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No.000 このアカウントを開設した理由について~【セリアン/Therian】の現状~

 はじめまして。黒執 梓(くろどり あずさ) と申します。
 狼犬の【セリアン/Therian】です。
 私は数年前より、日本国内で小規模な【セリアン/Therian】のコミュニティを作ったり、【セリアン/Therian】を個人的に支援したり、【セリアンスロピー/Therianthropy】に関するアドバイスを提供したりといった活動をしてきました。

【セリアン/Therian】、あるいは「シアリアン」とは、自分自身を人間以外の動物(例えば犬や猫)であると感じる人々を指す名称です。一部の方々は人間の感性や体の感覚に違和感を覚える場合もあります。
 自分が何の動物であると感じるか、またその気持ちの強さ・発現の仕方については個々人で大きく異なります。しかしいずれも『本来の自分は人間ではなく、その動物の精神や魂を持っている』という共通点があります。       
 日本語で既に知られている言葉としては、【臨床的人狼症/Clinical Lycanthropy】が最も近い概念と言えます。(とはいえ、【臨床的人狼症/Clinical Lycanthropy】は【セリアン/Therian】と似ているとはいえ若干異なる概念なので、また別の機会で詳しくお話します。)

【セリアン/Therian】や「シアリアン」という言葉や概念を初めて聞く方も多いかと存じます。今まであまり世間やネットで広く認知されていたわけではないので、それも当然かと思います。特に日本語圏にではごく最近までほぼほぼ無名だったと言えるでしょう。

 そもそも【セリアン/Therian】としての悩みを抱える方の絶対数はとても少なく、自分から【セリアン/Therian】というキーワードを見つけ、積極的にWeb検索しなければセリアンのコミュニティには辿り着けませんでした。かく言う私も、幼少の頃から「普通の人とは違う」という漠然とした悩みを抱えていたものの、悩みそのものや悩みの原因を明確に言語化する事は長らく叶いませんでした。【セリアンスロピー/Therianthropy】の概念や、海外の【セリアン/Therian】のコミュニティを知ったのは30歳を過ぎてからになります。それまでは私自身のメディアリテラシーの低さ、言語の壁、当時のネット環境の悪さなど、実に様々な要因により、私自身も【セリアンスロピー/Therianthropy】には直接アクセス出来なかったのです。

 私が海外の【セリアン/Therian】のコミュニティに入ってから、じきに10年の歳月が経とうとしています。母国語ではない英語での交流は苦労を伴いましたが、自分と同じ悩みを持つ方々と出会えたことで、私自身も随分と救われたと感じます。私がお世話になったのは個人が運営するウェブサイトだったため、大手SNSと比べると規模の小さなコミュニティでしたが、しかしそれ故に【セリアン/Therian】についての知識をダイレクトに学ぶことが出来ました。自分たちが抱える悩みや問題について皆が真剣に議論して解決策を模索し、協力し合い、そして人生を前向きに考えられるようにするための交流の場が育まれていたのです。「もう独りではない」という感覚は、本当に何にも換えられないものでした。

 しかし。昨今、その状況が一変してしまいました。

 ある時期を境に、自らも【セリアン/Therian】であると名乗る人々が奇抜なファッションパフォーマンスを撮影し、その動画をTikTok等のショート動画サイトに大量に流布し始めたのです。

 セリアンを自称する海外の若年層が広めたこの新しい文化ですが、日本語圏にまで認知されだしたのか、「テリアン」というハッシュタグが付けられて十代の若者を中心にものすごい勢いで拡散され始めています。まるで流行り物に乗るかのように「自分もテリアンです」とパフォーマンス動画を投稿する日本の方まで現れ始めました。

 ですが、あれらの動画に映っているセリアンはあくまでも自称・セリアンであって、たとえ海外の動画であろうとも本物のセリアンが撮影したものか定かではありません
 英語圏のセリアンのコミュニティであっても、「自分も【セリアン/Therian】かもしれないから仲間に入れてほしい」とコミュニティに入ってきてパフォーマンスを行い、数ヶ月もしないうちに飽きたからと【セリアン/Therian】を「辞めて」しまう方が近年になって急激に増えています。こういった方々は【アザーハーテッド/Otherhearted】【コーピングリンク/Copinglink】と呼ばれ、ここ3~4年で急速に増加して海外のセリアンのコミュニティでも大きな問題になっています。
 そういった方々が「テリアン」という言葉をSNSのような大勢の人々が利用する場所で誤用・乱用しているせいで、【セリアン/Therian】という言葉の持つ意味や定義そのものが誤解されるほどの事態にまで発展しています。

