いつだって、私はヒロイン
小さいころ、朝ドラのヒロインになりたかった。
小さいころ、と言ったが、本音を言うと結構おっきくなってもなりたいと思っていた。
NHK朝の連続テレビ小説を見るようになって、かれこれ10年くらい。
ほとんど欠かさず見ているのは、私も彼女たちのようにヒロインになりたいという夢がずっとあったからだと思う。
今も相変わらず見ているけれど、ヒロインになりたいとはもう思わなくなった。
それは、私だって毎日ヒロインだってことに、気づいたからかもしれない。
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先月、祖父が亡くなった。
ステージ4の癌だと申告されてから、なんと9年間も生きた。
最後のお別れは、自転車で走りながらだった。
仕事を終え、病院に向かっている最中に、母から緊急の電話が鳴った。
母は涙をこらえながら、「電話に向かって、話しかけてあげて。」と私に伝えた。
ちょうどその頃、私は踏切で電車が過ぎ行くのを待っていた。
踏切があがって、私は電話を片手に、急いで自転車を走らせた。
そして、小さな携帯電話に向かって、叫んだ。
「おじいちゃん!おじいちゃん!今行くから!待って!生きて・・・!」
叫んで、叫んで、叫んだ。
朝ドラのヒロインみたいだ、と思った。
こんな時にふっとどこか遠くから眺めている自分がいた。
病院に着いたら、走って駆け付けた。
もう意識はなかったし、機械はほとんど止まっていたけれど、まだ器具はたくさん付いたままで、お医者さんは私たちが別れを惜しむのをただ待ってくれていた。
何気なく、私はお気に入りの歌を歌った。
そしたらなんと、0だった数値が動き出した。
脈、脳波、心臓が反応しだしたのだ。
周りに集まった親戚みんなで、「365日の紙飛行機」を歌った。大合唱だ。
おじいちゃんは、家族の温かい歌声に包まれて、天へ飛んでいった。
何にも代えがたい、素敵な空間だったと思う。
きっと幸せな最後だったと思う。
私たちは、毎日を生きている。
目の前のことに向かって、一生懸命、生きている。
私だけの人生の、紛れもないヒロインだ。
君だけの人生の、キラキラしたヒーローだ。
生きるということ。
それは、人生の主役を全うすることに他ならない。