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【振り返り】2024年7月
こんにちは。東です。
さて、2024年7月を振り返っていきます!
【臨床】 今月の臨床
テーマ|脳梗塞の後遺症
今月は脳梗塞の後遺症です。
今回は、軽度の脳梗塞の後遺症で手足に感覚異常をお持ちの方です。
それをどのように治療するのか、一例としてみてみましょう。
1.現病歴
60代男性で、睡眠中に脳梗塞を発症しました。
いつもとなんとなく違うなと異常を感じるも数日を過ごした後、飲み込み(嚥下)がうまくいかないことで不安となり、病院へ駆け込みました。
視床下部という所に小さな脳梗塞がみつかり入院。
すぐに処置を行いました。
右手足の感覚異常が残りましたが、命の危険や運動麻痺が残らなかったことは不幸中の幸いかと思います。
その後、知人を通じて当院へお問い合わせがありました。
この患者さんの症状は、脈診所見とツボの現れ方、会話の内容を判断材料として、肝鬱気滞を主とした中風証(ちゅうふうしょう)と診定めました。
2.鬼哭の灸
鬼哭(きこく)とは「鬼が哭(な)く」という意味で、鬼が哭くほど熱いとか、身体によりついて悪さをする邪気(鬼)を泣かせて追い出す(払う)などの意味があると考えられています。
手や足の親指を結んで、両方の爪の際に均等に熱さが通るようにお灸を据える特殊な灸法です。
鬼哭の灸に用いられるツボは、鬼眼穴と呼ばれ、別名に鬼哭穴があると言われています。時代考証てきには、鬼眼穴が先出のようです。
3.穴名と灸法名について
鬼眼穴という穴名は、明代(1368~1644年)に書かれた『神応経(しんのうきょう)』という書籍の、「心邪癲狂部(しんじゃてんきょうぶ)」に初めて記載されたといいます。
【鬼眼穴の初出】
鬼眼
四穴、在手大指、足大指内側爪甲角、
其交娃半在爪上、半在肉上、三壮極妙
一方、鬼哭穴の穴名は同じく明代の『鍼灸聚英(しんきゅうじゅえい)』という書籍の巻二「秦承祖灸鬼法」が初出であるとされています。
「秦承祖灸鬼法」という灸法名の元は『太平聖恵方(たいへいせいけいほう)』巻百の「秦承祖灸狐魅神邪及願狂病…」からの引用といわれているそうです。
(狐魅、神邪、及び願狂病に用いる、、か。)
また「秦承祖灸鬼邪法」という灸法名は、南宋(1127~1279年)の『鍼灸資生経』が初出とされており、その他『普済方』巻四百十七や『医学正伝』巻之五、『万病回春』巻之四および『医学新知』八巻にも明記されている。
しかし結局これらの記載の元はすべて、直接の引用ではないものの『太平聖恵方』巻百にあるといわれています。
(『太平聖恵方』、恐るべし)
4.お灸の据え方
『鍼灸阿是要穴』巻之四には、鬼眼穴の取穴と灸法について記載がある。
鬼眼穴の取穴と灸法
病者の両手掌合しめ
柔なる綿縄を用て
両手の大栂指を縛り定めて
両指の爪甲の内肉を並そろえて其間に灸す。
…両爪甲角と爪の生際の肉とに半づつ艾を加て灸す
…足も亦た法を同す
鬼眼穴の取穴法は唐代(618~907年)に編纂された『千金方』巻十四・風癲第五が元になっていると言われています。
卒中邪魅胱惚振喋、
灸両手足大指爪甲本、
令交丸、半在爪上、半在肉上…
このように鬼眼穴への灸法は、手足四カ所を取穴するのが一般的のようです。
一方、鬼哭穴とや秦承祖灸鬼邪法の取穴については、なぜか手のみであって、その元も同じく『千金方』巻十四・風癲第五にあります。
狐魅、
合大指、縛指灸分間…
なぜなんでしょうね~。
師匠・伊藤瑞凰先生は、軽度の癲証などの脳疾患は手のみでよく、重度になり気逆の強いものには手足の両方に据えるとよいのだよおっしゃっておりました。
本当のところはわかりませんし、古典治療は解釈学なので、色んな解釈で色んな治療方法や理論を発展させていくことが良いのではないでしょうか。
もちろん、古典の原文読解の基礎に立ったうえで。
参考資料:鬼眼穴の考察
5.十三鬼穴
百邪癲狂所爲病
針有十三穴須認
凡針之體先鬼宮、次針鬼信無不應、
一一從頭逐一求、男從左起女從右、
一針人中鬼宮停、左辺下針右出針、
第二手大指甲下、名鬼信刺三分深、
三針足大指甲下、名曰鬼塁入二分、
四針掌後大陵穴、入寸五分爲鬼心、
五針申脈名鬼路、火針三下七鋥鋥、
第六却尋大杼上、入髪一寸名鬼枕、
七刺耳垂下五分、名曰鬼床針要温、
八針承漿名鬼市、從左出右君須記、
九針間使鬼窟上、十針上星名鬼堂、
十一陰下縫三壮、女玉門頭爲鬼蔵、
十二曲池名鬼腿、火針仍要七鋥鋥、
十三舌頭當舌中、此穴須名是鬼封、
手足両辺相對刺、若逢狐穴只単通、
此是先師真妙訣、狂猖惡鬼走無踪。
第一初下針,從人中名鬼宮,在鼻下人中左邊下針,出右邊。
第二次下針,手大指爪甲下三分,名鬼信。入肉三分。
