音楽を愛するすべての人へ#BlackLivesMatter
この記事はサポート(投げ銭)を受け付けています。いただいたサポートは、Black Lives Matter へ寄付させていただきます。
世界中で巻き起こっている #BlackLivesMatter (黒人の命も大切だ)のムーブメント。
これは海を越えた異国の問題ではなく、全人類の問題だ。
そして音楽愛する人にこそ、よく学び、深く考え、行動を起こしてほしい問題でもある。
音楽を愛するひとりとして、音楽を愛するすべての人に、#BlackLivesMatter と音楽が切っても切り離せない問題であることを、伝えたい。
ハッシュタグに留まらないアクションを起こした音楽業界
2020年5月25日、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官からのリンチとも言える暴行により殺害された。この事件をきっかけに、世界中の著名人や企業は次々にハッシュタグ #BlackLivesMatter と共に、反レイシズムの姿勢を表明した。
そして音楽業界では #TheShowMustBePaused (ショーは中断すべきだ)という新たなハッシュタグが使われるようになった。
2020年6月2日を“音楽業界全体としての抗議のストライキの日”とすべく呼びかけが開始され、瞬く間に大手レーベルから個々のミュージシャンまでが、この活動に参加の意志を表明。
なお、#TheShowMustBePaused 関連の投稿は、こちらのブログにまとめられている。
Sony musicは、“世界中の社会的正義と反人種差別主義のイニシアチブをサポートする”ことを目的に1億ドル(約108億円)のファンドを立ち上げることを発表。
Warner Music Japanも同様の額を提供することを発表しており、Universal Music Groupも、さらなる支援の「第一フェーズ」の一環として、2,500万ドル(約27億円)の資金提供を発表している。
さらにUniversal Music Group傘下である、Republic Recordsは所属アーティストの音楽性を定義するジャンルにおいて、“Urban”(※)という用語を今後使用しないことを公式声明で発表した。
※昨今の音楽業界では、音楽性を問わず「黒人アーティストの音楽全般」を“Urban”に分類されていた。つまり人種によって音楽がジャンル分けされていたのである。
ミュージシャンも、黙ってはいない。
Erykahbaduは自身のInstagramで「音楽産業が黒人の命を支援すると言うなら、レーベルやプラットホームは、ブラック・アーティストとの契約書や著作権料を改正するべきだし、役員会にもっと他の人種を迎えるべきだし、ブラック・アーティストと家族に、さかのぼって支払いをするべきだ。そのおかげで巨大企業が築けたわけだから」と投稿
The Weekendは「レーベルが実際にブラック・コミュニティのために何をしたのか明確にするために、寄付をしてそれを発表するべき」と主張した。さらに彼らは、#Black Lives Matter の運動を率いる団体「Black Lives Matter Global Network」と「Know Your Rights Camp」「National Bail Out」に約5,500万円を寄付している。
私たちは“過ちによって作られた世界”に生きている
ここ日本では、全米のように大企業(特に音楽企業)による目立った表明がなかったことが非常に残念だった。
しかし、#BlackLivesMatter運動は民衆の間で広がっている。
SNSでの投稿に留まらず、6月14日には渋谷・代々木公園ではデモが開かれ、1,000人以上の人が集っていた。
正直なところ、私自身も今回の事件が起きるまで、黒人差別が現代においても根深く存在する問題であることをあまり意識していなかった。
自分の無知を恥じながらも、この数週間、自分なりに#BlackLivesMatter について学びを深めてきた。
アメリカで初めて黒人差別が記録されたのは1619年。植民地労働のための奴隷として、黒人が輸入されていた。
“人間が人間を奴隷にする”という醜い行為と引き換えに、世界では何が起きたのか。
