ふたりのリズムで
クラブで出会い、一緒に歌い、いくつかの冬を越えて僕らは結婚した。突然歌詞を書いて歌うという無茶振りがすぎるカフェで想いを伝え合い、付き合い始めた。これは、そんなふたりの最初の冬の思い出の話。
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街はクリスマスに染まっている。ふたりで互いのプレゼントを選ぶことにした。
君のリクエストで家電量販店の楽器売場へ。小さい頃からピアノを習っていたと言っていたのを思い出した。
「私へのプレゼントはこれ。君へのプレゼントはこれね。」
君はいつも強引だ。でも、そんなところも好きだ。僕は電子キーボードと謎のボタンがいくつか並んでいる機械を購入した。お互いのクリスマスプレゼントを買ったのに、両方僕が払ったことについて疑問に思うのは数日後のこと。
君が寒いのが苦手と言ったのでカラオケ店へ。部屋に入るとすぐに君は音量を下げ、無音にした。そして、買ったばかりのプレゼントを勝手に二つとも開ける。「許可はもらっているから大丈夫」と、電源コードをつなぐ。君の計画通りのようだ。
「両手の人差し指を出してください。」
何が始まるのかわからなかったが、指を出した。君は僕の指を機械のボタンの上に置き、紙を取り出した。そして一定のリズムで手を叩きながらこう言った。
「紙の記号にあわせてボタンを押して。」
短いリズムを刻む。押す回数にして1小節で5回。これなら僕にもできそうだ。
君はキーボードを弾き出した。聞き覚えのあるメロディ。自然に僕の指も動く。
君が歌う。僕も歌う。ふたりの特別なあの歌を。
心が揺れる。体が揺れる。特別な歌をふたりで歌う。
演奏を終え、やりきったと思っていた僕の頬に君はキスをした。
僕は君の方を向き、くちびるを重ねた。
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「おはよう!」
過去を思い出していたら、君が起きてきた。今日も君の声はかわいい。
スピーカーからはあの曲が流れている。軽快なリズムのダンスミュージック。
ふたりのリズムに揺られながら、おはようのキスをした。
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こちらの企画に参加しました。
実は今回の小説が2作目で、"掌編小説"という言葉を調べるところから始まりました。
こちらによると800字と書かれている部分があるので、800字程度の作品に仕上げました。
短くまとめるのはかなり難しいですね。
経験がほとんどない小説に挑戦するにあたり、新規にストーリーを考えるのはかなり難しいと感じました。
そこで、過去作のキャラクターたちの力を借りて、過去作のキャラクターが二人で迎えた初めてのクリスマスを回想するということに挑戦しました。
「君」の勢いに押される「僕」という構図ですが、うまくまとめることができたでしょうか。
二人の最初の物語、この小説の中で歌われている歌と音楽は私の過去作をご覧ください。
それでは、みなさま良いクリスマスを!