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盲導犬エルとの日常~1カ月

盲導犬のエルが我が家に来て1カ月が過ぎた。盲導犬ユーザーの家族として一緒に暮らして感じたことを書いていきたい。まず最初に思ったのは

「盲導犬ってすごい!」

だった。エルが夫を誘導して毎日通勤し、私や娘の簡単な支持を聞けることに改めて感動した。優秀な遺伝子と数回の試験を経て盲導犬になったとは言え、ここまで犬が人の言葉を理解できるなんてすごい!

「エル、ストレート・ゴー」

と言えばまっすぐ進み

「ライト・ゴー」

と言えば右に曲がる。段差を見つけたら必ず止まり、人や物を避けながらスイスイ進んでいく。こんなことができるなんてすごい。

初めて夫とエルと私で近くのスーパーに行ったときのこと。夫は左手でエルのハーネスを持ち、私は夫の右肩につかまった。歩き始めてすぐに

「早い!ちょっと待って!」

あまりのスピードにびっくりして声をかけた。夫が

「エルがそっち気にしてるよ」

と教えてくれた。私が夫の右側にいると、エルは二人分の幅を考えないといけない。これは大変だろうと思って、夫の後ろに付いた。周りから聞こえる

「あ、盲導犬だ!」

の声に

「見てくださいうちのエル!すごいでしょ、賢いんですよ!」

と思いながら通り過ぎた。私が早すぎると言って落としてもらったスピードは、夫にとってはかなりゆっくりだったようだ。エルと二人で歩くときはもっと早いそうだ。

「白杖であのスピードで歩けなくはないけど、ぶつかった時の衝撃はすごいやろな。エルは絶対にぶつからないように歩いてくれてるからそういう意味でのストレスは減ったわ」

と言っていた。

エルも家に帰ってくると「盲導犬」から「賢いわんちゃん」に戻る。家の中では娘と走り回ったり、夫とおもちゃで遊んだりしている。エルの中で順番があるらしく、一番はもちろんご主人様の夫。次は遊んでくれる娘。そして最後が私だ。夫のことは家の中でも常に気にしていることはリビングで寝ているエルを触っていて気づいた。夫が立ち上がるとそちらに顔を向けているし、通勤カバンを持つとさっと立ち上がって

「行きましょうか?」

と寄り添っていく。夫がハーネスを持つと

「早く行きましょ!」

と自分から尻尾を振りながら入っていく。夫がお風呂に入っているときは
「あれ、お父さんどこ行った。俺ちょっと探してくるわ」
と言うように、リビングや廊下をウロウロ歩いているのがかわいい。

「エル、お父さんお風呂やわ。あんたは月に一度のシャンプーでいいけど、お父さんは毎日入るねん。だからちょっと待ってて」

と私が話しかけても、あまり聞いていない様子。他にも空気清浄機の周りをウロウロしていたエルがコンセントの方に近づいたので

「エル、そこ舐めたらビリビリ来るねんで!あかんとこやで!」

と話しかけても

「知~らね」

と尻尾を振りながら娘のところに行ってしまった。

エルが我が家に来たときにいくつか決めたルールがある。エルが入ってはいけない場所は、キッチンと洋服が置いてある溶質。ソファーに登ったり布団に入るのはだめ。これは盲導犬として仕事をするときに、ホテルに泊まることもあるはずだ。

「家では布団に入っていいけど、ここはホテルだからだめ」

というのは通じない。一貫性を持たせるために家でもだめだと教えることにした。訓練士さんからは、悪いことをしたときは、現行犯で注意して、やめたら褒めてあげてくださいと言われていた。こんなことがあった。これまでエルは一度もキッチンに入ったことはなかった。夫や娘が入って何か飲んでいても、必ず入口で待っていた。戻ってきたときに

「エル、ウェイトグッド!!」

とたくさん褒めてもらっていた。先日、私がエルの様子が知りたくて、首輪を持ちながら中腰で一緒にウロウロしていると、キッチンの段差に前足がかかったのがわかった。

「エル、ダメ!ノー!」

と言ったらすぐにやめたので

「エル、グッドグッド!」

と褒めようと頭に手を延ばしてびっくり。

「触らんといて!」

お辞儀をするように頭をパット下げたのだ。そのままトコトコ歩いて行ってしまった。「ノー」と言われたのが嫌だったようだ。こうして感情を表現しているのが面白い。家に来た頃はリビングのソファーの前で伏せていることが多かったのだが、最近は家の中をウロウロしていることが多い。エルの足に負担がかからないように敷き詰めたタイルカーペットの臭いを嗅いでいたり、夫がダイニングでコーヒーを飲んでいると、テーブルの下に潜ったり、真横にぴったりくっついて

「ねえねえ、暇~!」

と声をかけに来たりしている。エルも少しずつ我が家に慣れてきてくれているのかなと思う。盲導犬ユーザーの友達に話すと、慣れてきた段階でちゃんと「やっていいことと悪いこと」を教えることが大切だと聞いた。これからはそういった時間も増えていきそうだ。

毎朝夫とエルを送り出すとき、元気に尻尾を振って出かけていくエルを頼もしく思う。夫が白杖を持たずに外に出ていくことにも慣れてきた。私たち三人と一頭の生活はまだまだ始まったばかり。これからどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。

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