりて花曇
【永田耕衣】
・泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む
・少年や六十年後の春の如し
・田荷軒耕衣夢葱居士薄
・炎天や十一歩中放屁七つ
・大晩春泥ん泥泥どろ泥ん
【金子兜太】
・彎曲し火傷し爆心地のマラソン
・梅咲いて庭中に青鮫が来ている
・よく眠る夢の枯野が青むまで
【高柳重信(山川蝉夫)】
・夜のダ・カポ/ダ・カポのダ・カポ/噴火のダ・カポ
・飛騨の/山門の/考え杉の/みことかな
・朝霧/龍胆/裏背戸・童子/時分の花
・日が落ちて火が燃えてゐる泥の中
・友よ我は片腕すでに鬼となりぬ
【加藤郁乎】
・冬の波冬の波止場に来て返す
・助情よすこしMatinée…マレルブがやつてくる
・とりめのぶうめらんこりい子供屋のコリドン
・このひととすることもなき秋の暮
・生娘やつひに軽みの夕桜
【安井浩司】
・ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき
・鳥墜ちて青野に伏せり重き脳
・廻りそむ原動天や山菫
【河原枇杷男】
・枇杷男忌や色もて余しゐる桃も
・野菊まで行くに四五人斃れけり
・或る闇は蟲の形をして哭けり