
2winkが『それ』を着たということ

葵ひなたの納得がそこにあって、葵ゆうたの納得がそこにないところ。
ステージに立ったのが『葵ひなた』ひとりということ。
それを俺たちのためだと弟に飲み込ませるのをやめて、ムカつくなら追いかけて殴ってみせなよ、君がくすぶったままなら俺はもっと前に進むよ。逃げる俺を追いかけるのは得意でしょう、君は、と。
ステージへ上がるために兄弟が別陣営に分かれて勝負をする、というのは2winkにとってはじめてのことではない。
大きなものでいうと学院内の行事、『節分祭』もそうだ。けれど、あれはひなたの撒き散らした血と膿と引き換えにゆうたは個人の勝ちを捨てて(もう勝負なんて意味のないくらい、あの時のふたりは傷だらけになっていたけれど)、『俺たち』の、『2wink』の勝ちを選んだ。
例えば、そうなるのか、と思った。ツインピークスの二人は。
けれどそうはならず、ひなたは葵ひなたのために、葵ひなたにボルケーノアイランド衣装を着せるために、ゆうたにひなたの傷を飲ませることをしなかった。二人の妥協のラインは、二人が揃って『2wink』として主演すること、そうでなければ辞退を願い出たい、というものだった。最初はきっとひなたもそれを仕方ないよねと思ったのだと思う。そうでなければ会議はおさまらなかったし、実際プロデューサーは出演交渉をしに動いている。そして、プロデューサーはその打ち合わせの際に、辞退の部分は話題に上げていないのだろうと思う。ダメなら出ないという駆け引きができるほどのアイドルではなく、むしろ一人でも出演に飛びつく側、ツインピークス当時の2winkに対する番組側の評価はおそらくそのあたりだ。コズプロのアイドルからひとり、その程度。
引きはがされることで傷つく部分と、引き下がることで卑屈になってしまいそうな心を天秤にかけて、ひなたが選んだのは負け犬根性が染みついた俺たちを認め、俺は前に進む、ということ。
そして『2wink』としてできる最大の意思表示が、二人で『葵ひなた』として入れ替わりながら、ステージに立つということ。せめてもの意趣返しと、ゆうたの身にスポットライトを浴びせるために、最大限できたこと。
だから、だ。
だからこそ、ボルケーノアイランド衣装を身に着けたひなたとゆうたは、その衣装で隣に立つことはなく。

早着替えという建前を成り立たせるために、髪型も揃いである必要がある(イベント報酬としてはレアリティの違いによって衣装に違いはあるし、ひなたの衣装、ゆうたの衣装として実装されているけれど、描写としてはジャケットを交換する、くらいの演出がされているのだろうなと思う)。
あのMVも、ダンスも、『2wink』として発表されて二人で歌って踊っているあれも、ひなたは一人用にアレンジしたもの、もしくはひなた用に書き下ろされたものを二人用にアレンジしたものを披露しているのだと思う。さすがに前者かな。
この曲だけは、物語の上で、同じ見た目で披露することに意味がある、ツインピークス当時はどうしたって、そうしなければならない理由がある、と思っていた。それがなければ二人の物語ははじまらなかった。実際、ツインピークスの時点では、この曲は『葵ひなた』が披露した曲で、『葵ひなた』が着た衣装だ。
何かというと、これ。

この姿でファンの前に立つということ、ひなたとゆうたが、『葵ひなた』と『葵ゆうた』というアイドルであること、そんな二人が組んでいる『ユニット』が2winkであるということ。
走り始めたのはひなたで、ゆうたはゆうたのために変わらないことを選んで、ゆうたが何を言っているか聞いてほしいから髪を伸ばして思ったことをそのまま伝えると決めて。ひなたとゆうたが、改めて二人でボルケーノアイランドに出演した時に来ていたのはユニット衣装だった。よく似合っていた。あそこがツインピークスの到達点かと思っていた。
そうではなく。取り戻すと決めたのだ。何もかも、幸せになるために、ひなたくんと一緒に。
ボルケーノアイランド衣装はひなたくんが葵ひなたに着せたいと願って勝ち取った衣装で、ひなたくんに本当によく似合っていて。そしてゆうたくんにもよく似合う。この姿が本当に、ツインピークスの、二つのいただきなのかなと。そう思った。
美しい景色だから。