2-01「座敷童の印」についての、覚書
7人の読書好きによる、連想ゲームふう作文企画「杣道(そまみち)」。 週替わりのリレー形式で文章を執筆します。
前回は蒜山目賀田「親子のつながり」です。今回は、藤本一郎【「座敷童の印」についての、覚書】です。それではお楽しみください!
【杣道に関して】
https://note.com/somamichi_center/n/nade6c4e8b18e
【前回までの杣道】
1−06「オドラデクの世界」
https://note.com/kantkantkant/n/n008db38e6ffb
1-07「親子のつながり」
https://note.com/megata/n/nde6df928c96f?magazine_key=me545d5dc684e
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「くりかえし見てきた人の行為のマネゴト してみたい」
鬼頭莫宏の短編漫画「座敷童の印」のなかに、都市が生み出した幻影の少女が、路地に迷い込んだ都市調査員の男性にセックスを持ちかける印象的なシーンがある。男性は彼女の考えを理解して関係を結ぶのだが、翌朝彼女は寂しそうな表情を浮かべながら、都市の一角と共に消滅してしまう。
作品の舞台となる外殻都市は、高度な科学技術によってかつて存在した巨大な都市である。バベルの塔のように天高く積み上げられた異形の街は、一つの巨大な生物のように活動をしている。人間達はこの生物身体の単なる部分である。我々が我々の身体の末端を(髪や爪など)をあつかう時のように、都市は人間を重要なものとみなさず、翻弄する。
この巨大な人工物を作ったのは人間である。だから、都市が自らの「生」のモデルにするのも人間の実存である。我々の実存が、寿命(死すべき)という極端な限定のなかに押し込められた、膨大な情報のせめぎ合いの結果であるにのに対し、都市という人工物はほとんど永遠にちかく、無制限であり、それゆえ彼らにとっての実存や「生」をめぐる感性は、我々にとって想像を絶するものである。要するに、彼らは我々にはなれないし、我々も彼らにはなれない。
少女の悲しげな視線は、自身の消滅を嘆いてのことではないだろう。彼女は、消滅できないからだ。
彼女が男に求めた「人間の真似事」は、人間が人間を再生産するための行為である。これはよく知るように一方に享楽があり、他方に寿命にたいする憂いがある。「余剰」と「必要」との曖昧な(奇妙な)混合に対し、少女の感性は困惑したことだろう。この困惑のなかに「人間」という存在に関する、人間の側である我々には想像を絶するような事実がある。