【人生ノート309】体験なき人に力はない
体験の人たれ
青年は夢多きものである。その夢のヴェールをかなぐり棄てて、いさぎよく人生の戦場におどり出るべきである。理想は理想として、みにくき現実を一歩一歩踏みしめてつつうすむべきである。現在の足場を知らずして、なんの建築ができよう。体験なき人に力はない。多岐多端、変転複雑きわまりなき活社会をほかにして、どこに学校があり教室があろう。
新日本の青年はすべからく机上の空論をやめ、お座敷水練をやめて、単刀直入、活社会にふれて悟るべきである。
とくに、近代教育の弊は、人間をして機械化せしめ、小品化せしめ、角(つの)をためて牛を殺し、むやみな注射で脈管を硬化せしめているにすぎない。ああ、頭すすんで脚すすまず、理路整然として、しかも、その実践のなんらみるべきものなきは現代青年の一大通弊である。
体験なき哲学はついに砂上の楼閣、海上の蜃気楼のみ、瞬時にしてくつがえり、須臾にして消えん、体験をほかにして永遠の所得はない。
いたずらに口舌的イズムの桎梏(しつこく)にとらわるることなく、自由無碍なる大天地の真相を体得すべきである。
『信仰雑話』 出口日出麿著