事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第5回「事業承継・M&Aの失敗要因」
◆事業承継・M&Aの失敗要因 売り手側・買い手側に分けて解説
事業承継・M&Aを失敗しないための注意点、第4回では「株式譲渡と事業譲渡の注意点」を解説しました。
今回は事業承継・M&Aの失敗要因を売り手側・買い手側に分けてご説明していきます。
本記事を読むことで、両者の失敗要因を深くご理解いただき、M&A交渉上の懸念点を払拭いただければ幸いです。
また本記事で肝となるのは、
売り手側は「事業の再現性を損なわない」
買い手側は「基本的なビジネスマナーを守る」
と言う部分です。
この2点を踏まえ本編をお読み頂き、事業承継・M&Aの失敗要因を回避しましょう。
※本記事については、スモールM&A(小規模M&A)を前提に解説しております。
◆事業承継・M&Aの失敗要因
事業承継・M&Aの失敗要因について、前半は売り手側、後半は買い手側に分けて解説して行きます。
・売り手側の事業承継・M&A 5つの失敗要因
まずは売り手側の失敗要因です。
1.準備不足
会社や事業の売却交渉を進めたいのであれば、まずは売却するための準備が必要です。
なぜならば、M&Aアドバイザーに依頼するにせよM&Aマッチングサイトに独自で掲載するにせよ、会社や事業を売り物にしなければならないからです。
準備としては、
・事業承継・M&Aに必要な資料を準備しておく。
・自社の財務内容を把握しておく。
・自社におけるビジネスモデルの再確認、業務などの棚卸しをしておく。
・自社のビジネス上の強み・弱みを把握してく。
・自社の経営上の問題点、売却する事によるリスクを把握しておく
・株主の賛同を得ておく
などが、挙げられます。
M&Aマッチングサイトで買い手を募集する際は、これらをノンネームシートとしてサイトに登録し、買い手募集します。
しかし、上記で挙げたものの準備がおろそかになると自社の内容が何も伝わらないものとなり、買い手から大幅な値下げ交渉をされる可能性出てくるのです。
売却できるならまだしも、買い手がつかない恐れさえ出てきます。
まずは、準備すべきものをそろえ自社を「商品化」しなければならないのです。
準備すべき資料やノンネームシートについては、M&Aアドバイザーに相談しながら準備及び作成することを推奨します。
2.顧客・取引先離れ
収益の源泉である顧客への取引継続は外せません。
買い手としても株主が変わる事により収益が目減りするようであれば、買収する旨味もなくなってしまいます。
特に大口顧客が離れる事による買収リスクは致命的で、希望の売却価額での成約が難しくなるだけではなく一気にディールブレイク(交渉破綻)になる事さえあるのです。
仕入れ先についても同様で、前オーナーとの関係で大幅に値下げした商品を仕入れる事が出来ていた場合などは、オーナーチェンジによる仕入価格が高騰するケースもあり得ます。
スモールM&Aにおいては、前オーナーが取引先との関係性を強固なものにしている場合が多く、この点においての引き継ぎは慎重に行うようにしましょう。
3.従業員の離職
従業員離れも譲渡後の経営に大きなインパクトをもたらします。
買い手の買収動機には、人材の確保も含まれているのが通常で、M&Aがきっかけで退職してしまうリスクは避けなければいけません。
特に、有資格者や特殊技能保持者の退職懸念は単純に頭数が減るのとは話が違い、買い手が優秀人材の囲い込みを狙った買収を企図していた場合、これもブレイク要因となりえるのです。
士業事務所、薬局、製造業、IT関連企業などは人材についてもバリュエーションに組み込み、価格交渉するケースが一般的なので要注意です。
4.交渉にスピード感がない
買い手の質問・提案・要望等にすぐに回答しない事も失敗要因になります。
なぜなら、投資判断は迅速に行いたいというのが買い手の考えであり、交渉にスピード感がないと、より良い売却案件に心変わりしてしまう可能性が高まるからです。
買い手の買収意欲は永遠に続くものではありません。
特にスモールM&Aの場合は、お互いの温度が熱いうちに一気に成約まで持って行く事が重要です。
交渉事という事もあり、売り手としては慎重に検討したいという考えも理解できます。
回答まで時間がかかる場合などは、期限を通知し熟考していることを買い手に伝えるようにすると買い手も安心するので、必ず伝えるようにしましょう。
5.M&A後の経営に過剰に干渉する
