東京が故郷であること
10人に1人。
そう聞くと多いと感じるだろうか、少ないと感じるだろうか。
これが何かというと、日本人の中で東京に住んでる人の割合だ。
東京に住んでいるということが、何か凄いことのように思われる時があるけれど、10人に1人と聞くと案外珍しいものじゃないよなとずっと思ってきた。むしろ、私は東京に住むことは没個性的とすら思っている。
私は東京生まれ、東京育ちで、ついでに実家も東京だったから、東京というさして珍しくもないアイデンティティしかないことがある種の劣等感としてある。
テレビの番組で道府県出身のタレントたちが活き活きと地元の魅力について語る時間は知らないことを知れて楽しくもあったけど、私の故郷である東京について語られないことに、一抹の寂しさを感じる時間でもあった。だれそれが帰省で地方に行ったという話を聞くたびに羨ましかった。
17歳のとき、地方出身の友人ができた。その友人は私とは反対に生まれも育ちも地方(といっても人口30万人以上の都市出身なのでど田舎ではない)で、方言をよく使っていて。東京コンプレックスを持つ私には「憧れ」の宝庫だった。
私はことあるごとに「その方言かわいい!」「○○良いところだよね」と言っていた。友人はことあるごとに「標準語の方が綺麗」「東京の方が良いところだわ」と言っていた。
私にとって東京を褒められることは故郷を褒められることであり、嬉しいことであったけど、東京コンプレックスを刺激されて傷つくことでもあったから、友人が東京を持ち上げる度にモヤモヤしていた。
友人も私が地方を褒める度に同じことを感じていたのだとその時の私は想像できなかった。だって地方出身の友人なんていなかったし、地方コンプレックスを持ってる人も知らなかったし。
友人も私が東京コンプレックスを持っているとは微塵も思っていなかったと思う。
私たちの仲がどんどん険悪になり、ついに共通の友人たちが間に入ってきて、そこでようやくお互いを傷つけあっていたことに気づいた。
「埼玉だって地方だよ。東京とは違う」
仲裁してくれた埼玉出身の子はそう語った。
まさか私より地方出身の友人に共感されるとは思ってなかったから、もう本当に衝撃。高校には埼玉から通ってる子もたくさんいたから、東京と埼玉の間に大きな溝があるだなんて考えたこともなかった。
これが東京が故郷であることを考えさせられることになった出来事。
あれからもう何年も経つけど、その間に世の中には想像以上に地方コンプレックスがあると知ったし、そもそも東京の中でも23区かどうかでコンプレックスがあるんだということも分かった。
で、こっからは私の超個人的な見解。
裕福なのにお金にケチな人は貧乏を経験してる人とよく言われるけど、東京か地方かにこだわる人はちょっとでも地方と繋がりがある人だと思う。同じく23区かどうかにこだわる人は生粋の23区生まれ23区育ちじゃない人だと思う。
ずっと東京にいる人は東京の中だけで満たされるから、東京の外に興味を持つことなんてないし、興味を持たないから東京とそれ以外を比べることなんてない。私みたいに東京コンプレックスなんて持ってる人はたぶんスーパーレアケース。
何が言いたいか。
もしあなたが地方コンプレックスを持っていて、東京生まれ東京育ちの人に傷つけられたと感じたなら迷わず「傷ついた」と伝えてほしい。
きっとその人はあなたを傷つけたいわけじゃないと思うし、あなたが傷ついたことにも気づかないと思う。
少なくとも、声を挙げてくれた友人たちがいなければ私は今も誰かを知らずに傷つけていたと思う。怖いね。