【振り返り】2024年5月
こんにちは。東です。
さて、2024年5月を振り返っていきます!
【臨床】 今月の臨床
テーマ|眼内レンズ挿入後の眼が見えない感じ
今月は、白内障手術後の眼内レンズ挿入後のマイナートラブルを患っておられる方からのお問い合わせが続きました。
眼から入った情報は脳へ送られて、脳がその情報を処理します。
これまで曇ったレンズのフィルターで、なんとか脳がなるべく見えるように試行錯誤して映像を認識していたのですから、視覚情報の認知の過程を考えてみると、フィルターがなくなってもそれまでの脳の工夫の痕跡によって誤作動を起こすことがあります。
単純に手術後の炎症が遅延したり、アレルギーの季節と重なったこともあり花粉症の延長で腫れたり、色んなことがあります。
1.現病歴
今回の患者さんは白内障手術後から眼内レンズを挿入したものの、4カ月近く見えずらい感じが治らず、ご友人様を通じて当院へいらっしゃいました。
鍼は初めてのご様子。
悩んでおられた分だけご自身で病態を分析されておられました。
概ねの理解としては間違っていないと感じましたので、一通りお話を伺ってから内容を整理しながら図示して、お互いに病態理解を正確にし、治療に移りました。
このような西洋医学的処置後の治療法については、もちろん何百年、何千年前の東洋医学の古典には記されておりません。
しかしながら、昔も草が眼を突っついて赤く腫れたりして赤くなったり、そのような腫れがないけど目が見えなくなるということは、これまでも沢山研究されてきました。
目が赤く腫れたりする結膜炎などは外障(がいしょう)といい、腫れてないけど見えなくなるものは内障(ないしょう)と呼ばれました。
昨今の白内障や緑内障などの語源も、実は東洋医学の病名から来ているのですよ。
ですから、全く同じ経過を追っている病気はなくても、古(いにしえ)の病態と類似した病態から類推し、未知の病態に対して治療方法を構築していくヒントを、古典からもらえることがあります。
この患者さんの症状は、脈診所見とツボの現れ方、会話の内容を判断材料として、脳の誤作動を癲証(てんしょう)と解釈し、眼内の毛様体筋の疲労を眼精疲労と診定めました。
2.目と脳と古典
「諸脉者皆屬於目、諸髓者皆屬於腦」
東洋医学の古典である『素問』五藏生成論篇第十では『諸脉者皆屬於目、諸髓者皆屬於腦(もろもろの脈は皆目に属していて、もろもろの髄は皆脳に属しているぞ』(超意訳 東)といわれ、眼には十二経脈のすべてが関連しているし、脳は髄と関係しているとされています。
「腦髓 … 名曰奇恒之府」
また脳髄のちょっと変わった立ち位置を表現している『素問』五藏別論篇第十一では『腦髓骨脉膽女子胞、此六者、地氣之所生也。皆藏於陰而象於地、故藏而不寫、名曰奇恒之府(脳・髄・骨・脈・胆・女子胞の6つの内臓は、地の気より生まれると言われており、これらはみな(陰陽でいう)陰の部類の五蔵と同じように地に象るので、(大切なものをしまっておく倉のように)蔵して出すことはありません。(が、五蔵六府という内臓の中心選手とは違って特殊なので)奇恒の府と名付けられています』(超意訳 東)といわれ、脳髄は特別枠に分類されています。
「腦爲髓之海」
そして脳髄の働きの過不足について『霊枢』海論第三十三では『腦爲髓之海 …中略… 髓海不足、則腦轉耳鳴、脛痠眩冒、目無所見、懈怠安臥(脳は髄の海である …中略… 髄の海(脳の働き)が低下すると、めまいや耳鳴りがしたり、足が重く感じたりくらくらしたり、目が見えなくなったり、からだがぐでぇーっとなってしまいます』(超意訳 東)といわれ、脳髄の働きが低下すると目が見えなくなるという事が書かれています。
