【連作】絶対愛主義
先生がホログラムになった。
スマートウォッチよりも細くて、繊細を極めたアクセサリーのような腕輪に「Hi! 先生!」と呼び掛けると、腕輪に取り付けられた四角い装飾から虹色の光がブワッと沸いて、ウン分のイチのスケールの先生が半透明に浮かび上がるのだ。
初めて目にした時は驚きすぎて、半日意識を失った。起こしてくれたのはホログラム先生だった。
近未来の存在になったからには、先生はスゴーイ存在になったのだろうと漠然と思った。
ので、色々な質問をしてみた。
例えば、
「先生にとって『愛』とは何ですか?」
──慈しむものです
「生徒が殺されそうになっていたら如何しますか」
──身を挺して守ります
「私が殺されそうでも? バラバラ遺体になっても食べたりしません?」
──勿論です 貴女の代わりに私が死にます 貴女には未来があります 貴女を食べるなんて勿体ないです
「先生にとって極上のエロ本は?」
──『源氏物語』
ここまで聞いて、私は耐えきれずに先生のホログラムを壊した。壊したなんて優しいものじゃない。媒体を再構築不可能なほどに粉砕した。
何故、愛する先生のホログラムを投影する媒体を粉砕したのか。理由は簡単だ。
あんなもの、先生じゃない。
先生は端的に言ってグロエロが好きなのだ。愛は蹂躙するものだし生徒は使い棄てにするもの。私が殺されそうになったら喜んでカメラを構えるに違いない。もしも「止めろ!!」と言ったなら、その後に「僕に殺らせて!!」と叫ぶだろう。そういう人なのだ。
故に私は、どんなに優しくて可愛くて倫理的で人間的だとしても、ホログラム先生を『先生』と認識することは出来なかった。何処までいっても紛い物だった。
だから私はホログラム先生を壊した。投げつけて踏みつけて石を振り下ろして粉々にして川に流した。湾を見渡せる場所には行かなかった。紛い物の先生が混じった海なんて反吐が出る。
或る意味で、それこそが私の愛だった。
(了)