万年筆の本・5選
2年程前、丸善で万年筆を買った。
以前から興味はあったのだが、パソコンがある時代に万年筆を使うことはないだろうと思っていた。
しかし、あるモデルと出会うことで考えは一変した。
丸善150周年記念『檸檬』
梶井基次郎の短編小説とのコラボモデルである。
作中の最後にレモン型爆弾によって爆発される丸善がこの商品を出すことの衝撃は大きかった。
最高に洒落が効いている。
「これは買うしかない」そう思い、すぐに電話で予約注文を行った。
ペン先のサイズはよくわからないので、M(中字)を選択した。
サイズが3つあれば、取り敢えず中くらいを選ぶのが日本人である。
後にペン先はF(細字)へと研磨することになるのだが、その時はペン先のことなどまるで意識していなかった。
そんな経緯で檸檬を手に入れてから、2年近く万年筆を愛用している。
買うまでは敷居の高い道具だと思っていたが、使ってみれば鉛筆と大差ない筆記具である。(手間は多いが)
そして、万年筆を使い始めてから関連の本も手に取るようになった。
読んだのは数冊程度だが、今回は万年筆にまつわる本の書評を行おうと思う。
1.万年筆バイブル
「万年筆の本」で検索すると、間違いなく上位に表示される一冊である。
バイブルと謳うにふさわしく、万年筆の歴史、万年筆の仕組み、万年筆メーカーの特徴を章ごとにわかりやすく解説している。
読んで良かった点を引用してみる。
最初の試し書きでオススメしたいのは国内製の1万円台の万年筆です。
①PILOT カスタム74
②セーラー プロフィットスタンダード
③プラチナ #3776 センチュリー
実に真摯なラインナップである。
この3本のどれかを手に取れば、失敗することはないだろう。
プラチナはヘビーユーザー向けという設計理念があります。
書くそばから手で文字を汚すのを避けるために、インクの出る量を抑えるように設計しています。
サリサリとした書き心地の理由が設計思想にあるとは気づかなかった。
理想の万年筆を求めて開発されただけはある。
ペン先のイリドスミン球を製造しているメーカーは世界に2社しかありません。
ひとつはドイツのヘレウス社。
もうひとつは、パイロットです。
パイロットは品質が高く、個体差が少ない。ラインナップもエントリーモデルからハイエンドモデルまで充実している。
ちなみに檸檬のベースモデルもパイロット製である。
2.万年筆インク紙
片岡義男による、万年筆と紙にまつわるエッセイ。
パーカーのウォッシャーブルーという廃盤になったインクを求めて文房具店をさまよう話が面白い。
しかし、この作品は何かと読みにくい。
章が分かれておらず、万年筆と紙に関する思いが延々と綴られているため、全体的にダラけた感じになっている。
写真もないので、余程の万年筆マニアでなければ退屈してしまうだろう。
中級者以上向けのエッセイだと感じた。
関係ない話だが、この作家の名前を聞くと『鬼滅の刃』の冨岡義勇を連想してしまう。
3.生物としての静物
物にまつわるエピソードを集めたエッセイ。
モンブランの万年筆に関するエピソード『この一本の夜々、モンブラン』を読みたいがために購入した。
万年筆ファンは開高健が愛用していたモデルのモンブランを「開高健モデル」と呼んでいるらしい。
作中で筆者はモンブランのことを老朋友と喩えているのも良い。
老朋友 : 古くからの付き合いがある友人
ちなみに中国文人の文房趣味のことを文房清玩というらしい。
昔の作家は含蓄のある言葉をよく知っているので勉強になる。
私はこの話を読んでマイスターシュテュック149を買うことを決意した。
4.余と万年筆
日本人なら皆知ってる元1,000円札の人の1冊。
教科書で読んだ『こころ』を除けば、漱石先生の本を読むのはこれが初めてである。
丸善で買ったペリカンの万年筆を愛用している漱石先生だが、作品を読むと様々なインクを継ぎ足しながら使っていることが分かる。
※本来はインクの種類を変えるたびに洗浄が必要。
そして、漱石本人もNG行為と分かりながらやっている。
繊細な作品を書く人だからといって、道具の扱いに関しては繊細ではないようだ。
5.ムツゴロウの本音
"ムツゴロウさん"こと、畑正憲による本音集。
万年筆にまつわるエピソードは数ページ程度だが、ドイツのペリカンに対する熱い思いが伝わってくる一冊。
ムツゴロウさんはドイツのペリカン400を愛用しているのだが、書き味が良すぎるために「良すぎるのはいかん」と悩んでいるところが面白い。
あまりに気に入っているせいか、ペリカンを失うのが心配でペン先の寿命を専門店に相談に行っている。(神田・金ペン堂)
失うのが心配になるほどの書き心地というのは想像がつかないが、生涯のうちに1本はそういうペンに出会いたいものである。
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