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白昼夢の青写真 感想

シナリオC キャラC 音楽A グラフィックB+ 演出B+
総評B -

非常に惜しい作品。4つのシナリオからなる物語であり, 1〜3章までは相当面白いもののその総括となる筈のcase0があまりにも酷すぎるため全体として凄く残念なことになっている作品。世間からの評価は高く, 全年齢版も発売されているがそれは昨今の冷え切ったエロゲ業界だからこその相対評価であって絶対評価で見た時はそこまでのものではないと感じた。

良かった点

①2章
シナリオの完成度が素晴らしい。全編を通して恋愛を一つのテーマにした本作のシナリオ中で一番丁寧に男女の関係が描かれている。話も起承転結がキッチリとしていて見ていて面白く, 最後のシーンは演出の良さも相まって非常に胸を打つものであった。濡れ場の導入もスムーズかつそれ自体無くてはいけないようなシーンであったので, エロゲとして見た時にも非常に質の良い章だと感じた。
②オープニング
各章ごとに一つオープニングがあるが, それら全てストーリーに合った曲でオープニングとして最高の役割を果たしていると感じた。ムービーも曲調・曲風に合ったもので見ていてとても楽しかった。恋するキリギリスのワクワク感は異常。

悪かった点

①最終章
あまりにも酷い。最終章ありきのストーリー構成のため最終章が酷い≒作品全てが酷いとなってしまい, 読了後の心象が最悪だった。2章が伏線で最終章だけ別人が書いてるまである。
①-1:最終章としての意義
1〜3章で語られた内容が設定上は最終章のヒロインや主人公の行動原理に結びつかなくてはおかしい筈なのだが, なぜか全く結びつかない。例えばヒロインの抱えている理想は強気にモノを言えるような女の子の筈なのに全編通してずっと思っていることを全部胸の内に抱えたままにしていたり(自己犠牲で隠し事をするのは1〜3章では本当にどうしようもない時だけなためずっと隠しているのはおかしい。)。そのため今まで読んできたものはいったい何だったのだろうという気持ちになる。この最終章をやるなら1〜3章は要らない。
①-2:理解できない心情
①-1に伴い本来は最終章前までの情報で最終章登場人物の心情を理解できるはずだからか, 最終章では登場人物の心理描写がだいぶ省かれている。しかし実際は1〜3章と最終章で心情がそこまでリンクしていないため, 理解できない展開が多くなる(なぜか主人公の冴えない男を急に好きになる美少女ヒロインだったり。)。
①-3:主人公
主人公に一切の魅力がない。1〜3章の主人公には全員男らしさや魅力というものが少なからずあったが, 最終章の主人公はただのマザコンである。主人公の中での優先順位が母親>自分>ヒロインであるため恋愛ゲームをしている筈なのに主人公はそこまでヒロインのことが好きじゃないという矛盾を抱えながらプレイすることになる。しかも主人公がヒロインを放ったらかしにし続けた結果...って感じなので擁護のしようがない。また, 主人公はその能力の都合上全編を通して1ミリも成長も堕落もしないため物語性を持っておらず, そもそも主人公として失格感さえある。間違いなく今までプレイしてきた作品の中で最も不快な主人公。
①-4:オマージュになっていないオマージュ
作中に用いられる用語やストーリーから察するに最終章は「穢翼のユースティア」を少なからず意識して似せたものだと思うのだが, ユースティアではあった筈のメッセージ性が完全に失われているためただの上辺をなぞっただけの, パクることさえ出来ていない残念なシナリオとなっている。たまにいる白昼夢>ユースティアとかいうふざけた評価をしている文章の読めないオタクは一回小学生の国語からやり直した方がいい。
①-5:ラスト
2章で悲劇の定義づけが為されているが, それが「幸せのために全力を尽くした, 幸せになる権利を持つものが不幸になる」という(大体こんな感じだったはず)ものである。最終章の主人公とヒロインは互いに十分に話し合わなかった結果気づいたら不幸になっていただけなため, この定義に照らし合わせると悲劇にすらなっていない。気づいたら勝手に不幸になっていたピエロを見て一体何を思えばいいのか。笑えばいいのか。自分がこのラストが好き嫌いとかじゃなくて同一作品内で否定されているのが残念だと思う。
①-6:説明がクドい
物語を構成する上で世界観は重要であるが, その上で世界観を全て語らずとも物語は成り立つのが事実である。そこで多くの作品は世界観を大事にしつつも, 細かく全てを語っていては作品の面白さが損なわれてしまうため, ある程度出す設定を取捨選択しながら, 表現を工夫しながら文章を作成している(ジブリ作品などがいい例だと思う。)。しかし, 今作の最終章は本当に1から10まで, 全部丁寧に丁寧に説明する。そのため中弛みが強い。他の章ではそこまで世界観についてクドく説明が為されていなかったこともあり, 最終章ではこのクドさがさらに強く感じられるというのも個人的には大きなマイナス点だと感じた。一流の映画監督や小説家は読み手の感情の起伏を考えながら物語を構成すると言うが, 自分が考えた世界観を全部書きたいという欲求のために一番盛り上がるべき最終章で読み手の気持ちを減速させるのはナンセンスであるとしか言いようがない。世界観の説明はもっと簡単にして, 細かいところは設定資料集にでも載せるのが本来のやり方なのではないかと思った。想像である程度補完できるし, あくまでもメインは主人公とヒロインの物語なのだから。

最後に

最終章に入るまではエロゲ全体で見た時にもトップクラスの作品だと思うのだが, 最後が酷いだけでここまで作品全体が崩壊してしまうのだと思い終わった時に非常に悲しくなった。せめて最終章が最高でなくてもいいから普通だったら, まだ良かったのにとどうしてもそう思わずにはいられない。

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