【山梨県立美術館】特別展「絵本原画の世界2022」を見に行く
ミレー作品の収蔵数、《種をまく人》の購入価格を訂正しました。2023.1.5
はじめに
山梨県立美術館は、甲府市の西部にある芸術の森公園の中心施設です。公園内には山梨県立文学館もあり、園内には屋外彫刻作品が配置され市民の憩いの場になっています。
また、芸術の森公園の前の国道52号は「美術館通り」との愛称がついていることからも、県民および県外からの観光施設として知名度のある施設です。
小さな県の大きな買い物
山梨県立美術館の開館は1978年(昭和53年)です。山梨県の置県100年の記念事業として計画されました。それまで県による文化施設がないことから「文化不毛の県」と呼ばれていた山梨県でした。それだけに美術館の建設は県として念願でした。山梨県農事試験場の跡地に、まず美術館が建設され、その後、芸術の森公園として整備されました。
19世紀のフランスの画家ミレーの作品を多数所蔵することで、ミレーの美術館として有名な美術館ですが、開館に際し多額の税金や寄付金でミレーの絵画を購入(《種をまく人》だけで1億7000万円)したことに、当時は「小さな県の大きな買い物」として批判がありました。しかし、当時の知事の判断は成功を収めたといえます。現在収蔵しているミレー作品は油絵12点、水彩画、素描、版画も含めると70点になります。
前川建築
赤レンガ調の建物は建築家前川國男(1905年~1986年、明治38年~昭和61年)の設計によるものです。その後、2002年(平成14年)から2004年(平成16年)にかけて南館が増築されています。
偶然にも「絵本原画の世界2022」の作品を収蔵している宮城県美術館も同時期の前川の設計によるものとのこと。
エントランスを入るとチケットカウンター(検温とチェックシートあり)があります。その先の大理石の階段を上るとミレーの展示室です。
コレクション展A(ミレー館)
正面の階段を上ったところが、ミレーの常設展示室です。ミレーの作品と、バルビゾン派と呼ばれるミレーが暮らしたバルビゾン村の画家たちの作品が展示されています。
まず、赤色の壁面に驚きますが、ミレーの作品だけが展示されています。 その隣、緑色の壁面の部屋にコロー、ルソー、ドービニーなどのバルビゾン派の画家たちの作品が展示されています。
コレクション展A(ミレー館)の詳細については拙稿も参照ください。
コレクション展B
常設展示として、季節ごとに、収蔵作品を入れ替えて展示しています。常設展示を見るだけでも相当なボリュームです。
季節の展示とは別に、没後60年となる近藤浩一路(1884年~1962年、明治17年~昭和37年)の特集展示をしていました(会期2022.6.28~9.11)。近藤浩一路は水墨画をまるで写真のように描く作家で、筆者は前々から好きでした。出身地の山梨県南部町の美術館は近藤浩一路記念南部町立美術館とその名前が冠されています。
特別展「絵本原画の世界2022」
今回の訪問の目的はこちらの鑑賞です。
南館へ続く廊下を進みます。突き当りにある窓は富士山の見える窓です。
「絵本原画の世界2022」は宮城県美術館が所蔵する絵本の原画を展示します。1956年(昭和31年)創刊の月刊『こどものとも』(福音館書店)で掲載された絵本画を多数見ることができます。展示作品は51タイトル、354点とのこと。「ぐりとぐら」「そらいろのたね」(絵:山脇百合子)「はじめてのおつかい」(林明子)など、みんなが知っている作品がいっぱいです。
会場は夏休みのため親子連れが多いです。ただ広い空間のため混雑は感じません。作品数が多くてこちらも相当なボリュームです。
トラックや飛行機などの乗り物などは昭和時代のデザインなのですが、子どもたちにはそんなことは気にならないのではないかと思いました。
筆者が驚いたのは「100歳の画家」堀文子(1918~2019、大正7年~平成31年)が『こどものとも』の創刊号に作品を寄せていたことでした。今回の展示には関係ありませんが、筆者は林明子の作品では「こんとあき」が大好きです。
おわりに
ミュージアムショップ、レストランともに盛況でした。感染症が拡大する以前は駐車場に大型バスが何台も入りバスツアーの定番コースにもなっていました。現在は団体客は見かけませんが、観光客が多数訪れるスポットであり、山梨の文化スポット代表となっています。一度は世間の批判にさらされましたが、見事成功を収めた美術館です。