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グループインタビュー(グルイン)が向いているシチュエーションってどんな時?

リサーチャー仲間のかとうこういちさん @ko1katoU  のツイートを拝見していて、ふと気になった問いかけ。
「グルインがむいているシチュエーションってどんな時なんだろう」

企業のマーケティングやデザインの活動の中で、インタビュー手法としては、以下が対比でよく挙げられます。
・デプスインタビュー(1対1) ※以降デプスと略します
・グループインタビュー(N対1) ※以降グルインと略します
この対比の前提で捉えたとき、グルインが「1人あたりの時間が短いからコスパ悪い」だから「(深掘りすることができず、潜在的な)インサイトが発見できない」というように語られることもあるのかな、と思いました。

といっても!グルインに向いたシチュエーションって多々あると個人的には考えています。というわけで、今回グルインに向いているなと現場で感じたシチュエーションを、リサーチャー目線から語りたいと思います。

グルインが向いているテーマ

①デプスでモデレーターが深ぼるより、共体験したもの同士が相互に刺激しあい深めて語り合えるテーマである
②初対面だとしても、核となるグループ内メンバーでの共体験があるテーマである


グルインがシチュエーションとしては、まずこの2つが挙げらます。
ポイントは「共体験」という点。

デプスにせよ、グルインにせよ、目的はデータ取得をしたうえでの、仮説抽出です。そのためにはいかに作り手側から見えてなかったコンテクストを捉え、深掘りをするのかが大事です。

デプスインタビューの場合、1対1という関係性の密度、およびかけられる時間(1~2時間が多いですね)が、深掘りをする力になってくれます。
他方、グルインでは深掘りをする力になってくれるのは、参加者同士の共体験。当事者同士だからこそ伝わるもの、語り合えるものってあると思うのです。

デプスとグルイン比較

例えば、当事者同士だからこそ伝わるテーマとしては、こんなものが挙げられます。

・特定の分野の上級者の体験(例:通算100カ国以上訪問歴のある旅行者)
・特定の疾患や事故の体験(例:指定難病患者)
・固有の会社や職場、職種での体験(例:調査対象の学校に勤めている人、特定の分野の医療従事者)
etc...

いずれもハイコンテキストな内容が語られそうなテーマばかり。
当然、リクルーティングのポイントは「共体験」となるテーマを語り合える人たち同士かどうか、というのが一つ大きなポイントとなってきます。

グルインに大事な、モデレーターの関わり方

また、モデレーターの関わり方は、デプスとグルインでは異なります。
「当事者同士の共体験」から、仮説抽出に必要なデータを得るために大事なことは以下の二点だと私は考えています。

①複数の当事者を「師匠」として、モデレーターは「弟子」の立場で入ることを明示する
②当事者同士が共体験を語り、深めるための関わり方をする


①②について、特に大事だと思うのはインタビュー冒頭のトークスクリプト。短い時間だけど、弟子である立ち位置と同時に、自分の関わり方を明示する大事な時間だと捉えています。

例:今日は○○のインタビューにご参加くださり、ありがとうございます。今回のインタビューの進行を務める〇〇と申します。
私は〇〇の分野についてはまだまだ初学者ですが、今日は皆さま一人一人がお持ちの思いや体験を、大事に伺っていきたいと考えています。
初学者ゆえに、皆様のお話しを理解し、単語や略語等、質問をさせていただくことがあるかもしれません。その際は、ご協力いただければ幸いです。

特に太字部分。どんなに予習しても、モデレーターはテーマに熟達したプロにはかないません。でも、参加してくださった一人一人を尊重して、大事に話を聞いていきたいという思いは、行動を通じて必ず伝わります。

トークスクリプトや基本的なラポール形成の手法に加え、当事者同士が共体験を語り、深めるための関わり方としては、私はビジュアルによる視覚化がすごく有効だと考えています。

・相手の話をうけとめたと、行動をもって伝えることができる
・構造的に話を捉えられるため、「深掘りしたいところ」「足りないところを」参加者同士や、インタビュー実施者チームでも見つけ、さらに語り深めることができる


という二点からです。
私が勤めているグラグリッドでは、モデレーターとグラフィッカーがチームになって、グラフィックレコーディングによる視覚化を行っています。
(リアルタイムドキュメンテーションで実施することもあります)


モデレーター、及びチームでグルインに関わる人に大事な「予習」=グルインを演じること!

グルインのモデレーターに大事なのは、参加者一人一人の当事者としての体験や思いを尊重し、大事にする心構え。
でも、その心構えだけあっても、行動がないと参加者には伝わらないし、いいデータを得られることはできません。

そこでおすすめなのが、グループでの「予習」です。
一番効果的な予習方法…それはグルインのアクティングアウトをすること!

