砂川玄志郎『人類冬眠計画』https://www.nanshin-lib.jp/WebOpac/webopac/searchdetail.do

本文より抜粋した人口冬眠の研究の動機を載せておきます。
入院患者が移動する場合、自ら移動できる場合はよいが、全身状態が悪く自分では動けない状態だと、救急車などで搬送することになる。さらに、移動させるだけでも命にかかわるような切迫した状態だと、医師が同乗したうえで救急車や救急ヘリで搬送することになる。重症患者を搬送することはとても難しく、そのため搬送医療と言われている。あまりにも患者さんが重傷だと患者さんの搬送さえできないということもあった。なぜ重症すぎると搬送できないのか?重症患者は抹消組織への酸素供給がぎりぎりに保たれている状態であることが多い。そのため、搬送している最中にそのような供給が少しでも絶たれると患者が命を落とす可能性が出てくる。また、ヘリコプターで患者を運ぶ場合にはとても機内が揺れる。重症な患者には様々なチューブがつながっており、これが物理的に抜けてしまう可能性もある。小児の場合、チューブなどがとても細いので入れ直すのも容易ではない。チューブが一本抜けるだけ、あるいは、位置が変わるだけで死に直結する。また、搬送中は院内と違ってとても騒々しいので、臨床家にとって重要な患者から発せられる音(呼吸音や心音)がほとんど聴き取れなくなる。今の医療は全身麻酔も含めて、酸素供給を維持したり、循環を維持したり、抹消組織のエネルギー需要に見合うエネルギー供給を行うことがゴールなので、需要側を下げる、という概念はほとんど存在しない。冬眠はまず代謝が落ち、それに伴って体温も低下しているが、それでいて細胞が障害を受けないものである。任意に冬眠に導くことができれば、重症患者搬送の時間稼ぎが可能になる。という考えのもと、冬眠のメカニズムの解明へと進んでいく。

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