金パブの葛藤
家路についたのは17時を少し過ぎたぐらいのこと、だったはず。空気は張り詰めて冷たく、ひとりぼっちの寂しさを加速させた。虚像が、川沿いの道をずっと歩いて帰る。かすかな水の音。今日はAirPodsを忘れて音楽が聴けなかった。歌い始めの音と、夢の続きまで……世界に続く歌詞が思い出せなくて頭の中のプレイリストも機能しない。氷の上でもないのに、やけに強張る。スカートの下から冷気が私の足を刺す。誰にも追い越されず、誰のことも追い越さず、しばらく歩いて、信号を左に。すぐそこにあった青白い光を放っているツルハドラッグ吸い寄せられるようにして思わず入店。ゴールドパブロン210錠と目が合ってしまった。ここ最近は、医薬品を買うにあたって薬剤師が確認を取ることは知っている。ここのツルハドラッグに顔を覚えられていないことも確信している。それに、マスクだって付けてるし、最悪、おつかいとして来たことにすれば良い。言い訳の準備をしてからレジに向かう。私は市販薬を買うたびに、こんな茶番を繰り返している。実にピュアで、実に馬鹿である。
冗長だ。
省く。
それで今20錠ぴったりを入れて飛ぶのを待ってる。
糖衣錠じゃない分、一気にガツンと来て最高なのだが、どうにもこうにも苦すぎる。その上鼻に抜ける匂いだってケミカルさを極めているのだ。今日はコデ寝かなあ。それとも誰かと話そうか。歌ったって良い。過剰な呼吸と動悸で断片的になった歌は、オルゴールの終わりに似ている。から、美しい。
今日はオルゴールになろう。
明日は風になって、明後日は雨になって、そして明後日消えてなくなりたい。