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知っているようで知らない言葉『OTT』 その言葉の意味を定義してみた #SaaSLovers

この投稿は #SaaSLovers バトンブログ(2021年5月3日〜5月31日)の19日目です。

最近たまに聞く『OTT』という言葉。「ググってみたけど、記事によって定義が様々でよく分からないな...」という方も多いのではないでしょうか?
もしくは「OTTなんて言葉、今初めて聞いたよ」という方も多いと思いますが、自分なりの定義を纏めてみましたので、しばしお付き合いください。

どのような場面で『OTT』という言葉は利用されているのか?

まず最初に、この言葉がどのように利用されているのかを見ていきましょう。

上記の記事では、現Zホールディングス株式会社の川邊氏が以下のように発言しています。

”ソフトバンク側も大手3キャリアのなかで価格帯やサービス内容が似通ってきており、OTT(Over The Top)にシフトするなど、競争の場が変化しています。そこで明確な差別化を生み出せる要素がヤフーだと思っています。”

OTTという言葉を理解できないと、全く何にシフトしているのか理解できません。OTTという言葉は『Over The Top』の略称ですが、これをオンライン英和辞典のweblioで検索してみると、以下が和訳として表示されます。

・思い切って 限界を超えて
・目標を超えて
・塹壕を出て

1987年に公開された米国の映画『Over The Top』は、シルヴェスター・スタローン演じるトラック運転手の主人公が、アームレスリング賭試合で5年間無敗の最強王者に挑むという作品です。上記の和訳が内容とも合致すると言えるでしょう。

しかし、川邊氏がこのようなインタビューでシルヴェスター・スタローンの映画を話している訳はありません。例えば、KPIという言葉は『Key Point Indicator』の略称で、英語からそれとなく意味が理解できます。しかし、OTT(Over The Top)は和訳からは意味を理解しにくい側面があり、これが言葉の定義を分かりにくく曖昧にしています。

『OTT』をGoogleで検索してみる

それではOTTとGoogle検索した際に、トップに表示されるBoxilの記事を見てみましょう。冒頭にOTTという言葉の定義が記載されています。

”OTT(オーバー・ザ・トップ)とは、インターネットを介した動画配信、音声通話、SNSなど、マルチメディアを提供するサービスを総称した言葉であり、Over The Topの略称です。”

この説明で大凡言葉の意味が理解できます。ここにある『マルチメディア』はインターネット黎明期に頻繁に聞いたバズワードで、これも広い意味を持つ言葉でしたが、続きを読んでみましょう。

”ただし、インフラストラクチャーを提供するISP(インターネット・サービス・プロバイダ)や通信事業者はOTTに含まれません。OTTによく使われる雲の上という航空用語が元になる「従来のインフラを飛び越えた」という言葉の意味は、ここにあるといえます。”

OTTという言葉が航空用語に由来があることが記載されています。諸説ありますが、2006年に当時GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏によりクラウド(クラウドコンピューティング)という言葉が提唱されましたが、OTTはそれ(クラウド=雲)をも超える概念のような印象を持ちます。それでは再度続きを読んでみましょう。

"特にアメリカでは、ネット配信による動画サービスが注目されており「OTTビデオ」と、区別して扱われる場合もありますが、広義では数多くのサービスがOTTの対象とされています。"

ここで、狭義では『ネット配信による動画サービス』と説明されています。昨年話題となったNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』*1の主人公である村西とおる監督は、衛星放送チャンネルを構想時に「宇宙(ソラ)からエロがふってくるんですよ」という名言を残しましたが、まさにNetflixやHulu、Amazon Primeのような動画配信サービスがOTTだと理解できます。

*1 6月24日にNetflixで配信開始される全裸監督シーズン2では、衛星放送チャンネルに関するストーリーも描かれるようです

広義では数多くのサービスがOTTと記載されていますが、これは冒頭に記載されている音声通話やSNSを含むと理解できます。実際に続きを読んでみると、以下のような記載があります。

"YouTubeやVimeoなどの動画サービス、Skypeなどの動画/音声通話サービスを挙げられますが、FacebookやTwitterなどのSNS、LINEやMessengerなどのメッセージツールもOTTサービスに含まれるようです。"

狭義では動画配信サービス=OTTでしたが、FacebookやLINE=OTTと言われると、SaaS全般=OTTのような印象を持ちます。この点が混乱を招くポイントと言えるでしょう。また、ここまでの説明だと『クラウドコンピューティング』や『SaaS』という言葉と何が違うのかがよく理解できません。また、「含まれるようです」と記載されており、この記事の筆者にも自信が無いような曖昧さがあります。(個人的に海外の方を話しをしていて、SkypeやFacebookをOTTと呼んでいる人を見たことはありませんが...)

