おじいさんと私
少し重い話ですので読む際はお気をつけください。
実は数カ月前に同じアパートの同じ階に住むおじいさんが亡くなりました。
そのおじいさんとは挨拶をする程度の関係でした。
おじいさんの最初の印象としては、見た目や体型が相まってちょっと不気味でちょっと怖いなという印象でした。しかもたまに換気扇からタバコの臭いがしたため、あまり良い印象はありませんでした。
しかし駐輪場で初めて会って挨拶をした際、明るく笑顔で返してくださり、「あ、悪い人では無さそう」と印象が少し良くなりました。そしてそこからは会うたびに「こんにちは〜」「暑いですね〜」と軽く挨拶をする程度の関係になりました。
そんなある日、
私がバイトへ行こうと部屋を出た時、おじいさんの部屋から足だけが出ているのが見えました。
「あれ?倒れてる…?」
そう思いながら恐る恐る近づきました。
横目で確認するとおじいさんは玄関に足を伸ばす形で座り込んでいました。
そして「すみませ〜ん」と私に話しかけて来ました
私は「大丈夫ですか?」とすぐに声をかけました。
すると「すみません、、飲み物買って来てもらえませんか?ちょっと立てなくて、、」と弱々しい声でお願いしてきました。
私は「もちろんです」とお金を受け取り、
すぐに下の自販機へ飲み物を買いに行きました。
そして渡しながら
「大丈夫ですか?」ともう一度聞きました。
すると、
「うん、ありがとねぇ」と言いながらゆっくりと玄関を閉めて部屋に戻って行きました。
私はバイトがあったこともあり、
それ以上は何もせずにその場を去りました。
しかし、バイト中もずっとおじいさんのことが気になっていました。
その時季節は暑い夏で、そんな中で飲み物も一人で買いに行けないような状況というのが冷静に考えたらかなり心配だったからです。
そして、バイトが終わったらもう一度様子を見に行こうと思いました。
そしてバイト帰り。
おじいさんの部屋の前に行きました。
しかし、私はインターホンを押せませんでした。
なんだかお節介な気がして勇気が出なかったのです
そしてそのまま帰りました。
それ以降もずっとおじいさんのことが少し気になっていました。
というのも、
おじいさんの部屋のトイレの電気がその日以降ずっとついていたからです。
私はなんだか嫌な予感がしました。
しかし、
インターホンを押すことはできませんでした。
勇気が出ませんでした。
そこから2週間ほど私はバイトや趣味等で忙しい日々を送っていました。しかしその中でもずっと頭の片隅ではおじいさんを気にかけていました。
というのも、
ちょっと変な臭いがしている気がしたのです。
気のせいと言われたら気のせいかもくらいうっすらと、しかもどこから臭うとかでもなく、家の裏の池のにおいと言われたら納得もできるような臭いがずっとちょっとしていました。
私はそれによってますます嫌な予感が高まり、
ますます不安になっていきました。
しかし、私はインターホンを押せませんでした。
押すのが怖かったからです。
そして、
おじいさんと最後に話して1ヶ月以上経ったある時、
おじいさんの部屋の玄関に白い封筒が挟まってるのが見えました。
そしてそれは5日ほど経ってもなくなることはありませんでした。
それによって私は「この封筒がずっと挟まっているということはおじいさんは部屋から出てないな」と気が付きました。
そこでやっと私はインターホンを押す勇気が出ました。
今までずっと不安に思っていたことが、
確信に変わってしまったからです。
バイトの帰りにそのままの状態でおじいさんの部屋の前で立ち止まり、インターホンを押しました。
その時はなぜかすっと押すことができました。
ずっと前から押そうと思っていたインターホンを
やっと押すことができました。
しかし、インターホンは鳴りませんでした。
そして玄関を開けようとドアノブを回すと
鍵があいていて扉が開きました。
そして恐る恐るおじいさんの部屋をのぞきました。
夜ということもあり部屋は暗く、