「五穀之精液 … 補益腦髓」
それではどうやって脳髄の不足を補うのかというと『霊枢』五癃津液別第三十六では『五穀之精液、和合而爲膏者、内滲入于骨空、補益腦髓、而下流于陰股(後天的に食べ物から得た栄養分である五穀の精液が、元より先天的に持っていた先天の精とまじわり合うことで膏(あぶら)なり、それが骨の
中に染み入ることで脳髄が補われて、内股の方向に流れていきます)』(超意訳 東)といわれ、結局の大本の大本は胃腸の状態を元気にして、食べ物を消化吸収できるようにすることと説いています。
3.治療の流れ
今回の治療は、①「五穀之精液 … 補益腦髓」をヒントに大本の脳髄を養う胃腸の状態を良くする治療、②「諸脉者皆屬於目、諸髓者皆屬於腦」をヒントに眼に関連している蔵府経絡を調える治療、③眼や脳を直接調える現場の治療の3部構成で構築しました。
大本の治療としてははじめに、お腹に温灸を行い脾胃の働きを促進し、五穀之精液(栄養素)を益して、脳髄を養うための基盤を作ります。
次に、瞼を閉じた眼の上に温灸を載せ、余熱で眼を温めることで患部の血流を良くして、眼自体の機能改善を図ります。
そして、経絡経穴を診察して、眼と脳に関わりのあるツボを選びます。
今回の反応穴は、足厥陰肝経の親指と人差し指の間に位置する太衝穴(たいしょうけつ)と、足大腸膀胱経の背中に位置する膈兪穴(かくゆけつ)でした。
膈兪穴を眼の治療として使うのは、膈兪穴が「血会」の側面を持っているからです。
とても古い『難経』という書物の中に出てくる八会穴(はちえけつ)を応用した主治法方になります。
週一回の治療で眼の見えづらさが改善してきました。
また治療を続けてみる中で、見えづらい方の歯にトラブルがあることもわかりました。
眼の問題は、眼だけの問題ではありませんね。
めでたしめでたし。
【教育】 いろは塾、東塾
今月は伊藤瑞凰先生の弟子による古典研究会(通称、いろは塾)と、私の主催する少人数制の古典鍼灸実技の勉強会(通称、東塾)がありました!
テーマ|800年前の鍼灸の天才・竇漢卿の十四法について
現代から約800年前に現れた知る人ぞ知る鍼灸の天才・竇漢卿(とうかんきょう)の鍼法について触れました。
前回は彼が世に著した八脈交会穴について発表し、今回は十四法を基本に得気・至気について報告しました。
いろは塾では、伊藤先生の弟子や私淑しているキャリア20年以上の先生方とワイワイと議論しながらの講義となりました。
伊藤先生の鍼の風合いというか、竇漢卿からどこか面影を感じるのよね。
東塾では2班に対して2回の講義をしました。
直接伊藤先生の鍼は見たことない方々ですが、本講義を通じて伊藤先生の鍼の打ち方の片鱗を感じて頂けたらと思いましたね。
ポイントは「一豆(ひとまめ)の法」(笑)
古典を学ぶのはおもしろい。
【研究】 医学史の講座④
テーマ|西洋医学の中で東洋医学(漢方・鍼灸)はどのように生き残ったか?
東郷俊宏先生による医学史の講座です。
1.本講座の感想
明治時代の日本の西洋医学の医師。
特に、生理学を基盤とした日本の医師らが鍼灸に興味を持ち、生理学的に治療機序や効果効能を解明しようと試みていました。
昨今でも、生理学的な側面から鍼灸を解明していく番組が放送されていましたね。
▼[NHKスペシャル] 冨永愛さんが体感!“肩こり”と“冷え”を改善するツボ | 東洋医学を“科学”する ~鍼灸(しんきゅう)・漢方薬の新たな世界~
あと、特別ゲストとして本講座でもモクサアフリカの伊田屋ゆき先生にお話を伺がいました。
なお、NHKスペシャルには伊田屋ゆき先生も出演されておりました!
