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週末美術館 "再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル" - 三菱一号館美術館

1. 三菱一号館美術館の再開館


 2024年11月23日(土)、東京丸の内にある三菱一号館美術館というこじんまりとした美術館が、約1年半の改修工事を経て再開館した。再開館後初の展覧会は "再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル" で、18世紀にフランスで活躍したトゥールーズ=ロートレックという画家と、現代も活躍するソフィ・カルのコラボレーション企画である。
 この企画、この展示会から遡ること4年前の2020年末の開催が予定されていた。と、この展示内の案内でソフィ・カルの言葉として紹介されている。しかし当時、世は新型コロナウィルスのパンデミック真っ只中だったため、ソフィ・カルが来日出来ず、4年後の今に延期になったそうだ。そして、その時はロートレックと後述するルドンをフィーチャーした展示会となったのだ。僕はその時、この展覧会に行った記憶がある。しかし、その頃は僕がルドンに関しては全くと言って良いほど無知だったため、彼に関する記憶が全く無い。
展覧会詳細(公式)

展覧会の案内板


 また今回、ギフトショップ前の小スペースで "坂本繁二郎とフランス"という20世紀前半に活躍した坂本繁二郎という日本人洋画家と彼と近しい絵画の小展示もあった。それらは三菱一号館美術館の所蔵品で、今回はおまけのような展示であった。彼の画風は洋画ではあるが、平面的で日本がの要素を備えていた。その画風に近しい画家はセザンヌで、この展示でもセザンヌのりんごの絵と彼のりんごと馬鈴薯の絵が横並びで並べられていた。この坂本繁二郎については、また機会があれば調べてみたい。

2. 三菱一号館美術館について


 関東圏在住の美術好きには有名だが、それ以外にはマイナーな三菱一号館美術館。
 ここは東京の丸の内にある "丸のブリックスクエア" という商業施設(小さな広場)内にある美術館で、三菱地所が運営している。
 建物はもともと三菱財閥の一号館として1894年に建造されるが、その後のその役目を終える。そして2009年、改装を行なって三菱一号館美術館として生まれ変わり、今に至る。
 この美術館の展覧スペースは、上野にある美術館コンプレックスに比べれば、かなり狭い。しかし、これまで19世紀のフランスの画家を多く取り上げた展覧会を開催しており(かと思うと浮世絵をとりあげることもある)、その企画の豪華さから美術好きには有名な美術館である。
三菱一号館美術館公式ホームページ

3. 今回の展覧会の主役達

3.1. アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック

 トゥールーズ=ロートレックは1964年、南フランスのアルビに生まれ、1901年にわずか36歳で脳出血によって没している。1882年、18歳(17歳?)の時にパリに出て、絵画を学ぶ。その後、死の直前にアルコール依存症(と梅毒?)によって療養生活を送られるまで、パリで画家として生計を立てる。
 彼の家系は、その血筋が9世紀まで遡ることができるフランスの名門貴族であった。その家系の影響で、おそらく近親婚の繰り返しによる遺伝子疾患があったと推測されており、下半身に骨形成不全症を患っていた。そのため幼少時代から度々骨折を繰り返し、14歳には足の成長が止まり、彼は生涯身長が低かった。
 トゥールーズ=ロートレックの作品に関しては、主にリトグラフを中心にポスター画を手掛けており、画風は被写体をデフォルメし、その特徴をとらえたコミカルなものだった。それが理由か、時折依頼者からその出来栄えにクレームがついていた。また、彼は浮世絵を介してジャポネズムの影響を受けていると考えられている。それを裏付けるエピソードとして、和装をした写真も撮っていた。これは今で言うところのコスプレ・セルフィーである。

3.2. ソフィ・カル

 ソフィ・カル、1953年パリに生まれ、パリで育った生粋のパリジャン。現在も芸術活動中。作品は写真とテキストの組み合わせが中心で、彼女はいわばコンセプチュアル・アーティストである。また、左翼活動家としても有名で、世界中でデモにも参加している。都市の道路を占拠して、そこに自身のメッセージを書き込むことも彼女の芸術の一種と言えなくもない。だが日本ではあまり彼女の左翼活動家としての側面は取り上げられず(もちろんゼロではない)、彼女のアーティストとしての側面のみを主に取り上げている。これは、ソフィ・カルの芸術を理解することを困難にしている。
 この点に関しては僕が不勉強であるため割愛する