なんだか不気味でした。
私は「すみませ〜ん」と呼びかけました。
しかし、返事はありませんでした。
そして電気をつけようとスイッチを押したのですが電気が止まっているのかつきませんでした。
そして、私はスマホのライトで照らして辺りを見渡しました。
その時見た部屋は少し荒れており、
床には物が散乱し、窓は空いたままで、
言葉にするのは難しいのですが、
とても人が住んでるとは思えない状態でした。
そしてスマホで照らしながら一歩踏み入れた時、
トイレの近くの床が汚れていることに気が付きました。
そして恐る恐るトイレを照らしました。
そして、私は見てしまいました。
嫌な予感は全て的中していました。
一旦自分の部屋に戻り、乱れた呼吸を整え、
警察に通報しました。
私は思っていたより冷静でした。
心のどこかでは覚悟ができていたのかもしれません
電話では通報に至った流れを説明し、
警察が来るのを待ちました。
私は次第に泣きそうになっていきました。
だんだんと状況を飲み込み、ショックや悲しさや責任を感じたからです。さっきの冷静さとは打って変わって呼吸が乱れ、半分パニック状態になっていきました。
親に連絡し心配した妹が電話で話し相手になってくれました。それでなんとか気持ちを保つことができました。
そして警察が来て、状況を伝えました。
警察がおじいさんの部屋を調べている間
私は自分の部屋で待機していました。
落ち着かなかったです。
バイト終わりということもあり疲労感で身体が重く、何もする気が起きませんでした。お腹は空いているのに何も食べる気にはなりませんでした。
そしてしばらく部屋を調べた警察は
やることを終えて帰って行きました。
そして、私は1人になりました。
すると、その瞬間目から涙が溢れてきました。
涙が止まりませんでした。
ここまでバタバタしており、落ち着く時間もなく、やっと一息ついたこの瞬間で、一気に気持ちが込み上げて来たのです。
自分のせいだ、、自分のせいでおじいさんは、、
と、自分で自分を責めました。
何でもっと早く、、何でもっと早く、、
と、強い後悔でいっぱいでした。
でも
後悔したところでどうしようもありませんでした。
そして1人でぼーっとしながら、何かはお腹にいれないとという気持ちだけでご飯を食べました。
何も味はしませんでした。
そして私はここから一人で夜を乗り越えないといけないという事実に気が付き、絶望しました。
ショックや恐怖の上に孤独感がのしかかりました。
夜の孤独さに押しつぶされそうになった私は
怖い、しんどい、寂しい、、と
色んな感情から胸がどんどん苦しくなりました。
到底一人で夜を乗り越えられるような状態ではありませんでした。
しかし私は誰かに頼るということができず、
ただただ一人で耐えることしかできませんでした。
身体はずっと小刻みに震えていました。
こういうときに頼れる人がいない、
頼り方が分からない、
そんな自分が嫌になりました。
さらに定期的に見てしまった光景を思い出しては
涙を流していました。
きっとおじいさんは怒っているんだ、
お前のせいだと恨んでるはず、
そう思ってしまい
おじいさんが怖くて仕方ありませんでした。
1人でいることがとにかく苦しかったです。
しかしその後、色々あってある方のおかげでなんとか夜を乗り越えることに成功しました。
説明すると長くなってしまうので省略するのですが本当に助けられました。
その方は今あった一連の流れを聞き、「おじいさんは怒ってなんかないと思うで。見つけてくれてありがとうって思ってると思うで」「責任を感じる必要はないし、責任を感じるなら後悔するよりも次に繋げたら良いと思う」と前向きな言葉をかけてくださいました。
その言葉のおかげで私は心が少し楽になりました。
それ以降もしばらく私は気持ちが落ち込んだままでした。出来事が出来事なのでそう簡単には切り替えられなかったですし、切り替えるべきではないような気もしていました。
そして定期的に思い出しては気持ちが落ち込み、
