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葵ゆうたくんは罪人なのか

あんさんぶるスターズシリーズの登場人物である葵ゆうたくん、彼は悪い子なのか、悪い子だから良い子として愛されないのか、考えてみようと思います。
例えば彼が傷つけたひとはいるのか。彼の兄である葵ひなたくんは、ゆうたくんの加害の被害者でしょうか。それはイエスであり、ノーでもあると思います。

ゆうたくんは実際、ひなたくんを「わからせる」ために彼に暴力を振るっていた過去があります。
ひなたくんはゆうたくんを良い子でいさせるために、ゆうたくんが不快に感じたり嫌なことを強いる兄「ひなた」を、ゆうたに害を成す悪い子、としてゆうた自身に裁かせていました。
そしてゆうたくんも、そんな悪い子のひなたを痛めつけることで、自分は正しい、良い子だと気持ちよくなっていました。歪んだ正義によって肉親を殴ることは、悪いことです。そして、それをしたくなるように、ゆうたの気持ちを扇動していたひなたは、殴られたことで清算され、良い子のままでいられるでしょうか。
そしてファンは、それを知りません。ステージの上の2winkは、いつだって息ピッタリの、双子のアイドルだから。

ゆうたくんは、お世話になった先輩を足蹴にしています。本当に優しくしてくれて、死にそうに喘いでいた時にも手を差し伸べてくれていた先輩に、あんたがしたことは迷惑だったんだと言いました。衆人環視の中で救命活動を行うために最愛の兄の服を他人に切り裂かれるような、それをしてくれた先輩に、俺はそれをしてほしくなかったと。比喩ですが。ゆうたくんは許せなくて、このまま死ぬほどの覚悟をして、先輩を裏切り、地面に這いつくばらせたその背中に嘲笑と侮蔑をくれました。あんたたちが今までしてきたことは、余計なお世話だと俺たちの産声を上げました。
けれどその計画を、ひなたくんが「君(ゆうたくん)がそうして欲しそうだった」からと止めたとき、ゆうたくんはお化粧を直し衣装を着替え、先輩と共にステージに立ちました。愛されるべき、悪戯っ子のかわゆい『2wink』のひとりとして、後輩として。傷はなかったことにはならない、先輩に、先輩のファンに嫌われたって恨まれたっていい。そんな気持ちを、傷を、先輩は愛によって許したのです。傷なんてついてないって、痛くないよって。なかったことにされることの痛みを、きっと知っているはずなのに。めでたしめでたしの、ハッピーエンドを迎えるために。
だからこそゆうたくんがプールサイドでしたことは、ファンのあたしたちは知りません。先輩と後輩は、今日も仲良しです。

ゆうたくんは、お父さんへたっぷりの憎悪を込めて、愛を叫んでいます。アイドルとして立派にステージの上で踊って、歌って、笑いながら。綺麗に綺麗に、とびっきりの怨嗟の声を突き立てました。応援してくれてありがとう、感謝してる。それは息子から父への素晴らしい言葉のようで、あんたが拒絶したからアイドルという生き方しかできなかった恨みのようでもあります。今、アイドルを続けていること自体を嫌悪しているというわけではないでしょう。彼らはアイドルの自分を好きでいたいと藻掻いています。その向こうにいる、好きじゃない自分自身を愛せるように。ただ、ゆうたくんの怒りがそれでなくなるわけではありません。望んで傷つき、目を逸らしたままでいてほしいわけがない。愛されたかった。まっとうに、家族みたいに。
でもゆうたくんはその感情を笑顔に乗せません。誰より綺麗に笑います。愛を歌います。葵ゆうたはアイドルだから。

ゆうたくんは、ひなたくんと必死に出した『俺たち』の正解に疑問をいだき、葵ゆうたとしての自我を欲しています。ゆうたくんは髪を伸ばしました。俺たちを蔑ろにする大人に、葵ゆうたという毒林檎を食べさせるために。そして更に成長するために取った手は、ひなたくんのものではありませんでした。夏の日に、兄を心配するゆうたを揶揄い、椅子に縛り上げて頭から水を浴びせた男の手でした。足元を流れる川の水が綺麗じゃないことを、ひなたが濾過していることに気づいていたゆうたに、気づいていることに気づいている、と伝えた男でした。
葵ゆうたくんはもう、『俺たち』の養分ではないのです。そのゆうたくんは一度死にました。今、ここに立っているのは、アイドルの『葵ゆうた』です。

これは俺たちへの、双子アイドルのファンだったひとたちへの、ひなたくんへの裏切りでしょうか。そうだったら、きっとゆうたくんは罪深い悪い子なのです。
でもそうでないなら、その先に輝く頂点で、星を掴んで笑っていられるなら。

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