産業革命だ。効率良く、安いモノが大量に生産されたことによって、人びとの暮らしは一変した。その影にあったのが、黒人奴隷をはじめとする人びとの重労働と環境破壊である。
そして、現代の社会はその産業業革命をベースにして成り立っている。
つまり、1600年代における黒人奴隷制度によって築かれた土壌の上を、私たちは生きている。
これを踏まえ、この世界で“当たり前”だとされていることーー過剰にモノが溢れ、飽食飽和状態にあることーーに疑いを持ち、「本当の豊かさとは何か」を考えていくことも、重要だ。
音楽は最も平和的に、人種差別の壁を崩壊させた
1865年の南北戦争の終結と共に黒人奴隷制度は廃止された。
しかしその後の歴史が物語るように、差別は未だ消えていない。
キング牧師、マルコムX、ブラックパンサー党など誰もが知る活動家の他にも、様々な人が声を上げ、差別に対抗してきた。歴史のなかで、多くの血が流れ、犠牲が生まれてきた。
しかし南北戦争以降、黒人が自らの力で、最も平和的に人種差別の壁を壊したものがある。それは音楽だ。
アメリカ南部で奴隷として扱われていた黒人たちは、職場である畑でField holler(フィールドハラー)歌っていた。Field hollerは労働のためのかけ声が発展したものであり、黒人の故郷、アフリカから持ち込まれた唱法やリズムが取り入れられている。
▲生涯を放浪のBlues Manとして生きたBig Joe WilliamsによるField holler
諸説あるが、Field hollerはアイルランド移民が持ち込んだ民謡、ヨーロッパ起源の音楽、ネイティヴ・アメリカンとの交流など様々な要素が加わり、新しい音楽へと発展した。Blues(ブルース)の誕生だ。Bluesは、黒人奴隷制度によって黒人がアメリカに渡ったが故に生まれた音楽である。
▲伝説のブルースマン・Robert Johnson。偉大なロックスターが27歳で命を落とす奇妙なジンクス「27クラブ」の最初のメンバーである。
南北戦争以降、北部へ移動した黒人たちは、哀愁歌であったBluesにエレクトリックの要素を加え、新しい音楽へと進化させた。
Bluesの街と言われているシカゴで生まれた「Chicago Blues」は、海を越えたイギリスの地で若者に大きな影響を与えた。その結果生まれたのが、The Rolling StonesやBeatles、Elvis Presley,などのビックスターによるヒット曲。つまり、Rockの誕生だ。Rockと呼ばれる音楽は、Bluesがなければ存在していないと言っても過言ではないだろう。
▲Chicago BluesのスターであるMuddy Watersの「Rollin' Stone」はイギリスのロックバンドThe Rolling Stonesのグループ名の由来である。
当時、白人の若者はChicago Bluesの黒人スターに熱狂し、ライブ会場にあった「白人と黒人を隔てるロープ」を越え、その音楽に身体を揺らしたという。差別対象であった黒人は羨望の眼差しで見つめられるようになった。
黒人音楽研究家のAmiri baraka(LeRoi Jones)によれば「Bluesは黒人が初めて完璧なアメリカ語で作った音楽」であり「黒人が初めてソロで歌った音楽」であり「黒人が初めて伴奏を伴って歌った歌」である。
そしてBluesは、理不尽な理由で異国に連れてこられ、奴隷として蔑まれ、故郷にも帰れないという絶望的な状況におかれた黒人が、アメリカで生き抜くことを決意したことによって生まれたものだ。黒人が自らの肉体と魂を用いて生み出した武器は、誰かの血を流すためではなく、人びとの血を騒がせ、本能を揺さぶり魂を解放した。
人間としてみなされず、故郷に二度と帰れない不条理な想いを抱えながらも、黒人は超平和的な方法で、人種の壁を壊すことに成功したのだ。
Bluesの誕生は、黒人が起こした革命だ。
BluesはRockだけではなく、JazzやR&Bをも生み出した。
Bluesの他にも、HIPHOPやReggae、Afrobeatといった黒人由来の音楽が現代の音楽シーンにも大きな影響を与えていることは、もはや説明不要の事実である。
