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短編小説読書メモ18本目~平山瑞穂さん『六畳ひと間のLA 』

アンソロジー『エール!1』から二話目、平山瑞穂さんの『六畳ひと間のLA』。
今回のお仕事は、通信講座の講師。
通信講座、というと作中でも触れられていた「赤ペン先生」がやはり思い浮かぶ。
主人公・かほりが担当するのは、「英検4級講座」コースで、受講生の年齢や職業、受講する動機は様々だ。
その中の一人の少しというかかなり「面倒な」受講生に執着されてしまった、というのが物語の始まり。
もともとかほりは英語が中学高校から得意でアメリカに留学した経験も持ち、TOEIC も830点と高得点を取ることができる。帰国後も、外国人の多いパブに出入りするなどして、勘を鈍らせないための努力を怠らない。(日々の雑事を言い訳にして語学能力を錆び付かせた私とは大違いだ)
そんな彼女にとって、50代のまともな職業についているとは思えない、そして質問メールでは初歩的なミスだらけに加えて下ネタも時に織り混ぜてくる相手は、まさに対極の存在だ。正直、顔の見えないメールを介してでも、関わりたくない。
だが、ある日、相手はついに職場の近くに現れる… … 。

顔が見えない通信講座という形でも、添削や質問メールを見るときには、一人しかいない「人」を相手にしているという点は変わらないだろう。そして、彼らにはそれぞれに異なる嗜好や動機、夢がある。
問題の「厄介な」受講生もまた「まっとうな人間になりたい」という夢を持ち、純粋な気持ちで勉強を頑張っていた。質問メールも彼なりの夢や勉強に対する思いの表れであり、かほりからの返信は心の支えだったのだろう。
そう思うと、ラストがほろ苦い余韻をもって響いてくる。

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