【感想】映画『若き見知らぬ者たち』
私たちは日々仕事を真面目に頑張り、誰かの為に必死に家族や恋人を守る為に何か目的を持って信念を貫き通す為に一日を精一杯生きている。
だが、努力や根性、忍耐でも無理なことがある。
『若き見知らぬ者たち』を見たのだが、これは絶望のふちに立たされた一人の青年の物語であります。
死の直前に、彼が見たもの、あるいは考えたことを脳内で色んな感情が巡る思いで見ていました。
彩人という青年が背負ったもの、それは父の残した多額の借金、難病を抱える母のヤングケアラーの問題など抱える問題が大きいし、それを誰かに助けてもらうほどの勇気もないし、行動も移せないのが本来あるべき現状だと思いました。
彩人が死を考えていることは、誰しも考えは違えど死を選択してしまわないように自我を保ちながら生きていくことは本当に苦しいものがあります。
工場勤務とバーを掛け持ちし、彼の肉体や精神は次第に限界を向かえていきながら、瞳の奥は完全に死んでしまっている。
弟の壮平や恋人の日向、親友の大和がいながらも彼の心は蝕まれていく。
心の支えになる存在がいるということではなく、全てから解放することは無理だということは彩人自身も自覚している。
大切な人を失い遺された者たちの魂の叫びを感じながら、彼は生きている間、この世界の姿をどう捉えていたのだろうか。
彩人が壮平に言う‘‘この世のあらゆる暴力から自分の範囲を守るんだよ’’という言葉を信じていても、現実は多額の借金の返済と母の重い介護によって必死に這い上がろとしても、落ちるところまで落ちていき、希望は打ち砕かれていく様はもちろん、彼がここまで追い詰められたものを辿る度に胸がひたすら苦しかったことを記憶しています。
強権的な存在の警察組織、不条理な暴力、鬱積とした感情は狂気へと変貌し、いつでもトリガーがかかるという描写は実に見事だったし、拳銃が物語の鍵を握るアイテムだということも気付かされるものがありました。
後半にかけて、物語のテーマが分散してしまったところは気になってしまったが、重荷を背負いながらも懸命に抗う姿は生々しくて現実を受け止めるにはあまりにも苦し過ぎるものがありました。
生き地獄の日々の中で彩人にとって何か希望になるもの、幸せになるものはないかと望んだが、それすらも皆無だったことは見ていて本当に辛かった。
当事者でなければ、これは理解出来ないし、実際に現実に起きている問題として受け入れ、私たちは本作から知る必要があると感じました。
彼を殺したものは何か。
彼は何によって世界から消されたのか。
『若き見知らぬ者たち』は私たちの身近に起こりうる世界であり、決して他人事ではないからこそ、映画でしか描けない実体があると思いました。