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週末美術館 "カナレットとヴェネツィアの輝き" - 新宿 SOMPO 美術館にて

1. "カナレットとヴェネツィアの輝き" 展

先日 、僕は仕事で新宿に来ていた。
その時、偶然 SOMPO 美術館の脇を通り過ぎると、"カナレットとヴェネツィアの輝き" という展示の看板が掲げられていた。すぐにスマフォで調べてみると、この展示会はヴェネツィアで活躍したカナレットという風景画家と、主に彼が描いたヴェネツィアの風景画を扱った展覧会だそうだ。
「ヴェネツィアかぁ。8年前のイースターの時期に行ったなぁ」
そう考えたものの、僕はカナレットという画家のことは全く知らなかった。それでもヴェネツィアというワードに惹かれ、僕は昨週末にこの展覧会を訪れた。

入り口の展示案内


2. カナレットとは?

カナレット、本名ジョヴァンニ・アントーニオ・カナールは17世紀末のヴェネツィアに生まれ、18世紀の中頃まで活躍した風景画家だ。彼は舞台美術家だった彼の父に教えをうけ、舞台美術かとしてキャリアをスタートさせたが、後に風景画家として才能を開花させる。
彼の絵は、特にグランド・ツアーで各国を周遊していたイギリスの貴族に尊ばれた。その理由は彼の描いた絵を見るとよく分かる。なぜなら、少なくともこの展示会に掲げられていた彼の絵には宗教観が無く(当時は宗教が多かった)、人物はかなりデフォルメ化されているが建造物の描写はかなり細かい。そして、その舞台がヴェネツィアということもあり、水辺と船を描いた多い。そのため、水辺と船のある風景画を好むイギリス人を惹きつけたようだ。
下の絵はカナレットと、同様に有名だっただったヴェネツィアの画家のアントニオ・セヴァンティーニの版画である。

カナレット (左) とアントニオ・セヴァンティーニ (右) の版画


3. ヴェネツィアの風景

3.1. サン・マルコ広場

先ほども述べたが、自分は以前にヴェネツィアを訪れたことがある。だからその際に撮った写真と、展覧会で撮影が許可されている絵を比べてみた。まずは "サン・マルコ広場"。それらを見比べてみると、その絵の詳細さもさることながら、300年近く経った今でもよく保存されている美しいヴェネツィアの風景に驚嘆する。

サンマルコ広場 (上, 著者撮影) と
カナレット作のサンマルコ広場 (下)


3.2. ため息の橋

続いてカナレットの影響を受けた "ウィリアム・エッティ" の "ため息の橋" 、これは罪人が牢獄に投函される直前、最後にこの橋を渡って投獄されたそうだが、ここで最後に外の風景を観てため息をこぼしたという逸話がその名前の由来となっている、を比べる。なるほど、これもとても詳細だ。

ため息の橋の写真 (左, 著者撮影) と
エッティ作のため息の橋 (右)

そして、その詳細さを確認するために、自宅に帰り以前に自分が撮った写真と見比べた。すると、建物への入り口と奥の景色から、この絵は実際の風景と左右が反転しているような気がした。これらを見比べて、そんなことは絵の説明に書いてはいなかったのだが、ひょっとしたらエッティもカナレットと同様 "カメラ・オブ・スキュラ" を利用して構図を考えたからではないだろうかと推測した。このカメラ・オブ・スキュラは、その後銀板に感光して景色や肖像をリアルに映し取るカメラの原型で、17世紀のゴシック期から一部の画家が利用している。この器具を通して物を見ると、当立像が観察部に投影されるため、像が上下左右反転する。下の写真はこの展示会で用意されていたカメラ・オブ・スキュラを覗き込んだところだ。

カナレットの肖像 (右上)、カメラ・オブ・スキュラ (左)、そしてカメラ・オブ・スキュラから覗いたカナレットの肖像 (右下)

カナレット以外の画家で有名なカメラ・オブ・スキュラの使用者は、例えばオランダの画家ヨハネス・フェルメールが挙げられる。フェルメールもこの器具を利用して、構図を考えていた。
しかし、エッティが本当にこれを使用していたかどうかは、本当のところは僕には分からない。

4. ロンドン、ウェストミンスター

カナレットは観光地としてヴェネツィアが下火だった頃の一時期、イギリスに住んでいたことがある。その時に彼が描いたウェストミンスター・ブリッジがこれだ。

カナレット作、ウェストミンスター・ブリッジ

美しい絵だ。しかし、僕はこれにも違和感を感じた。

“ウエスト…”の右端の拡大図

だがため息の橋を眺めていた時と違い、僕はその違和感の正体を、数分この絵を眺めていてすぐに気付く。それはこの絵に "エリザベス・タワー (2012年にエリザベス前女王の在位60年を記念して命名)"、通称 "ビッグ・ベン"、が無いのだ。それもそのはず、エリザベス・タワーは1859年に建造されているため、カナレットが生きた時代には無かったのだ。

エリザベス・タワー (著者撮影)

その部分を除くと、この絵はとてもしっくり来る。そして、テムズ川を挟んでウェストミンスターの対岸に位置するランベス (ロンドンの一行政区) 付近から眺めたその風景が今でもその美しさをよく保存していることが分かった。

5. ひまわりの比較
- ナショナル・ギャラリーと SOMPO 美術館

展覧会の最後に、SPOMPO 美術館が誇るヴィンセント・ヴァン・ゴッホの "ひまわり" が飾られていた。そこで、僕が以前に訪れたロンドンのナショナル・ギャラリーで撮ったひまわりと、それを比べることにした。
下の左の絵がなショナル・ギャラリーのひまわりで、もう一方が SOMPO 美術館の所蔵品である。
簡単に調べたところ、右の作品は左の作品のコピー (とは言ってもゴッホの作品) だそうだ。確かにその構図は非常によく似ている。一方には "Vincent" というゴッホの署名が有り、また筆のタッチも色彩も違いはあるのだけど、どちらも静謐画でありながら荒々しさを感じる不思議な絵だ。

ナショナル・ギャラリー版ひまわり (左) と
SOMPO 美術館版ひまわり (右)

こうして、 2024年10月から12月末まで SOMPO 美術館で開かれている"カナレットとヴェネツィアの輝き" の感想を書き終えることにする。

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