4. 展覧会 の詳細

4.1. トゥールーズ=ロートレックについて

 今回のメインとなるのはロートレックの作品は、三菱一号館美術館所蔵のメイ・ミルトン、アリスティド・ブリュアンやジャヌ・アヴリルといったトゥールーズ=ロートレックが頻繁に描いた俳優達のリトグラフだった。だが中にはフランス国立図書館蔵のリトグラフの試し刷りを、その試したピースの刷り毎に展示しているコーナーもあった。普段我々はそれらのピースを合わせた完成系のみ目にしているのだが、今回のこの試みはとても新鮮だ。
 そして、この美術館の特徴、というか最近の美術展の特徴として、今回の展覧会でも、作品の写真撮影が許されたエリアも設けられていた。海外では許可されている場所も多いが、日本ではまだまだ稀だろう。その中で僕が気に入ったのがこの “l’Artisan Moderne (現代の職人)”。この作品は僕がこれまで観てきたトゥールーズ=ロートレックの作品には珍しく女性が美しい。ただそれだけで気に入った。

僕が気に入ったトゥールーズ=ロートレックの作品


4.2. ソフィ・カルについて

 コンセプチュアル・アーティストのソフィ・カル、この展覧会では一言+写真のような展示(一言書かれた布があり、それをめくる言葉に関連する写真が表れる)といった展示がなされていた。これらは元々2020年10月から展示が予定されていたが、新型コロナにのパンデミックにより、今年まで延期されていた。こうして中4年の空白期間を経て、ロートレックとソフィ・カル(とル・ドン)によるコラボ企画の展示会が開かれるに至った。
 ロートレックと同様、ソフィ・カルも撮影が許されたスペースがあった。そのなかで、僕が気に入ったのがこちらである。
 このように意味深な写真、それを補うようなメッセージがソフィ・カルの展示であった。

僕が気に入ったソフィ・カルの作品

 この作品上部に書かれた文章を Google Translate よって翻訳した結果が以下のとおりである。

Google Translate による翻訳


5. その他

 ここからは展覧会とは関係がない内容。

5.1. 丸の内ブリックスクウェア

 丸の内ブリックスクウェアは僕にどことなくロンドンのサマセット・ハウスを想起させる。そこにはコートオールド・ギャラリー (The Courtauld Gallery) というロンドン大学コートオールド・インスティテュート付属ギャラリーがあり、都会の小さな区画にこじんまりとしたギャラリーが置かれているという構造はここによく似ている。そのため、丸の内のこの界隈を歩くとロンドンを思い出す。

三菱一号館美術館前

 16時前に美術館に入り、出てくるともう夜になっていた。夜のブリックスクウェアは美しい。

三菱一号館美術館エントランスから眺め


5.2. 丸の内クリスマスイルミネーション

 毎年恒例、丸の内のクリスマス・イルミネーション。
 僕もいろんな国でクリスマス・イルミネーションを見てきたが、日本のクリスマス・イルミネーションは世界屈指の煌びやかさである。それにしても、このストリートの物価はすごい。ストリートショップのカレーパンが一個で600円、もうロンドンでもそこまでいかないだろうというレベルだ。

丸の内でクリスマスイルミネーションされているストリートの入り口

 温暖化のせいか、12月の初めでも木々の黄葉は進んでいない。まだ緑の残る冬のストリートはなんだか違和感があった。

丸の内のクリスマスイルミネーション


5.3. ルドン

 この三菱一号館美術館のコレクションにルドン (オディロン・ルドン) の "グラン・ブーケ" という作品が展覧会の最後に展示されていた。
三菱一号館美術館所蔵品 (公式)
 ルドン、1840年フランスのボルドーの生まれ、1916年パリで没する。僕はルドンの名前は聞いたことがあった。それは以前、山田五郎氏の Youtube チャンネル、"山田五郎のオトナの教養講座" でルドンのことをフィーチャーしていたからだ。 このチャンネルによると、ルドンの代表的な作品として多くは一つ目の巨人など、常人には理解し難い空想上の生物が取り上げられていたからだ。
 それに対しこの美術館のグラン・ブーケは華やかで、Youtube チャンネルの紹介とは程遠いモノだったため、その作品を観て「ふーん、華やかで素敵な絵だ、作者のことは知らないけれど」と思いながらしばらく鑑賞していた。一つ目の巨人や蜘蛛の絵はよく分からないが、このグラン・ブーケは、僕にただただ「明るくて装飾としてはすごく良い絵だ」と思わせた。


5.4. 三菱一号館美術館の館内

 美術館の館内廊下と階段。
 ここも展示会とは関係ないが、とても趣がある。きっとこの趣きなら、美術館巡りが好きな人のみならず古い建物が好きの人も興味を持つと思う。

美術館の廊下と階段


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