【詩】失踪

最後の花火は帽子の束に被って
あまりよく見えなかった
はずれびが
大輪の外れ火だけが
目深に被った帽子の
鍔の上から降りてきて
私のりんご飴をその熱い手で掴み
沖にある堤防に跳ねて跳ねて
向かう側の海に消えた
(まだまだ昇っていくよ)
煙る数秒前のなかを通って
五尺玉は静かに昇り
静かに弾けた
音を奪っていった父の
いる方角からもよく見えるはず
そんなに急がなくていいのだ
転々と車窓を流れる街灯のように
私たち流されて眺めていた
(まだまだ昇っていく)
言葉に許されぬ私のつぶやく一言が
隣で座るあなたの口元に重なり
映し火がゆれた 水面に提灯と浴衣の裾
濡れてしまっている
花火大会があるといいよね
一夜城の崩落の時だって
こんなふうに盛大にさ
やればよかったんだ
()
マンションの角で今日
彼女は右折をせずに
突き当たりの川沿いまで歩くと
そこで右のポケットからスマートフォンを取り出し
全ての位置情報をオフにした
それから
それからのことは誰も知らない

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