チームで役割を分けて、設計されたグルインの内容を実践してみるのです。

・モデレーター役
・視覚化する役(配置する場合)
・参加者役

ポイントは、アクティングアウトをする前に、10-20分程度の準備時間を設けること。

・モデレーター役と視覚化する役の人:インタビューガイドを読み直したり、進行を話し合うなど作戦をたてる

・参加者役の人:自分が参加者になりきれるよう、情報収集を行う。
熟達者のブログや、患者さんの体験記など読んで、あたかも参加者に近い属性になりきって専門用語や略語等、なりきって語れるように準備しておく。

そしてグルインのアクティングアウトを実施。
演じてみることで、見えることって多々あるのです。

・インタビューガイドの改善点
・モデレーターや視覚化役の関わり方のいいところ、弱点
・参加者がどんなことを語りたいと感じたか
・頻出してくるハイコンテクストなワード、略語
・ハイコンテクストなワードや略語、話題を深掘りするための声掛け

などなど。アクティングアウト後、全員でふりかえりをすると、集合知でグルイン本番へむけて改善方法も見えてきます。
また、すごくこの予習で効果的なのが「わからないことに出会った結果、モデレーターが不安になって集中できなくなる」という状況を事前に体験できる、という点。

ハイコンテクストなテーマ&参加者で、しかも半構造化インタビューであれば、わからないことは必ずでてきます。
わからない不安に集中するのではなく。
わからないことを捉え、そのうえで参加者との理解の橋をかけたり、深掘りするきっかけとなる行動がとれるよう、アクティングアウトで予習できるといいのかなと考えています。

戦略的にグルインを組織の活動へ活かす

ちなみに、何かの仮説抽出を目的としたプロセスに出会った場合、リサーチャーとしては、デプスとグルイン、両方の手法を提案することも多いです。
手法を選択する議論をきっかけに、プロジェクトや組織の状況を深く理解するきっかけとなるからです。(事前にある程度、「今回はデプスが本命かな」等のあたりは当然つけています。笑)


▼デプス実施を決めた状況例
・デプスインタビューを大事な社員教育の機会と捉えている場合

「組織でインタビューをできる人を増やしたい!」
「初学者の実践教育の場としても活用したい!」


・顕在的なデータは組織に十分にある場合

「構造化されたグルインや、定量アンケートは行ってきたが、顕在的なものは見えつくした気がする。深く一人一人の潜在的なところから仮説抽出をしたい。」
「でも行動観察はハードル高いなあ…」


▼グルイン実施を決めた状況例

・テーマの中で、深掘りしていく分野を見定めたい場合

「特定の疾患体験の中でも、発病~悩む~通院~治療開始~寛解~新たな生活構築、といったように、テーマの中でどこをより深掘りすると事業活動に資するかを捉えたい。」
「グルインで全体と、取り組みに価値がありそうな分野を見つけて、次にデプスで分野を深掘りするというプロセスにしたい」


・実施するリソース(人的・時間的・資金)が限られている場合

「はじめて組織でインタビューを実施する。でもその大事さを知っているのはごく一部…」
「(デプスより深掘りできないことは理解したうえで)まず「ユーザー/生活者の声をきいてみる」ところからはじめて、その価値を組織内で共有し、徐々にリサーチの大事さを啓もうしていこう」
「経営層は立ち会う時間が限られている。大事なところにまずたちあって、組織で考えていることと生活者/ユーザーとの乖離を実感してほしい」


・PR活動・広報活動など、他の目的と併せてリサーチをしたい場合

「サービスのアンバサダーの人をご招待して、関係性を深めたい。さらに、サービス改善へのヒントがほしい」
「デザイン部門でのリサーチの予算がない。でも広報活動での予算をとってくることができる。広報部も生活者のことをもっと知りたいと思っている」


最初はデプスを想定していた場合も、実は組織やプロジェクトの状況を話すうちに、グルインに手法が変わったりすることも多々あります。(逆もまたしかり)

一つの組織やプロジェクトの中では、組織の状況とプロジェクトの成果の最適化された結果、リサーチ手法が固定化することもありがちです。
でも、デザインリサーチの導入にあたり、プロジェクト、組織の状況は様々だと思うのです。
リサーチ単体での成果はもちろんですが、プロジェクトや組織の状況も捉えたうえで、最適な手法論を考えていくことが大事なのではないかな~と思います!※

※こういう判断は、HCD-Netの人間中心設計専門家の人に求められるコンピタンスですね!(私も人間中心設計専門家の有資格者です)

※プロジェクトや組織の状況リサーチも、リサーチャーの大事な仕事です!


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