【詩】ふるさと(前庭まで)
わたしが生まれた年に裏庭の
廃工場はレンズの生産を始めた
それが星
4等星まで光ってみえる
芝桜は蕾をひそめ
セイヨウスイセンはどこまで
畑の小道をこえ
とたん小屋をこえ
えんどうの実るアーチの隣
街頭に砕け庭先で光るまで
溢れんばかりの桃は二色で
破片に傷のついた空をみあげては
うっすら白とピンクを朝靄に溶かす
中空に咲く山桜
低く燕と高く鳶
姿を見せない雉の鳴き声
山間にある道の駅まで届くだろう
風上へ昇り
風下へすべっていく
夜には軋むだけ太陽光パネル
渋柿のなる木と
祖母の畑にのこる
三列の畝にも朝露が
青色、光の隊列となり
やがてフロントガラスの凍る頃まで
光り続けるだろう
ここが私の故郷 ふるさと
赤みがかった頬
ちぢれた毛先
白くなった頭
潤んだ瞳
膨れた顔
すっくと首を伸ばしちょこちょこと走る
着せてもらった服を脱いで
わたしは裸で走っていた
裸で走っていた