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「動かない戦車」


※読了時間.約5分

※卵ふわとろ親子丼と内容は一切関係ありません




戦争が終わった。

世界から争いがなくなった。
各国の王様達はもう戦争なんてバカげたことはしないよう盟約をかわした。
そして皆で平和の象徴としての何かを飾る事にした。
しかし平和になったとはいえ、王様みんなが自分の考えたアイデアの象徴を自分の国に置きたいと、こっそり考えていた。

「やはり平和と言えばハトだろう。ハト以外に平和の象徴なんか無いからな。となると一番ハトが生息している国に像を飾るのがよいだろう。おや、この中だと私の国が一番多いようだな。仕方ない、私の国にハトの像を置こうか。」
「いやいや、ハトなんて小さいもの飾っても誰も気づかないでしょう。もっと大きな物がいい。例えば、平和といえば輪。ビルよりも大きなリングなんてどうでしょう。となると十分な鋼鉄を産出できる我が国で作るしかないようですね。」
「失礼ですが、どちらもあまり良いアイデアとは言えませんな。安定した豊かさこそ平和の証でしょう。つまり経済的に最も発展した我が国が」

何一つまとまらずに、話し合いは止むことなく続いた。
すると1人の王様が。

「どの王も素晴らしい意見だと思います。ですがせっかくの象徴なのにどれも戦争から目を背けているように感じます。世界が平和になり、全ての国で武器を放棄することを約束しました。だからこそ、見る度に戦争への危機感と恐ろしさを忘れることなく、再確認させる。そのような象徴が必要だとは思いませんか。」

他とは違う思慮深い声色。自然と王達の視線が集まる。

「そうは言うが、ならばどのような物が適当なのかね。」
「私の国は今回の戦争で最も被害を受けました。国民はいなくなり、土地は荒れ果て、資源も枯渇しました。だからこそ、最も憎むべき武器が相当でしょう。」
「なんと。武器を象徴とするというのか。」
「そうです。我が国を蹂躙した戦車などがこれにあたるでしょう。大きいので目立つし、恐ろしさもある。」
「なるほど。それを見て後世に戦争の恐ろしさと愚かさを伝えていくということか。確かに良い案だ。」

あれだけ言い争っていた王様達が口々に納得していきます。

「その王の言う通りだ。戦車ほど平和の象徴にピッタリなものはない。」
「そうだそうだ。我もそのようなことを考えていたところだった。」
「となると問題がある。一体誰が戦車なんぞ作るのだ。」
「それに万が一気が変わって、ソイツがその戦車を使って戦争を起こすとも限らないだろう。」
「それは初めに言い出した王の国で作ればいいだろう。特別に中身の無い戦車を作らせればそれを使用する心配も無い。」
「そうだそれがいい。我もそれを言おうとしていたところだった。」

発案した王の国で、中身の無い動かない戦車を作り、1番大きな街の広場に設置しました。
その戦車とやらを一目見てみようと各国のたくさんの人がその国に訪れました。
広場は人で賑わい、店が建ち人が住み、たちまちの内に思慮深い王の国は豊かになっていきました。

「へー。お父さん、これが戦車なんだね。すごい大きいね。」
「そうだな。わざわざ来たかいがあったな。でもこの下のギザギザしてるところはどうなってるんだ?タイヤじゃないよな?」
「シシシ。これはキャタピラと言って、この帯状の部品が回転することによってどんな悪路でも進むことができるんですよ。おや失礼、小生はただの通りすがりの軍オタというやつでして。」
「ほぉ。ずいぶん詳しいんですね。」
「なぁに、少し調べれば誰でもわかることです。しかし精巧に作られていますねぇ。今にも動き出しそうだ。」
「さすがにそれはないでしょう。だってこの看板にも中身は空です、と書いてありますから。」
「いや、それにしてはリアルですからねぇ。知らないでしょうが、実は戦車は軽油やガソリンといった比較的簡単に手に入る燃料で動くんですよぉ。その言葉もただ燃料タンクが空、という意味かもしれませんねぇ。こんなのが広場で動き出せば、、、シシシ。」
「そんな。悪い冗談はやめてくれ。」

これをたまたま近くで聞いていた各国の要人は驚いて、急いで自国に帰り上司と話します。

「なんだと。あの国の戦車は動くのか。」
「はい。あくまで噂ですがその可能性も捨てきれないと。」
「ただの象徴だと思って見逃していた。先の国王達との盟約で生まれた平和だと言うのになんと卑怯な。このままでは一切武力のない我が国が圧倒的に不利ではないか。」
「しかもあの国は多数の観光客により経済的に潤っており、資金も潤沢かと思われます。」
「弱小国だったと侮っていた。まさかこうなる事を全て見越していたというのか。小賢しい王め。」
「ここは秘密裏に、我々も武力を確保しておくべきかと。」
「わかった。一度王の耳に入れてくる。今一度、放棄した軍隊を再整備せねば。」

王の元へと急ぎます。


全ての戦争が終わった。

何もない荒野。
そこにはただ一つ。中に平和を願う手紙がたくさん詰まった動かない戦車がありました。

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