▼[NHKスペシャル] お灸、鍼(はり)、漢方薬…東洋医学がなぜ効くのか?最新科学で解明!| 東洋医学を“科学”する 〜鍼灸(しんきゅう)・漢方薬の新たな世界〜
(裏番組みたいにお話を伺いました…笑)
アフリカの方々のお灸に対する警戒心は如何に。
という内容のご質問に対し、そもそもアフリカの方々はからだの特質上、皮膚が強く痛みや熱さを感じずらいそうで、あまり熱いことがストレスにならないとのこと。
また、部族の儀式で野草を燃やすことがあるので、お灸の原料がヨモギであると伝えると妙な親近感を得るのだそうだ!
思ってもみない角度から興味を持ってもらえることがあり、人の認知は面白い!
2.日程
次回は、6/16(日)21:00~!
興味が出た段階でご参加頂いても全く問題ありませんので、ぜひ申し込みしてみて下さい!
▼申し込み|歴史の講座
講座の詳細はこちらからも見られます。
【連携】 中医臨床カンファレンス
今月は鍼灸師と医師の症例検討会であるDAPAカンファレンスではなく、同じく東方医学会の医師が症例をもとに中医診断、弁証、治法など、日々の診療に中医学を取り入れている講師を中心とした意見交流会に参加しました!
テーマ|線維筋痛症
1.線維筋痛症とは
今回も良き学びがありました。
線維筋痛症の治療を難しくしている要因は、なんといっても原因がわからない事です。
そしてその症状が非常に辛く、時には希死念慮を抱くほどの痛みを感じることもあると講師陣からもありました。
西洋医学的に原因がわからない場合には、東洋医学的に病気の原因(病因)や病気のメカニズム(病理)を解釈することで活路を探します。
今回の症例では、痛みの原因を4つに分類して分析していました。
2.痛みの原因を4つに分類
一つは「気痛(きつう)」で、離婚後のストレスにより肝気鬱滞を招いたことが直接的な原因です。
二つは、肝気鬱滞が長引くことで蔵府に影響を与えだします。良くある型式(パターン)としては、木剋土(もっこくど)と呼ばれる状態が多く現れます。
木剋土とは、肝鬱による気滞によって胃腸の働きが抑えられた型式を示しています。
胃腸の働きが低下し、栄養の消化吸収が不良となることで気血の生成がうまく行われず、気血の不足を招いた二次的な原因で「虚痛(きょつう)」です。
「久病成虚(きゅうびょうせいきょ)」といい、病が長期化することによって、気血の不足すなわち虚証に傾いていくことを示しています。
三つは、同じく肝気鬱滞が長引くことで、今度は気血水に影響を与えだします。
「気は血の帥(すい)」という言葉があるように、気は血を率いる船頭の様だと言います。気が巡ることではじめて血や水が巡ることができます。
そのため、肝鬱気滞によって血の巡りが悪くなり、血と関りの深い絡脈に滞り、血の巡りが悪化したことによって二次的な原因で「瘀痛(おつう)」です。
「久病入絡(きゅうびょうにゅうらく)」といい、病が長期化することによって、特に血の巡りが悪化すなわち瘀血という病理産物を形成していくことを示しています。
四つは、まずは気滞をキッカケに、二次的に虚痛と瘀通を表しました。
虚痛の原因は気血の不足です。つまり代謝が低下して体を温めるエネルギーが不足している状態です。
また瘀痛の原因は血の停滞です。つまり体を温めるエネルギーがとても巡りづらくなっています。
温めるエネルギーの不足に加え、巡りづらくもなっていることで強い冷えを起こす「寒痛(かんつう)」です。
問診や触診を通じて得た情報を元に、これら4つの痛みが相互に関連し、重なり合うようにして線維筋痛症の痛みを引き起こしていると分析されていました。
あとは証に対して治療を行うという、弁証の素晴らしさが光る症例でした。
3.参加資格と日程
次回は6/24(月)の20:00から行っております。
ご興味のある方はぜひお問い合わせ下さいませ!
▼申し込み|中医臨床
【開発】 員鍼(えんしん)
地元の置戸町にある石井工業さんに2種類の員鍼の製作を御依頼させて頂きました。
はたして、どんな風に仕上がるかな……。
この活動が一番ワクワクするわ!