もしも黒人がアメリカ大陸に渡っていなければ、音楽史は大きく変わっていただろう。
だからこそ、Black Musicというジャンルに限らず、音楽を愛するすべての人に、400年以上続く不条理な問題について、#BlackLivesMatterを身近な問題として考えてほしいのだ。
#BlackLivesMatter を一過性のトレンドにしたくない
#BlackLivesMatterは一過性のトレンドであってはいけない 。400年も続く根深い問題がすぐに解決するわけがない。だからこそ、私は人生においてのスタンダードな活動にしていくために、以下のことを人生を通して全うしたい。
先述の通り、私たちは“過ちによって作られた世界”で生きている。だから少しでも世界が正しい方向に向くために、日々の生活(つまり消費・労働など社会を形成する行為)に責任を持ち、より良い社会を形成したい。
さらに、音楽を(特にBlackMusicを)愛する者として、黒人が生んだ音楽(黒いグルーヴ)の素晴らしさを伝えていこうと考えている。
かつてアメリカでは黒人を野蛮で卑劣な人種として描いた映画やメディアを通して、人びとに誤ったイメージが植えつけられていた。それが今尚、人びとの無意識化にこびりついていることは事実である。そんな異常なプロパガンダに対抗し、私は黒人が生んだ音楽、そして世界中にある(もちろん日本にもある)“黒いグルーヴ”を孕んだ音楽やそれを生み出すアーティストを追い求め、交流し、その中にある煌きを伝えていきたいのだ。
noteで新たに「Black is...」というマガジンを作成しました。
本記事も含め、今後このマガジンでいただいたサポートは、BLM活動団体であるBlack Lives Matter へ寄付させていただきます(寄付報告も行います)
しかし、音楽は何よりも生が一番。
オフラインの場でも、様々な手法で楽しいこと、面白いことをやっていけたらと考えている。私だけではなく、嗅覚と感性の優れた人たちと共に、緩やかな連携をしつつ、純に粋に楽しめることをしていきたい。
Black Musicは新世界へのガイドとなる
BlackMusicには、“人間らしさ”の根源が内包されていると常々感じている。ジャンルとしてのSoulではない、その精神性に強く心を動かされてしまうのだ。
「BlackMusicだけが素晴らしくて、他の音楽はダメ」と言いたいわけではない。
しかし黒人は、人種差別という不条理の中で、自らのアイデンティを否定することなく、むしろ「Black Power」を誇り表現することで、Blues/Jazz /HIPHOP/Afrobeatなどの新しい音楽を生み、ノーボーダーな世界的カルチャーを作り上げた。だからこそ圧倒されるパワーがあるのだと、私は思う。
第二次世界大戦で敗戦したここ日本は、本来の"日本人らしさ"を誇りに思い、世界的なカルチャーを作り上げただろうか。
#BlackLivesMatter と#AllLivesMatterを一緒にしてはいけないように、BlackMusic “は" Coolだと、声を大にして言いたい。
仮に黒人差別がなかった(もしくは黒人が存在しなかった)パラレルワールドがあったとしても、音楽というものは存在していただろう。しかし、それは今ある音楽とは全く違うものだろう。
白人やアジア人が生んだ音楽は素晴らしくないのかといえば、そういう訳ではない。音楽は、人間同士が魂で繋がるためのソウルミュージックであり、ノンバーバル(非言語)なコミュケーションツールだ。だから、自分の魂の感覚に正直に反応すればいい。全く同じ人が存在しないように、人それぞれに魂のツボは違うのだから。ヒットチャートは多数決でしかない。音楽"産業"がある限り、売り上げはマーケティングの結果だということも忘れてはいけない。
魂の感覚を研ぎ澄ますーーこれこそが、差別撤廃の鍵になると私は信じている。そしてBlackMusicは、そのガイドとなるはずだ。
誰かが唱える「正解」や「当たり前」ではなく、一人ひとりが自分の魂の声に耳を澄ましていけば、人種や肌の色、肩書きで人を分けるという行為がどれだけおかしなことか、自ずと気付いていくのではないだろうか。
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