見てしまった光景を思い出しては
うわーっ…!!となっていました。
いわゆるフラッシュバックのような状態でした。
見てしまった光景が脳裏に焼き付き、
定期的に映像として思い出され、
その度に呼吸が乱れ、涙が出ていました。
完全に自分の中でおじいさんが恐怖の対象となっていました。その度に私は「おじいさんは怒ってない、大丈夫、大丈夫、、」と自分に言い聞かせ、なんとか気持ちを守っていました。
夢に出てきて夜中に目が覚めたり、
自分の部屋のトイレに行くのが怖くなったり、
扉を開けたらいるのではないかと考えてしまい扉を開けるという行為自体が怖くなってしまったり、
お風呂に入っている時や寝る時など長時間目を瞑るのが怖くなってしまったりと、
日常生活に支障が出るレベルでトラウマとなっていました。
また、
責任を感じる必要はないと言ってはもらったものの責任を感じずにはいられず、
しばらくは自分を責めました。
あの時一歩踏み出していたら、、
あの時インターホンを押していたら、、
後回しせずに行動に移していたら、、
人任せにせずに自分で行動していたら、、
と、後悔が止まりませんでした。
責任と後悔でまた涙が出ました。
さらに内容が内容なので周りの人に打ち明けることもできず1人で抱えることしかできませんでした。
かなり苦しかったです。
しかし、なんとか気持ちを切り替えようと必死に戦いました。辛くなった時は励ましていただいた時の言葉を思い出し、「大丈夫」「次に繋げよう」と自分に言い聞かせました。
そして1ヶ月経ったあたりでやっと気持ちが落ち着いて来ました。
おそらくあの方にあの夜助けてもらっていなかったらもっと長い期間苦しかったと思います。
そして気持ちが落ち着いて来た時、
おじいさんの部屋の前で手を合わせようと思いました。
自己満足にすぎないかもしれないけど、
おじいさんとしっかり向き合って手を合わせよう、
そう思いました。
そしておじいさんの部屋の前へ行き、
手を合わせました。
(おじいさんごめんなさい、見つけるの遅くなってしまってごめんなさい。もっと早く見つけたかった、もっと早く気がついてあげたかった。本当にごめんなさい)
そう心の中で言いました。
おじいさんが私のことをどう思ってるのかは分かりません。でも私は手を合わせたことでまた少し気持ちが楽になりました。
そしてそこから私は前に進もうと切り替えました。
いつまでも落ち込んでいても仕方ない、
せっかくあの時励ましてくださった方がいるのに
いつまでもうじうじしてたら申し訳ない、
おじいさんもきっとそんなことは望んでない
そう思い気持ちを切り替えました。
そこからもしばらくは気持ちが落ち込むこともありましたが、なんとか前に進むことができました。
なんとか普通の生活に戻すことができました
ただ定期的に夢におじいさんは出てきました。
しかしはじめは恐怖の対象だったおじいさんも
次第にそうではなくなりました。
夢の中に出てくるおじいさんは毎回ただ立ち尽くしてるだけでした。何かを伝えようとしてるのかは分かりませんが立ち尽くしてるだけでした。そして次第に私も夢におじいさんが出てくるのに慣れてきて、今日出てきたなーくらいに思うようになりました。
怒ってるのか、感謝してくれてるのかは
結局分かりません。
でも私はおじいさんのおかげで前に進むことができした。あの出来事以降、私は迷ったことは積極的に実行するようになりました。困ってそうな人がいたら話しかけるようになりました。
もう後悔はしたくありません。
だから迷ったら動く、
そう決めています。
あの出来事を活かして私は前に進んで行きます。
おじいさんもきっと見てくれてると思います。
なんならちゃんとやってるか見るために夢に出てきてるのかなとも思っています。
おじいさん、私、頑張ってるよ。
以上おじいさんと私でした。
最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。