狭義の『OTT』

結論から言えば、狭義のOTT=動画配信サービスであることは間違いありません。前述の通り、NetflixやHulu、Amazon Primeのようなサービスが代表的です。国産のサービスだと、TVerやAbema TV、GYAO!のようなサービスもOTTと言えるでしょう。Spotifyのような音楽配信サービスも含まれる場合があります。つまり、サブスクリプション型(定額課金型)または広告型の配信サービスを意味します*2。TVerで見逃したバラエティ番組やドラマを視聴する際に、動画広告が本編開始前や再生途中に流れますが、これが広告型です。日本ではまだあまり見かけない広告型のOTTですが、米国では極めて一般的で、Huluにも広告型のプランが存在します。

*2 細かく説明すると、これ以外のモデルも複数ありますが、ここでは割愛します。

The Trade Desk社が公開している『動画配信サービス利用実態調査」に掲載されている『動画配信サービス内におけるOTT(オーバー・ザ・トップ)の定義』が非常に分かりやすいのですが、ここではOTTとUGCを区分しています。

動画配信サービス利用実態調査

つまり、YouTubeのようサービスはOTTに含まれないと定義していますが、ここは専門家でも意見が分かれる点です*3

*3 個人的には、YouTubeは広告型のOTTとなり、YouTube Premiumは定額課金型のOTTと考えます。The Trade Desk社の見解はこちらが参考になります。(上記の転載はThe Trade Desk Japan K.K. に許可を頂いております)

OTTとインターネット動画配信は何が違うのか

それでは、OTTはこれまでのインターネット動画配信と何が違うのでしょうか?インターネットを利用した動画配信自体は、1990年代には既に実現しているテクノロジーです。日本においても、2003年にヤフーが『Yahoo!動画』を開始しており、月額280円の会員サービス『Yahoo!プレミアム会員』であれば、無料で動画を視聴できました。

WikiによるとOTTという言葉が公に利用され始めたのは、2011年にカナダの電気通信規制当局であるCRTCが「(ケーブルや衛星などの)配信専用の施設やネットワークに依存しない番組へのインターネットアクセスが、『Over The Top』サービスと呼ばれるものの特徴であると考える」と述べたことにあるようです。

In 2011, the Canadian Radio-Television and Telecommunications Commission (CRTC), Canada's telecom regulator, stated that it "considers that Internet access to programming independent of a facility or network dedicated to its delivery (via, for example, cable or satellite) is the defining feature of what have been termed 'over-the-top' services".

北米では地理的な制限から電波受信状況があまり良くなく、ケーブルテレビや衛星放送など、複数の有料放送サービスに加入するのが一般的でした。つまり、北米においてテレビの視聴は以前より無料ではなかったということです。これは一般的に、NHKの受信料以外には、テレビの視聴は無料と考えている日本人とは大きく異なる背景と言えます。(無論、スカパー!やWowowなどの有料放送は日本にも存在します)

ケーブルテレビや衛星放送を契約すると、セットトップボックスやアンテナを自宅に設置する必要があります。これがインターネット動画配信サービスに置き換わることを、米国では『コードカッティング』と呼んでいます。つまり、ケーブルテレビや衛星放送にはあった煩わしいケーブル配線がバイパスされ、同時にOTT(インターネット接続型の動画配信サービス)に置き変わったことを意味します。米国においてOTTは破壊的ゲームチェンジャーでした。なぜならば、インターネットに置き換わることで、契約者がインターネットに接続できる環境であれば、どこでも好きなタイミングで動画を視聴できるようになったからです。また、コンテンツを保持している事業者側にとっても、D2C型のビジネスを展開できるようになりました。

『OTT』という言葉の真髄

ここに、狭義・広義を問わずOTTという言葉の真髄があるように思います。日本においてもOTTという言葉が利用され始めたのは2012年頃となり、これはソフトバンクモバイルが第4世代移動通信システム『SoftBank 4G』を開始(実際には3.9G)したのと同時期になります。