スモールM&Aにおいては、業務オペレーション、顧客、取引先、従業員などの一切は、前オーナーに紐づいている事が通常で、交渉条件に業務の引き継ぎサポートを盛り込む事が多く、成約後も新旧オーナーが伴走するのが一般的です。
買い手としては、前オーナーに引き継ぎをサポートしてもらう事はありがたい事です。
しかし、M&A成約後の経営に過剰に干渉する事は望ましくありません。
親心でいろいろと口を出したくなるのも理解できますが、株主・経営者が刷新されれば、経営方針も大きく変更されるものです。
むしろ新オーナーを応援し温かい目で見守る事が必要です。
・買い手側の事業承継・M&A 6つの失敗要因
次に買い手側の失敗要因です。
1.ビジネスマナーが悪い
弊社がアドバイザーを務めたM&A交渉において、残念ながらビジネスマナーの悪い買い手も少なからず見てきました。
約束を破る、遅刻する、期日までの連絡がない、噓をつくなど。
信じられないかも知れませんが、1つの売却案件に上記のような買い手が数件はマッチングをしてきます。
買い手本人もビジネスマナーが悪いという自覚がないようで、謝罪もない場合もあります。
上記のような事を無意識にされている方は特に気をつけましょう。
2.交渉にスピード感がない
これは売り手側の失敗要因でもご紹介しました。
理由は上記同様です。
特に優良案件の場合、買い手候補が殺到するため、レスが遅いだけでふるい落とされてしまいます。
売り手への本気度を示すためにもスピード感のある交渉を心がけましょう。
3.買収資金が準備できない
せっかく優良案件との買収交渉が順調に進んだとしても、買収資金が用意できなければ、今までの苦労は水の泡となってしまいます。
M&Aを検討した時点で、メインバンクにはある程度相談しておく必要があり、少なくとも初回のトップ面談が終了したところで、金融機関担当者には具体的な希望融資額を伝えるようにしましょう。
個人の方であれば、住宅ローンなどの大きな借入金がある場合、希望融資額での審査通過は難しいのもです。
買収金額の50%以上は自己資金で準備するようにし、それが無理なら案件へのマッチングは控えるようにしましょう。
4.業界知識がない・勉強しない
買収動機が新規事業参入のケースに見受けられます。
なぜこういう表題のような事が起こるかというと、買収方針が利益重視に偏っているからです。
端的に言うと、「利益率の高い会社であれば何でもいい」という事です。
このケースだと、業界の知識が希薄となり、売り手とも話がかみ合わず交渉の継続を高確率で止められます。
売り手としては、売却後も安定した経営をしてくれる買い手との交渉を望みます。
新規事業参入案件であるのならば、最低限の知識をインプットした上でトップ面談に臨み、売り手より信頼・信用を得ることが重要で、それが交渉マナーと言もえるのです。
5.買収する決心がついていない
個人M&Aのケースで多く見受けられます。
経営経験のない個人にとっては、現在勤務している会社を退職し、私的財産を投げ打って人生最大の勝負に出る事は相当な覚悟が必要です。
M&A交渉が順調に進むにつて、徐々に不安になり何かに託けて交渉を見送る理由を探す人さえいます。
この点に関しては、交渉する以前に気持ちの整理をつけておきましょう。
6.家族の賛同を得られない
上記同様、これも個人M&Aのケースで多く見受けられます。
本人は独立する気満々でも、家族からの賛同を得られず、断念するケースも少なからずあります。
くれぐれも家族も含めたライフプランをしっかり設計し、賛同を得た上でM&A交渉に臨むようにしましょう。
◆まとめ
以上、事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第5回「事業承継・M&Aの失敗要因」を、ご説明しました。
冒頭お話しした通り、
M&A交渉上、重要なことは、
売り手側は「事業の再現性を損なわない」
買い手側は「基本的なビジネスマナーを守る」
という事です。
売り手側は、現状の事業を誰に引き継いでも全く同じビジネスを継続できる環境を整えなくてはならず、買い手側は、それに敬意を払い交渉に臨む姿勢が重要です。
どちらも当然なことですが、当然なことを当然に順守する事が非常に難しいのです。
特にスモールM&Aにおいての成約要因は、「売り手と買い手の相性」が8割と言って良い程です。
両者がお互いを尊重しながら交渉する事が、M&A成約の一番の近道です。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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