OD
全身を搔きむしっている。痛みよりもどこかが満ちていく感じが、強い。
四肢のところどころは、ほの赤い爪痕が走り、ちいさな水玉の内出血ができ、乾燥した肌が剥けて白い粉になっている。脱力した身体を動かそうとしてシーツと素肌が擦れると、たちまちのうちに不快感が襲う。そうして掻きむしる。今こうして文字に起こさないとそれを異常だと思いもしない。
私はずっと何者かになりたがっている。
何物にもなれない私だって何者かであるのに。
(中略)
ごめんね。モ、絞めて。キ、キライじゃ、な、ア、ないんだけど。スキだよ、ほんとう。今日、今日、今日シ、シアワセッだっ、たから、シアワセなまま、ね。
アイツは緊張と興奮で、声が上擦って、息が漏れた。私の噛みグセのある指先は、肉が抉れていて、深爪で、爪の形だって歪だ。ギザギザとした爪の断面が首の薄い皮膚に食い込んでいる。
白肌の耳の後ろのホクロがどうしようもなくエロかった。
どうしようも、ないのに。
アイツがヘラヘラ気持ち悪いニヤケ顔でこっちを見つめるから、私も笑った。左の口角が上がらなかった。頸動脈がドクンドクンと返事をし続けている。笑っている。大好きだよ。ネエ、今年の花火も一緒に見に行こうよ。赤く鬱血し始めた。熟れたリンゴの頬と頬とをすり合わせると熱と熱は混ざり合って溶け出す。私は慌てて手を放す。身体を震わせて、ヒューヒューと鳴くアイツはまるで美しい笛だった。生きていてこんなにも美しいのなら、火葬して残った肋骨あたりを楽器にしたなら、どれほど素晴らしいのだろう。地獄から魅了し、呼ぶ声がする。
乙女。
アイツは乙女だった。ふらふらと起き上がって、思い出したように私に抱き着くアイツは乙女そのものだった。右肩が涙と涎で濡れていく。ひとつになりたいというワガママ。私は乙女ではない。
(中略)
我慢しなくたっていいよ。