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ゆうたくん日記
葵ゆうたくんという男の子は、葵ひなたくんの弟だ。兄に溺愛されており、ひねくれて反発し鬱陶しがる素振りを見せながらも、その事実自体には感謝して、兄がくれた恩をずっと忘れないと笑う少年だ。
兄が、ひなたくんが弟を守をうとするのはある種の自己満足で、でも自己犠牲的なその献身は、受け取らなければ目の前でひなたが傷ついていくのを傍観していたことになる、それだけの強さを持つ行為だ。
年端もいかない子供が弟のためにその全身を浴びせ続けていた、君は幸せになって、とかけがえのない兄であるはずの自分を切り刻みながら、君さえ幸せになってくれたら俺の全部はどうなってもいいと。
ゆうたは、その愛を、親切の押し付けを、鬱陶しいですよね無理に恩を感じなくていいですからね、と。笑う。そう言えるようになるまでの彼の葛藤を思う。
そしてゆうたは、ひなたの愛の本質を知りながら、自分はその愛を受け取って、恩を忘れてやらない、と言う。大好きな兄が与えてくれたものだから、ひなたが受け取れるはずだった幸せを自分が食い潰していると負い目を感じるくらいに、ゆうたの中にひなたの熱は深く深くしみ込んでいる。
家出しなければ、というもしもは、2winkがアイドルにならなかったら、くらい二人の根っこだ。家出をするしかなかった、心を守るために。家出をしてしまったら、路上で生きていくしかなかった。幸運なことに二人は師父に保護されて、そして器用であったために芸を覚え、できないことなんてまるでない、使い勝手のいいアイドルになった。
そしてそんな便利な、聞き分けのいい良い子として自分たちが消費されるのが嫌で、俺たちがいたこと、葵ひなたという必死な男がいたことを覚えていてほしくて。『私』に。
ゆうたはあの時、明確な意思を持って『こちら』に話かけて来た、と思った。そうでなければ言われない言葉だった。はじまりの、はじまり、開幕から居た賑やかしのピエロの双子は、物語のいちばん外側から真ん中を見ていた。トリックスターの物語を、「あんず」さんを。
そして、それをプレイする、『私』を、外側にいた2winkは、ディスプレイにいちばん近かった。
だから俺たちを覚えていてください、と。ゆうたの魂と身体のぜんぶにしみ込んだ熱は、私にとってその物語を読んだ時に感じた気持ち、感想。それを忘れないで、キャラクターを愛したことを、覚えていて、と。
そして、だからこそ、2winkがまだ『過程』だからこそ。
二人は動き始めたのだと思う。双子アイドルとして安定してファンがついていても、双子アイドルの向こうへ、『2wink』のユニットメンバーの葵ひなたと葵ゆうたになるために、どんだけ痛くても、彼らは立ち止まっていても、もう呼吸ができないくらい苦しくて。
立ち止まって、そこが幸せだと言ったところで、それを幸せと受け取るには足りないくらい、二人は世界に奪われ続けていて、納得なんてできなくて。
悪目立ちでもいい、自分の話を聞いてもらうために、葵ゆうたとして見てもらうために、変わらないためにゆうたは髪を伸ばした。いつまでも葵ひなたから引きはがされたできない方、弟のほうと言われるのが嫌で、必死で、必死だから痛くて苦しくて、でも大丈夫なんだろう、きっと、その痛みすらやっと、自分のものにできたから。今、痛いのは葵ゆうただと、ゆうた自身が歯を食いしばって言えるから。
熱さは魂を焦がし続けている。ひなたがくれた熱だ。それを抱えてゆうたは足掻いている。その様が好きだ。