ワニくん【日々のツイトレ】
※2020.3.20friのTwitterトレンドワードより
巷で話題のTwitter連載4コマ漫画、きくちゆうき先生による『100日後に死ぬワニ』。
2019年12月18日から連載が始まり、毎日1本の4コマ漫画が更新され、そこには「死まであと○○日」とカウントダウンが記載されてきました。そして、2020年3月20日、100日目で最終回を迎えました。
以前からTwitter上で何度か見たことはあったのですが、それほど話題になっているとは知りませんでした。主人公のワニくんの何気ない日常の毎日が描かれていきます。個人的に絵があまり好みではなかったことと、4コマ漫画として特にオチがなかったので、あまり気にしていませんでした。
しかし、今回の最終回が更新されたことでTwitterのトレンド上位の「ワニくん」のように、たくさんの『100日後に死ぬワニ』関連ワードがあり、多くの人の目に触れました。これだけ話題になるということは、そこに何かがあるのだろうと思い、作者のきくちゆうき先生のInstagramアカウントで1日目から順番に最期まで読みました。
残念ながら私にはあまり響かなかったのですが、おそらく一気に通して全部読んでしまったことによることも理由として考えられます。
連載終了後、多くの読者が様々な最終回の考察や感想などをネット上にアップされています。いろいろなパロディもアップされています。そして、タイアップ展開など少々炎上気味なことも話題になっているようです。
そのあたりは、これまで100日間近くずっと読み続けてきたちゃんとした読者さんに任せるとして、私はこの『100日後に死ぬワニ』の企画の面白さについて考えてみたいと思います。
「死」をテーマにしている
「死」は誰にでも訪れるものです。また、親戚付き合いや交友関係が広いほど、他人の死に立ち会う機会が増えます。毎日のように有名人の訃報がニュースで流れます。ほとんどの人が、常に意識しているわけではありませんが、どこかに必ず「死」はあるはずです。
言い方は悪いですが、共感が得られるイベントのひとつだと思います。
THE虎舞竜の「ロード」の歌詞のように死は突然やって来ることもあるし、病気で少しずつゆっくりと死にゆくこともあります。
どこで死ぬのか、独りで死ぬのか、誰かに見守られながら死ぬのか、そして、何故死ぬのか……事故死なのか、病死なのか、自分で死ぬのか、他人に殺されるのか……「死」の描き方は様々です。
もしかすると、単純に肉体的な「死」ではない可能性もあります。
何かの「終わり」ととらえると広いテーマです。
そういったことを100日間考えさせる仕掛けが「死」です。
「100日後」と最期を決めている
最初に「死ぬ」と余命宣告をしてスタートすることで、多くの読者と「終わり」について共有できる時間が100日間あることを提示します。
最初から最後までどういう内容で展開するのか、おそらく企画スタート時に決められていたのだろうと思います。もしかすると途中は大まかなエピソードだったかもしれませんが、ポイントポイントは決まっていたと考えられます。
ワニくんはどうやって死んでいくのか。何気ない日常を過ごしているはずなのに、毎日1本読み終わるごとに、多くの人が「死」について想像を膨らませる時間があったはずです。
また、100日後と決めているということは、3月20日が最終日だということもわかっていて、連載初日を決めているはずです。
何らかの意味がある3月20日。
メインターゲットを学生とし、卒業式終業式前後に多くの友人たちと「別れ」について語り合える作品作りを目指していたのではないかと思います。
突然の臨時休校で状況は一変してしまいましたが、逆に「死」「別れ」「終わり」について議論される場が広がったのではないかと感じます。
日常が描かれている
最終回前日の99日目まで、ほぼ何気ない日常が描かれています。
しかし、日常があるからこそ、突然現れる「終わり」が対比的に描かれていると感じます。
99日目までは、どこにでも書かれているようなWeb日記のようなものです。私が最初このマンガを見た時、4コマとして面白くないと思ったのはオチがないからです。日記だからオチは必要ないということだと思います。
Web日記がある日突然更新されなくなることがあります。リアルでの知り合いでもなければ、多くの人は、その日記の更新が終わったことをそれほど気にしません。大抵の中の人は飽きただけなのかもしれませんが、もしかすると中の人はリアル「ワニくんの死」に直面しているかもしれません。
そのくらい日常と「死」は地続きです。
毎日更新
やはり毎日更新することは大切です。可能なら決められた時間がより良いでしょう。
読者の1日のスケジュールの中のルーティーンに組み込まれることで、読者の時間に入り込むことができます。
そして、読者はワニくんの余命を知っているからこそ、毎日ワニくんを見守り寄り添うひとりになることができるのです。
カウントダウン
「100日後」と「毎日更新」という部分にも関係しますが、カウントダウンされることで多くの人は日数を意識します。
数字が減っていくことは、いやがおうにも気持ちがたかぶります。
キャラクター化
登場人物を単純な動物キャラクターにするだけで、「死」という言葉がそれほど重く感じません。入りは軽く、しかし、読み進めていくほどキャラクターたちが人間の置き換えであり、同じような気持ちで同じような生活を送る人間だと意識します。
また、動物キャラクター化することで、主人公の感情を表現しやすくわかりやすくなっています。
きくちゆうき先生が描きやすいキャラクターなのかもしれません。
カラーマンガ
カラーが普通だと思ってはいけません。
そして、やはりカラーだとSNSで映えます。
3月20日が最終日だと決まっていたので、カラーでのサクラ並木は描きたかった別れをイメージさせるシーンだったのかもしれません。
ウェブマーケティング
最近のテレビドラマでもそうですが、SNS上でバズるには、共感と考察がポイントです。
多くの人に共感ポイントがあることで間口を広げます。
謎や伏線を作り、見ている人に想像を委ねることで、SNS上では多くの考察が語られます。考え方や見方は十人十色。他人の多くの意見を見ることで議論が深まり謎も深まります。
きくちゆうき先生がそれまでイラストレーターや漫画家としてやってきた実績が多くの人との繋がりを作っており、Twitterだけでなく、インスタグラム、YouTube、LINEと様々なSNSを使って拡散しています。
当たり前のことなのかもしれませんが、ちゃんと展開を考えて企画立案されていることを感じます。
きくちゆうき先生の投稿にハッシュタグが付けられていないのは、あえてだと思いますが……どうなんでしょう。
バズる仕掛けはもっと多くあるのだろうと思いますが、炎上することまで含めて『100日後に死ぬワニ』が多くの人から注目された日でした。