前述の通り、インターネットで動画や音楽を配信するサービスは2011年以前から存在します。しかし、それは比較的インターネット回線が安定しているWiFi環境を前提としたものでした。当時、外出先で携帯電話やスマートフォンを利用し動画を視聴したことで、パケット制限(ギガ死)を経験した人も多いのではないでしょうか? その後、スマートフォンや4Gの普及と共に、携帯電話の料金プランにも変化が現れ、今やパケット制限無しのプランも今や珍しくありません。

YouTubeを視聴しない日が無い...という人は多いと思いますが、そのユーザー体験を思い返してみてください。移動中や外出先ではスマートフォンでYouTubeを視聴し、会社ではPCを利用しYouTubeを視聴する。そして在宅時は、ChromcastやFire Stick TVを利用してテレビでYouTubeを視聴していませんか? それはGoogleアカウントによって、デバイスを超えた一貫性のある体験になっているはずです。例えば、スマートフォンで見ていた動画の続きを、PCやテレビでストレス無く続きから視聴できることや、どのデバイスにおいても自分の嗜好に合った動画が表示されるなどです。これは、今や当たり前のユーザー体験のように思われるかもしれませんが、インフラの普及と共に、この10年で徐々に実現したものなのです。

広義の意味では、このようなメディア体験を得れるサービス全般がOTTと言えるでしょう。つまり動画や音声を利用したクラウドサービス・SaaSであり、デバイスを超えた視聴体験ができ、自分の嗜好に合ったコンテンツがレコメンドされるサービスです。冒頭に、FacebookやLINEなどのサービスもOTTと含まれることの違和感について話しましたが、このように定義すると腹落ちします。これらのサービスにおいても動画は利用されており、各サービスが持つユーザーIDによってデバイスを超えた一貫性のある体験ができるためです。(ゲームや書籍などが広義のOTTに当たるのかは、定義が難しいところです)

サービス提供側にとっても、OTTはD2C型のサービスとなるため魅力的なサービスと言えます。利用者の増加と共に、ユーザーの属性や嗜好などのデータを取得することができ、よりパーソナライズした広告やサービス提供ができるでしょう。なんとなく見ることの多いテレビ放送に比べ、能動的に見ることの多いインターネット動画や音楽は、ユーザーの嗜好を得るのに適したメディアであり、没入感も高いと言えるでしょう。これがOTTが注目されてきた理由です。コロナ禍により、有料・無料を問わずOTTサービスを利用する人が爆発的に増えましたが、今後も生活に根ざしたサービスとなるでしょう。

最後に

それでは、最後に川邊社長の発言を改めて見直してみましょう。

”ソフトバンク側も大手3キャリアのなかで価格帯やサービス内容が似通ってきており、OTT(Over The Top)にシフトするなど、競争の場が変化しています。そこで明確な差別化を生み出せる要素がヤフーだと思っています。”

正直に言うと、ここで利用されているOTTが、狭義または広義のOTTなのかは、本人に確認した訳ではないので不明です。ただ、各キャリアがdTVやTELASA、Rakuten TVなどのOTTサービスを所有しており、それらを携帯料金プランのオプションサービスで提供しているのは事実です。余談ですが、昨年ローンチしたDisney+も利用に際してドコモのdアカウントが必要でした。これらのサービスに比べ、日本のOTTサービスとしては最も歴史のあるサービスである『GYAO!』を所持するヤフー社ならではの発言と読み取れるでしょう。また、様々なサービスを横断しているYahoo! JAPAN IDなどと連携できる点は、同社の差別化ポイントかもしれません。

OTTは上述の通り、人や会社によって定義の異なる言葉となり、少々分かりにくい言葉です。しかし、気がつけばOTTは既に生活に根ざしたサービスとなっており、今後も様々なサービスやコンテンツが生まれるでしょう。先日、友人宅を訪問した際に、スマートTVを利用して動画を視聴しようとした際に、エッセイ作品のドラマ版『夫のちんぽが入らない』がトップ画面にレコメンドされており、気まずい思いをしました。かくいう私も、あまりにもパーソナライズされたYouTubeのホーム画面が偏った嗜好性を反映しており、他人に見せるのは憚られます。しかし、OTTの更なる普及とともに、このようにパーソナライズされたユーザーインターフェースは、あらゆるSaaSにおいて今後当たり前になっていくのかもしれません。



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