 最初にお伝えしたとおり、【セリアン/Therian】あるいは「シアリアン」は決してファッションやパフォーマンスを表す言葉ではありません。あくまで真剣に「自らが元来どういう生き物なのか」という生涯のテーマと真摯に向き合う概念です。流行り廃りのゲーム感覚で始めたりやめたりすることが出来るものではありません。「今日の私は猫の気分だから猫のテリアンになってみよう!」というような、その場限りのロールプレイを指す言葉ではないのです。
【セリアン/Therian】とは生まれつきの性質で、自分で選んでなったわけではありません。大半のセリアンが「実際の肉体」と「精神や魂の姿形」との違いに苦しみ、それでも必死で生きています。
【セリアンスロピー/Therianthropy】とは、元来とてもシリアスな概念です。ふざけて動物のフリをするだけなら、それはもう【セリアンスロピー/Therianthropy】とは呼べません。

 そもそも、本来の欧米圏の発音である「セリアン」や「シアリアン」ではなく、「テリアン」という間違った呼び方がネット上で定着しつつあることから見ても、【セリアン/Therian】という言葉が持つ本来の意味や在り方が正しく日本に伝わっているとはとても思えません。
「テリアン」の語源はおそらく英語の「Therian」のスペルをそのままローマ字読みしたものが広まってしまったものだと思われますが、これは誤読です。正しくは「セリアン」もしくは「シアリアン」です。
(※主に米国の方が「シアリアン(θɪəriən)」に近い発音をし、ヨーロッパの方が「セリアン」に近い発音をする印象があります。私のnoteでは「セリアン」と統一して記述しています)

 いずれにせよ、仮面や尻尾をつけて人目を惹くパフォーマンスをし出したのは、ごく若い世代の人々です。しかもそういったカジュアルな文化はここ2~3年で広がったものにすぎず、30年以上の歴史を持つ【セリアン/Therian】の系譜からすると非常に「新しい」文化と言えます。
 それがたまたま人目についてしまって、【セリアン/Therian】の本質の大半を取り除いた上で奇抜なファッションやパフォーマンスだけが輸入されてしまったものが「テリアン」だと私は感じています。若年層の新たな文化を否定するつもりはありませんが、ファッション性だけを取り上げて「セリアンとは動物の仮面や尻尾をつけてパフォーマンスして話題になろうとする人たちだ」と思われるのはとても悲しいことです。

 この「Therian」という言葉の誤解と乱用は日本に限らず、今 世界中で起こっています。

【セリアン/Therian】の歴史は1990年代初頭にまで遡る事ができ、Usenet 上に築かれた AHWW(Alt.Horror.Werewolves) というコミュニティから連綿と培われてきました。そもそも動物変身譚は世界中の伝承や民話に残っており、【セリアンスロピー/Therianthropy】という明確なラベル付けがされる前から概念としては既に存在していたものと考えられます。
 それを近代的な心理学を用いて紐解こうという試みが米国を中心に行われており、アメリカ心理学会(American Psychological Association) からは【セリアンスロピー/Therianthropy】に関する論文が何本も発表されています。プロの心理学者やセラピストの方々が我々【セリアン/Therian】の意見に耳を傾けてくださり、救いの手を差し伸べてくれています。
 そのような状況下にもかかわらず、自らの尊厳を自ら辱め、道化を演じて衆目の関心を集めるような芸能人と何ら変わらない行動を取る方が大勢現れてしまえば、我々を救おうと行動を起こしてくださった大勢の方々の誠意や善意を踏み躙る事になります。それだけにとどまらず、無関係な一般の方々からも「【セリアン/Therian】とは奇抜なファッションをして奇天烈なパフォーマンスをする人たちだ」という偏見の目で見られるようになってしまいます。私も当事者の一人として、今の状況を黙って見過ごす事が出来なくなりました。

 自分の出来る範囲、せめて日本語圏の人々に【セリアン/Therian】について、少しでも正しい知識を知っていただこうと考えました。それが、このアカウントを開設した主な理由です。

 当Noteでは、【セリアン/Therian】の歴史、種類、用語等についてそれぞれの記事毎に記述しております。もし興味がありましたらご一読ください。


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【セリアン/Therian】についての概要が知りたい方は [ こちらの記事 ] をご一読ください。

【セリアン/Therian】についてより詳しい事が知りたい方は [ こちらの記事 ] をご一読ください。

【シフティング/Shifting】についてより詳しい情報が知りたい方は [ こちらの記事 ] をご一読ください。

【セリオタイプ/Theriotype】を特定するための参考資料が欲しい方は [ こちらの記事 ] をご一読ください。

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