アラバマシェイクス/Sound & Color
どうやってこの感覚を曲にしたんだろう。
それが一聴した後の感想だった。
2010年代の中頃だったと思う。iPhoneのCMの中で幻想的な音楽が流れてきた。
iPhoneはディスプレイの解像度の良さを誇示するため、複雑な発色の画像(映像)を使用する。
サーティーワンのアイスクリーム全種類が宇宙で爆発したかのような、やたらと発色数が多い画像が印象的だが、アラバマシェイクスの「Sound & Color」はこの“発色多い宇宙感”に実によく合っている。
2000年代の音楽産業のことはよくわからないけど、最近は音響機材の発達に伴い、どんどん完璧なレコーディングが求められているように感じる。ノイズや意図しない音(古い音楽の“味のある”一発録りによくみられた)などの“余計なもの”を排除してきたように感じる。
そういう、本来のレコーディングに沈殿している“澱”のような音の粒たちが自分は好きだったりする。
不本意な音が入ったら録り直し、ノイズが出たらソフトで修正、一箇所でもクリップしたら商品にならない…etc。機材が発達するとどんどんそういう“匂い”を消す方向に向かう。
しかし、2000年代において、これほど“ナマ臭い匂い”を放つ音楽が、リリースされ、大衆に支持され、売れているという事実に直面すると、「まだ駄菓子屋があったんだ」的な懐かしい安心感がある。
なんてったって、アンプのジリジリ言う音、バスドラの“部屋鳴り”そのままのアンビエンスを、文字通り“そのまま”閉じ込めて、パッケージングしてあるのだ。
ナマを詰め込みまくりやがってるのである。
さらに特筆すべき点は、リバーブ処理。
最近、(というか2010年代)は、極力リバーブをかけずに乾いた音にする傾向があるように感じる。
80〜90年代の華麗でゴージャスな、今聴くとワザとらしい(これはこれでアジがある)リバーブとはまた違った、“意図的に”施されたリバーブ処理がなされている。
エイミーワインハウスの曲にも共通するような“意思を持った”曲構成に不可欠なリバーブ処理だ。
曲の後半、シンセサイザーともストリングスとも言えないような音の群れたちが鳴き始める。鳴き声は宇宙空間を漂っている。
我々が知る由もないような、地球の外側へ行っているかと思えば、脳内にある原子、分子間のミクロな宇宙。
シナプス同士の神経物資の行き来を芸術的に表したかのような光景が瞼の中に映し出される。
悲しみとか、嬉しさとか、何かの感情表現ではなく、それら全ての“思い出”をつぶさに見つめている、そんな感じ。
それを、体重100kgはあろうかというオバちゃんがSGを弾きながら歌っているのだ。
見たくないわけない。
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