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ばあちゃんと揃いの推しメン団扇
※このショートストーリーは一部事実を脚色した上で書き上げたフィクションです。ご了承ください。
2013年夏
大正生まれのうちの90歳のばあちゃんはとっても変わり者。
何時も気難しくて寡黙で何時も神棚にブツブツ唱えてる。テレビや雑誌は余り見ない。理由は「あんなものは人間を馬鹿にする」からだって。
特に女性週刊誌は大嫌い。何にも知らずに女性週刊誌をばあちゃんの前で読んでたらいきなり取り上げるなり日本一有名な老夫婦の記事のページをビリビリと破き捨ててしまう始末。
「ばあちゃん何するの!」
「家族も大切に出来ん人間が何が慈愛じゃ何が祈りじゃ」
「は?何言ってるの?二人とも優しいじゃない!」
「馬鹿たれ!こいつの祈りには魂はない!」
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孫苛めなんかしないわ。ねぇ?あなた
それから私はばあちゃんの前では雑誌は読むのはタブーであると知った。
2017年2月
ばあちゃんのお家にいったら普段はテレビを見ないばあちゃんがかぶり付くようにテレビを見ていた。画面には愛ちゃんって超有名なお家の女の子が痩せこけた姿で映っていた。
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一番激やせしていた時期の敬宮さま。
女の子はずっと不登校だの自閉症だの週刊誌に叩かれていた印象しかない。
ばあちゃんはずっとテレビに映る痩せこけた少女に祈るように「神さまにこの娘をお守りするようお祈りしていたんじゃ」
「この子何が良いの?不登校でネクラそうだし。仕事サボりまくりの母さんそっくり。あれなら鹿ちゃんの方が可愛いしさー」
「馬鹿か!この娘はテルさまの生まれ変わりじゃ。いつか家を継ぎ日本を救う為に尽力するのじゃ。」と言って一枚の古ぼけた写真を見せてくれた。
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ばあちゃん、誰この子?「この方はテル様といって愛さまのじいさんの御姉様で神様みたいな方だったんじゃ。お前もこのテル様のお言葉を何遍でも読み返すんじゃ」といって一枚の紙を渡してくれた。その紙には筆である文章が綴られていた。
私はどういうめぐりあわせか高貴な家に生まれた。私は絶えず世間の注視の中にある。いつどこにおいても私は優れていなければならない。
私は皇室を背負っている。私の言動は直ちに皇室にひびいてくる。どうして安閑としていられよう。高い木には風が当たり易い。それなのに高きにありながら多くの弱点をもつ自分をみるときこの地位にいる資格があるか恐ろしくなる。
自分の能力は誰よりも自分がよくわかっている。ともかく私は自分で自分を育て築き上げて行かなければならない。この炭鉱の奥深くで、来る日も来る日も働き続け世間から忘れ去られそして人知れずに死んでいく運命を持った人々の前に立った時護衛の警官や沢山のお供を引き連れている自分の姿にいたたまれぬ申し訳なさを感じた。
テルさまについて色々調べてみたらとんでもない方である事を知った。
成績は超優秀で人望も厚い人だった。プライドの高い名家のお嬢様達も「姫さまには誰も敵わない」と尊敬され、男尊女卑の石頭のお付きの人達も「この娘が男だったら家を継げるのに」と悔やんだほど。
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でも女の子として生まれたから家を継ぐ事は叶わず18歳で結婚。戦後は貧乏な生活で苦労続きで、35歳でガンで亡くなったそうだ。
3月になりまたばあちゃんはテレビにかぶり付いていた。愛ちゃんが中学校卒業式のニュースで両親と一緒にカメラの前に立つ愛ちゃんは一月前よりも少しふっくらとし元気になったようだった。
ニュースでは愛ちゃんの卒業文集が話題になっていた。
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世界平和を願う壮大なスケールの内容の作文を見た時、私はその凄みに痺れた。あのテルさまの作文と同じくらいのスケールの大きさと凄みを感じたからだ。
これで私は一気に愛ちゃんのファンになった。
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この作文から宮さまの表情に明らかな変化が。
ばあちゃんも「この娘はもう大丈夫じゃ。神様のご加護のお陰で困難を乗り越た。」と歓喜の声を挙げた。「この娘が跡取りに決まった暁には例え這ってでもお祝いにいく。」「ばあちゃん私も推し団扇作って一緒に行くよ!」
202X年
あれから十数年。愛ちゃんはお母さん譲りのすっかり素敵なレディになり家の跡取りに決定。
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今日は愛ちゃんの御披露目祝賀行事。
ばあちゃんは100歳を越し老人ホームに入居。普段は寝たきり生活だけど愛ちゃんに会いたいって久しぶりに可愛いメイクとドレスで決め込んだよ。
私も娘をベビーカーに乗せて旦那と一緒に祝賀行事に参戦。私達は手作りの推メン団扇を手に懸命にお手振りした。
団扇は表は愛ちゃんのローブデコルテ姿、裏にはばあちゃんの大好きなテルさまのお写真を張り付けて
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