ひなたくん日記
ゆうたくんはやめなかっただろうけど、良い子の大人しい弟のまま、輝きを探す月のままで彼を食い止められたラストはナイトクラブだったと思う。
それでひなたがその先に何か変わるかと言われればきっと彼も止まらなかったと思うけど、ひなたはようやく自分自身の生き方を見つけられたので。
ボルケーノアイランドに出て彼は成長した。前に向かってひとりで走り出すことを後ろめたいと思わなくなって、葵ひなたを幸せにするためにようやく一歩目を、大きな一歩目を踏み出した。足元がフラつくなんてことはない、彼の体は育ち始めた若木のようにしなやかでたくましいから。
ひなたの人間っぽい魅力は彼が自分に用意した『葵ひなた』の皮の向こうにある。彼は自分が心を許した相手にはちょっと雑で、それが彼なりの甘え方なんだと思う。相手を丸っと信用してはじめて見せるその姿、だからこそ彼がゆうたをかえりみず走りはじめたのも、ひなたが言った通り、ゆうたの歩幅を、足跡を、軌跡を信じているからなんだと思う。
ひなたは人間を信じることをできなくて、それでも人間が好きだから、優しい人間が好きだから、世界中が丸ごと優しくなってほしいと願っている。そのために行動する。それが葵ひなたの一番やりたいことで、その傲慢で温かい優しい世界がひなたの理想だから。
ゆうたはそれを無理だと言った。傲慢で人間の善性を信じすぎ、どうせ絶望して挫折するよ。
そして俺のいる場所まで落っこちてきたら、一緒に化け物になって世界と戦おうねと続ける。声援みたいに。ひなたが望む優しい世界がひなたを傷つけるはずがなく、傷ついて絶望したならそんな風にひなたを傷つけるものは、ゆうたにとっても敵だから。
物語の着地点としてそれがすごく素敵だなと思った。ソシャゲな以上続く限り続く物語で、どんなに高めに見積もってもひなたの目指す世界の実現はそのゲームの中が限度で、でもひなたの望む世界は、この世界、このすべてが優しくなることで、それは無理なのだ。思想の統一なんてできないし、世界に生きるすべての人間がひなたとゆうたを祝福することはできない。
それでも足掻くこと、挫折したらそのまま化け物になること、そんな未来は来ないと明るく愛し合うみたいに喧嘩を続けること、その姿がいまいちばん新しい、新鮮な俺たちとして提供されること。未来があるということ。その途中であるということ。それを応援できるということ。
その全部が嬉しいし愛おしいなと思った。ツインピークスでゆうたと開いたひなたの距離はもっと離れて、そのうちに世界の反対側で向き合って抱き合うのだ。幸せな兄弟みたいに。
物語の外側から立ち位置を変えなかった分遠回りした彼らは、最短距離でどこまででも走っていける。
彼らに夢ノ咲での地獄のような過去はない。政治に噛まずに道化を演じていて、だからこそ隣人としての目がある。それはあたしが立つ場所よりもっと外側、夢ノ咲の内側からいちばん遠くて、世界にいちばん近い場所。