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【キン/Kin】と【キース/Kith】

 他の項でも触れましたが、【セリアン/Therian】にとっての「自分の種族」が【セリオタイプ/Theriotype】。【アザーキン/Otherkin】にとっての「自分の種族」が【キンタイプ/Kintype】である事は以前にも説明しました。これら「自分の種族」の事をまとめて【キン/Kin】と呼ばれています。

 しかし、「自分の種族ではないけれど、その種族の動物に対して特別な共感をしてしまう」という経験を多くの【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】が持っています。この「自分の種族ではないが、特別強く共感する種族」の事を【キース/Kith】と言います。

【キース/Kith】は【セリアン/Therian】でも【アザーキン/Otherkin】でもない普通の人間の方でも持つ事があります。
 ですので、【キース/Kith】を【キン/Kin】と勘違いして「自分も【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】ではないか」と考えて【セリアン/Therian】のコミュニティに参加する方もいらっしゃいます。

 しかし「本物の」【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】と対話を重ねるうちに、「自分は【セリアン/Therian】ではないかもしれない」と気付く方も多いです。そういった方々は【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】ではなく【アザーハーテッド/Otherhearted】と呼ばれます。「ハーテッドタイプ」とでも表現すべき「自分が親近感を覚える種族」こそが【キース/Kith】です。

 愛犬家や愛猫家の中には、自分のペットに対して特別な感情を持つ方も多いかと思います。【キース/Kith】はその感情に近いのですが、「うちの子だけ」に向けられる愛情ではなく、「種族全体」に対して向けられる親近感です。
「柴犬ならどんな子であっても惹かれる」
「アビシニアンならどんな子であっても美しいと感じる」
といった具合に、特定の動物やないし犬種や描種に対し、特別な思い入れを持ってしまう場合は【キース/Kith】に該当します。

【キース/Kith】と【対症接続者/Copinglink】

 経験の浅い若い世代の中には、色々な動物やキャラクターに対して無暗やたらと【自己同一感覚/That's me! Feeling】を覚えてしまう方もいらっしゃいます。
 そういった方々は【キース/Kith】と【キン/Kin】の違いが分かっていないのではないか
と私個人は考えています。
 ですので【セリオタイプ/Theriotype】や【キンタイプ/Kintype】を10も20も持っている方を見ると、「それほとんど【キン/Kin】じゃなくて【キース/Kith】じゃないの? あなたの本物の【キン/Kin】はどれ?」と思ってしまう事もあります。

 経験の浅い若い世代ほど【キン/Kin】と【キース/Kith】を誤解しやすく、特に自分自身を他者に分かってもらいやすくするために自分自身にハッシュタグをつけるような感覚で自分の【セリオタイプ/Theriotype】や【キンタイプ/Kintype】を次々に増やしていってしまう方も中にはいらっしゃいます。          
 本人の【自己同一感覚/That's me! Feeling】そのものを疑うわけではないのですが、自分が【自己同一感覚/That's me! Feeling】を覚えた種族やキャラクターの特にどういった部分に親近感を覚えたのかをもっと掘り下げて特定していくことで、「本当の」自分の【キン/Kin】を発見できるのではないかと思えてなりません。

 こうした若い世代の方々の一部は、【セリアン/Therian】のコミュニティでは【対症接続者/Copinglink】と呼ばれる事があります。
【対症接続者/Copinglink】とは「現実逃避の手段の一つとしてしか【セリアンスロピー/Therianthropy】や【アザーキニティ/Otherkinity】を考えていない人々」の事で、【セリアンスロピー/Therianthropy】に「飽きて」しまえば【セリアン/Therian】である事を「辞めて」しまえます。
 長くても1~2年、早ければたったの2~3週間でコミュニティから去る方もいらっしゃいます。ですので「本物の」【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】からは【対症接続者/Copinglink】の方々はあまりいい印象を持たれていません。
 ゲームやロールプレイやなりきりチャットのような軽い気持ちで【セリアンスロピー/Therianthropy】や【アザーキニティ/Otherkinity】を考えられると、「本物」の方々はいい気分はしないでしょう。

【セリアン/Therian】のコミュニティと【対症接続者/Copinglink】

 本物の【セリアン/Therian】でない人であっても【対症接続者/Copinglink】には誰でも手軽になれてしまいます。
 しかも飽きたら簡単に「辞める」事も出来てしまうため、今では海外の【セリアン/Therian】のコミュニティでも【対症接続者/Copinglink】の人口が爆発的に増えています。
 結果として、彼ら【対症接続者/Copinglink】が持ち込んだカジュアルな文化に本物の【セリアン/Therian】は相容れず、コミュニティから去ってしまうことも少なくありません。
 そうして現在、【セリアン/Therian】のコミュニティが【対症接続者/Copinglink】に事実上乗っ取られてしまうという危機的状況まで起きています。
 かつて1990年代末に【AHWW(Alt.horror.werewolves)】が滅亡したのと殆ど同じ事が今再び起こりつつあります。

 私自身は【AHWW(Alt.horror.werewolves)】の時代から【セリアン/Therian】のコミュニティに在籍していたわけではありませんが、少なくとも7~8年という月日を海外の【セリアン/Therian】のコミュニティで過ごし、その趨勢をずっと見届けてきました。
 現在の状況は海外のコミュニティであっても私が参加した当時の様相から随分と様変わりしてしまったように見受けられます。
 少なくとも日本で流行っている「テリアン」は、本物の【セリアン/Therian】ではなく【対症接続者/Copinglink】を輸入したものではないかと思えてなりません。誰でも手軽になれてしまう上に、飽きたら辞める事も出来てしまう、数ある趣味の一つでしかないように見えてならないのです。

 本物の【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】の【キン/Kin】は、【対症接続者/Copinglink】の【キース/Kith】に比べて遥かに「重たい」ものになりがちです。
 以前お話したとおり、我々にとっての【セリオタイプ/Theriotype】や【キンタイプ/Kintype】は「自分に後から足された装飾品を全て取り除いたとしても最後に残る自分自身の核」です。それを取り除いてしまえば最早自分が自分ではなくなってしまうもの、それこそが当事者の【キン/Kin】です。

 逆に【キース/Kith】は「自分から取り除いてしまえるもの」「それがなくても自分が成立するもの」です。たとえ【キース/Kith】がなくなってしまっても、【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】が自己を喪失してしまうような事態には発展しないでしょう。

 ですので。もしも【セリアンスロピー/Therianthropy】や【アザーキニティ/Otherkinity】そのものが「自分から取り除いてしまえるもの」「それがなくても自分が成立するもの」であるのなら、その方は【対症接続者/Copinglink】であって【セリアン/Therian】や【アザーキン/Otherkin】とは違う種族の生き物です。

 違う事そのものは悪い事ではありません。
 けれど、違うもの同士を無理矢理同じにしようとすると、大概悪い事が起こる。だから互いに違いを尊重して適切なソーシャルディスタンスを取るのが【セリアンスロピー/Therianthropy】と【アザーキニティ/Otherkinity】にとって最も大切な事だと私は考えています。

「自分は人間以外の動物だと思っているけれど、巷で流行っているテリアンたちとはどうも話が合わない」と思っている方にこそ、当noteの情報が何らかのお役に立てばと思います。