第三次下針,足大指爪甲下,入肉二分,名鬼壘,五指皆針。
第四次下針,在掌後膻紋入半解,名鬼心。
第五次下針,在外踝下白肉際,火針七, 三下名鬼路。
第六次下針,入發際一寸,大椎以上火針七, 三下名鬼枕。
第七次下針,去耳垂下五分,火針七, 三下名鬼床。
第八次下針,承漿從左刺出右,名鬼市。
第九次下針,從手膻紋三寸兩筋間針度之,名鬼路,此名間使。
第十次下針,入發際直鼻上一寸,火針七, 三下名鬼堂。
第十一次下針,陰下縫灸三壯,女人玉門頭三壯,名鬼藏。
第十二次下針,尺澤膻紋中內外兩紋頭接白肉際七, 三下名鬼臣,此名曲池。
第十三次下針,去舌頭一寸,當舌中下縫,刺貫出舌上。仍以一板膻口吻,安針頭令舌 不得動,名鬼封。
『千金翼方』針邪鬼病圖訣法
鬼眼穴や鬼哭穴にもちいるのは、手太陰肺経の井木穴である少商穴(鬼信穴)と足太陰脾経の井木穴である隠白穴です。
6.治療の流れ
今回の治療構築は、脳の異常亢進による異感覚の鎮静を目的に、鬼哭の灸を始め、脳に関わる治療法を組み合わせて行いました。
一年以上、週一回の治療にみえておりますが、残念ながら脳梗塞以前の状態に戻るという事はございません。
恐らくきっとこの先も、感覚異常や痛みとは共存していかなければならないと思います。
しかしながら、鍼灸で何もできなかったのかと言われればそうではないと思います。
鍼灸治療後はからだが温かくなり、ズキズキっとした痛みは軽減され、ピリピリとした感覚異常も穏やかになるとおっしゃられております。
鍼灸治療を受ける前と後では、日常生活を気持ちよく過ごせる時間が長くなるように思います。
治病だけではなく、QOLを高めるということも大事な鍼灸の役割なのではないかと思っています。
では、今日はこの辺で。
【教育】 東塾
第二回目の看護師さんに東洋医学の講座を行いました。
【研究】 医学史の講座⑥
テーマ|「戦後日本における漢方・伝統鍼灸-伝統と科学の間(はざま)で 」
1.本講座の感想
西洋の科学的な研究様式によって、現象を観察し原理を考察することによって様々な知見を得てきた時代。
戦後の心身医学では、1920~40年代の生理学研究の成果を受けて「心身医学」が成立。
日本では池見酉次郎(1915-1999年)が精神身体医学会(1960年)を創立し(後に心身医学会に改称)、九州大学で心療内科講座を設置 (1961年)する。
生理学の分野では、 Henry Headがヘッド氏帯提唱(1893年)、Langleyが「自律神経」の概念(1898年)、 Walter Canonが『身体の知恵』(1932年)、 Hans Selyeがストレス学説を発表(1936 年)など、目覚ましい発見が相次いだ。
日本においては、橋田邦彦が日本医学研究会を発足(1935年)。
眼に見えない心理の分野、生理学の分野において、科学的知見が実っていった。
昭和鍼灸の大家である柳谷素霊(1906-59)も、1935年に日本医学研究会に所属していたようだ。
その他にも、1930年には日本大学法文学部宗教学科卒業を卒業し、西田幾多郎・カーライルの著作の影響を受けたとされる。
また1936年には偕行学苑に合流し、大塚敬節、矢数道明ら漢方医との交流。
そして1943年には自らを顧問として日本鍼灸医学研究所創設するなど、鍼灸師のみならず、様々な学統やコミュニティに身を置いたという点は、私の考えている柳谷素霊実業家説をなお一層強くした。
2.日程
次回は、8/18(日)21:00~!
▼申し込み|歴史の講座
講座の詳細はこちらからも見られます。
❋満席の表示ですが、参加可能ですので遠慮なくお問い合わせください!
【連携】医師からのご紹介
とある病院の医師から、今抱えている症状には鍼が良いよといって、鍼灸治療を勧められたという患者さんがいらした。
珍しいですね。
なんでも今抱えている症状は西洋医学的な治療では手の施しようがない上、海外の論文では鍼灸治療で効果があるとエビデンスが出ているから、やってみたらいかがと言われたようです。
エビデンスが全てではないが、エビデンスは大事。
できることから、鍼灸を科学のベースにあげていきたいですね。
【開発】 鍼管の相談
先月、大阪にお住いの板金屋さんの仲介をされている社長さんとお話しさせて頂いた直後、姉弟子から神戸源蔵四世制作の寸六の俵型鍼管を頂いた。
なんとも偶然。
ゆっくりでいいから、リメイク、リワークをしていこう。
道具のない未来があってはいけない。
今回も読んで頂きありがとうございます。ISSEIDO noteでは、東洋医学に関わる「一齊堂の活動」や「研修の記録」を書いています。どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを共有しています。臨床・教育・研究・開発・連携をするなかで感じた発見など、個人的な話もあります。