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思い出したので
10代の終わりにした恋を思い出したのでココに。
僕は時計店に勤めていた。主にアンティーク時計を扱うお店。沢山の時計を沢山のお客さまに購入していただいたのと、元来の忘れっぽい脳みその持ち主なので、殆どのお客さまも、時計も覚えていないのだけれど、彼女に売ったその時計のことは、どこのメーカーのどんな時計で文字盤やベルトの色までしっかりと覚えている。
華奢で白く綺麗な左腕に丁寧に時計を巻いた。セールストークでもなんでもなく「お似合いですね」と声が出た。「お綺麗ですね」とは言いかけて止めた。(止めれた。)
僕の過剰なまでの接客が功を奏してか、その時計を喜んで買っていってくれた。とても嬉しそうだった。僕はもっと嬉しそうだったと思う。
数ヶ月経ったある日、彼女がその印象深い時計を持ってお店に訪れた。細く綺麗な左手首に巻かれていたのではなく、優しい風合いの淡い黄色のフェルトの袋に入れて持ってきた。時計を手に取り彼女の言葉に耳を傾けた。壊れてしまったらしい。
竜頭という、時間を合わせたり手巻きネジを巻いたりするパーツが抜けてしまっていた。
何年も経ったこの光景を今でも割とはっきりと思い出す。それだけ彼女との思い出が僕の胸に刺さっているからだろう。竜頭は抜けてしまっていたけれど。(上手いこと言った風で大したことないな…)。
話を巻き戻そう。時計のネジは巻けないけれど。(いや、だからやめておけと…)。
時計は保証期間だったので無償で修理をする事で彼女も納得してくれた。うちのお店ではこの場合に預かり書を書いてもらう事になる。住所・氏名・電話番号を記入してもらって、時計名と修理内容におよその預かり期間を僕が追記するのだけれど、彼女が住所を書いている時点で僕は声をかけていた。
「タイプです」ではない。(タイプですけれど。ど真ん中ですけれど。)
彼女が書いた住所が僕の実家の隣町だった。
そこから話は地元ネタになり、聞けば同じ歳で、隣の中学で、共通の友達まで。
その日の夜には食事をする仲になっていた。
彼女とは特別な関係にはならなかった。その時はお互いにパートナーが居たから。けれど特別な友達ではあったと思う。お互いが何かを意識した関係の友達。
何故彼女の事を今夜思い出したのかというと、10代最後のクリスマスイブイブの夜にデートをした事を思い出したから。そう、20何年か前の今夜。
小さなホールのショートケーキと小さなシャンパン。プラスチックのフォークにプラスチックのシャンパングラスを買って、僕たちの地元から少しだけ田舎に行った所にある単線の無人駅でしたデート。
何故か無人駅のホームの三人掛けのベンチに座って、真ん中にケーキとシャンパングラスを挟んで座って。今思えばおかしいくらいの寒さにブルブルと震えながら、何にお祝いをするのか分からなくて二人でゲラゲラと笑いながら、ナイフも無いのでホールケーキに両サイドからフォークで突っつきながら、シチュエーションがとにかく可笑しくて何度も笑い合いながら、乾杯をした。
結果付き合うことのなかった女性との、人生で一番楽しかったイブイブのデート。
そんなデートをまたしたいな。と、今コレを書きながら思っている